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38 記憶 side 陸

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あぁ、本当に、αはろくでもねぇよな。
あんだけ生徒会役員の義務として歌わされてたってのに、当日、実はカッキーが渡とわかって込める気持ちが変わった。
ずっとずっと会いたいと思っていたくせに、全く気付きもせず、傷付けて泣かしてフェロモンまでぶつけていたとか本当に情けなくて。
渡への懺悔を込めたのが、あの日の「運命」だった。

けど、今なら。

どれだけ渡のことを想っているか。
変異種Ωにした俺のことを憎みもせず、俺に抱かれることさえ躊躇しねぇとか。
渡が実在してんのが不思議なレベルだ。
まるで、歴代笹部一族の理想が凝縮してんじゃねぇかと疑っちまう。
こんな俺達に都合が良すぎるΩがいていいのかよ。
なんで、変異種Ωになれて良かったとか思ってくれるんだ、この天使は。

緩やかに、囁くようにラップを刻む。
あの夏から今日までを順に思い出し、いつも会いたくて堪らなかった存在がここにいることへ感謝を込める。

諦めようとして、無理で。
諦めなきゃと念じても、無理で。
諦めたつもりで、でもやっぱり諦めきれず。
相手のことを慮っても、ただ自分が会いたいだけだった。
偶然でもなんでも良い。
憎まれても良いから、俺のΩと出会いたかった。

ずっと探し求めていた俺のΩ、俺の渡。

途中で不意に渡の重みが増し、スヤスヤ寝息を漏らしてる顔を覗いても最後まで続けた。
夢の中でも、この歌がお前に届けば良い。
どれだけお前に会いたかったか、面と向かっては俺の立場からじゃ話せねぇけど。

あぁ、でも渡なら。
なんか、喜んで聞いてくれそうだよな。

最後のフレーズに想いをのせ、声に託す。
余韻に浸って目を閉じると、長年行き場もなく募らせてた気持ちを歌に乗せて外に吐き出したからだろうな。
身体から自然と力が抜けていった。
けど、空になったわけじゃねぇ。
俺の中は、渡への気持ちに満ち溢れてる。
かなちゃんにベタぼれな菊川のことを嗤えねぇな。


「んん、りくぅ・・・好きや、で」


俺の腕の中で漏らした渡の寝言に顔がニヤつく。
んなとこ言われたら、萎えるもんも萎えねぇわアホ。
流石に寝にくいだろうと渡を隣に寝かし直す。
動かしても、全然目覚める気配がねぇな。

発情フェロモン無しで抱かれたい、とか。
そのために練習までしてる、とか。
触りたい、とか。
慣らしてくことにもなんか前向きなんだよなあ、このエロ天。

ったく、明日から覚悟しとけよ。
恋愛小説みてぇには、いかねぇぞ。
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