Ωにしちゃってゴメンナサイ

三日月

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1 病室

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 スヤスヤ規則正しい寝息が漏れるすっと伸びた鼻筋、時折むず痒く震わせる桜色の唇。今は閉じている瞼の下には、夜空よりも深い藍色の瞳が隠れている。
 初等部から一番近くにいた自信はあったが、こんなに無防備な姿を見るのは修学旅行ぐらいしかなかったなぁ。
 見慣れない寝顔を眺めながら、笹部ささべ はがねは病室のベット脇の椅子に座り、彼の目覚めの時を待っていた。

 清潔ではあるが、決して寝心地が良いとは言い難い固い病院の簡易ベットに横たわるのは、笹部鋼の同級生であり親友、穂高ほだか 千里せんり
 選ばれたαにのみ門戸を開ける優生学園の頂き、生徒会を取りまとめてきた元生徒会長。三月に卒業を控え、前期をもって業務から退いたが、未だに彼のことを生徒会長と呼び慕う生徒は多い。
 歴代の生徒会長が誰もなし得なかった、初等部から高等部まで全ての生徒会長を歴任した優生学園の主だ。

 笹部は、穂高の眉毛にかかる前髪をむやみに起こさないよう慎重に指で左右に流し、穂高の寝顔を堪能する。昨夜、一時目覚めた時は、二日続いた高熱がやっと下がったばかりで彼の意識は朦朧としていた。
 「は、がねか?」と、目覚めの一番に掠れた声で名前を呼ばれた嬉しさに感極まり、危うく抱きついてしまいそうになった。弱った身体に、自分のような自制が効かない人間が触れればどうなるか。しかも、高熱の原因が誰のせいなのか自覚していた笹部は、なんとか踏みとどまることに成功した。そして、警戒心がない安心しきった穂高にペンを取らせ、ある書類に名前を書かせ、そのあと「お腹が空いた」とぐずる口に喜んでお粥を運んでやり(もちろん、ふぅーふぅーと一回一回息を吹き掛け適温になったか確認した)、寝ついてからも離れず側にいる。

 そう、焦ることはないよな。

 笹部は、自分に反省が求められているとわかっていても、学園内で倒れた穂高を見てからこの病室に移されるまで笑ってしまうのを止められなかった。同年代のαを集めた交流会で見初めてから、高等部三年の今に至るまで。ずっと目の前にあるのに諦めていたものが、思いがけなく手に入ってしまった・・・

「ちーちゃん、怒るだろうなぁ」

 そう呟く笹部の声は、心配しているようには全く聞こえない。満面の笑顔で、自分の眠り姫に怒られるのを待ちわびていた。
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