Ωにしちゃってゴメンナサイ

三日月

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1 病室

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「ここは、学校から一番近い総合病院の個室だ」笹部は、穂高に答えながら自分が話す順番を正確に思い出そうとしていた。

 まず、自分はαやβをΩに変えてしまえる特殊な力があることを話すのは必須だったよな。初日に現れ、自分の頭に鉄拳をお見舞いした父親を思い出し自然とその場所に手が伸びる。痛みは未だに消えず、腰まで伸ばした長髪で隠れているがたんこぶが隠れている。
 あそこまで殴らなくても・・・と、笹部が思わず顔をしかめたことで、ベッドに横たわる穂高に深刻な病気で倒れたのかと勘違いさせたことには気付いていない。鈍い痛みがどれだけ長引こうが、しかめっ面をしていようが、嬉しい方が勝ってしまい気持ちはふわふわと浮わついて集中力を欠いていた。

 笹部家に生まれたαは、代々変異種Ωを生み出す求愛給餌特化型の力を受け継いでいる。近親相姦を回避するために三親等内の家族には効かず、格上のαも変えることは出来ないといった例外はあるものの、お互いに友情、恋愛、評価といった種類を問わず好意があればその対象に入る。
 昔は、番の申し込みとそれの承諾を言葉にする必要があったのだがいつしか簡略化されてしまった。食べ物を相手に与え、相手から自分が受け取り食べてしまえば相手を変異種Ωに変えてしまう力は脅威として残った。
 その間隔をどれくらい空ければ無効になるかわからないため、笹部家は人に物を与えることはあっても無闇に他人から食べ物を貰わないことを幼いときから徹底して教育される。自分が与えたものを食べている姿を眺めることが多幸感に繋がるため、与えてはいけないという教育にならなかったのが最大の問題点。周囲に自分から地雷を仕掛けるようなものだ。

 笹部鋼も例外ではなく、優生学園ではお菓子をやたらと配り歩くため「スィーツ王子」として有名人。今回うっかり自分が変異種Ωにしてしまった穂高には、初等部の頃からお菓子を与えていた。しかも、他の誰より一番多く。笹部の場合、与える量は素直に変異種Ωにしたい気持ちと比例していた。

 共に在籍していた生徒会も代替わりし、一緒に活動する時間も減っていた。3月の卒業式を過ぎれば、もう会えなくなるのかと焦燥にかられていたのだ。穂高は、そんな笹部の気も知らず、あの日「飲むか?」と飲みかけの紙コップを渡してきた。
 同じ食べ物を分け与えることは、求愛給餌特化型にとって求婚と同義。それを断る余裕がその時の笹部には無く、嬉しさに我を忘れて気付いた時には喉元を過ぎた後だった。
 
 つまり、今の笹部は。
 長年変異種Ωにしたかったその願いを叶えてしまっただけでなく、勝手な解釈だが求婚されたような気持ちまで味わい幸せで仕方ない状態だった。
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