Ωにしちゃってゴメンナサイ

三日月

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2 寮-Ⅰ

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 着崩した私服のジャージに寝ぼけた顔。ボリボリと頭をかくとつられてモサモサ揺れる髪は滑稽なピエロだ。しかし、笑いを誘う姿を前にして漆戸にはその余裕が残されていなかった。外見以外の全て、その存在自体に圧倒され息を呑む。
 つり上がった三白眼が、好意の欠片もない観察行為で自分をふるいにかける。値踏みした端から見下げられ、マウントフェロモンを放たれても対抗出来ない。その威圧感にあっさりと屈し、膝が小刻みに震えていた。時間にして、数秒。けれどその初見の一瞥で格下と烙印され支配下に置かれた。優生αの誇りと力を持って生きてきた自分が、穂高相手なら逆にねじ伏せることも出来た自分が、手も足も出ない。こんな事態に陥るなんて、この部屋に入るまで考えも及ばなかった。
 なぜ、ここまでされるのか分からない。ただ、自分に与えられた部屋に入ってきただけだ。反感を買う時間なんて無かったはずだ。漆戸は、なぜなのかと問いたくても口には出さない。この男に逆らってはならないと警鐘がワンワン頭の中に鳴り響く。強制支配を叩き込まれたショックで目眩をお越し、スーツケースの取っ手を掴み直した。
 ここまでのことをされているのに、同室の穂高はまるで気付いていないようだった。眼鏡の縁を指で押し上げながら、支配者の生徒を平然と見上げている。漆戸は、正直この部屋から逃げ出したかった。ヒタヒタと足元から絡みついてくるフェロモンが、「立て」「気取られるな」と呪怨のように囁いてくるからそれを実行には移せなかったが。
 「おい、起きたならさっさと降りてこい。
 いつまで人の寝床を占領しているつもりだ」
 漆戸が震え上がるほどのα相手に、目の前の格下αは臆することなく注意し、しかも当然のように行動を命じたので思わずその場で後退ってしまった。
 「倒れるな」とフェロモンに命じられていなければ尻もちをついていただろう。穂高が漆戸の動きに気を引かれ振り返るよりも先にドンッと床が鳴った。
「へいへい、ちーちゃんの寝床を温めてたのになぁ」
 新しき自分のリーダーが、素直に従い二段ベッドの上から飛び降りてのんびりと嗤う。力が全てと言っても過言ではないαの世界で、立場の逆転したやり取りは異質で理解し難い。本来なら無礼な穂高の頭を床に押し付けるのが自分の役目だが、何もするなと目で匂わされ漆戸は従った。
「俺は、笹部 鋼だ。
 ちーちゃんのこと、よろしくな」
 漆戸は、今までのやり取りなど無かったかのように笹部から気軽な素振りで手を出され、応じろと目を細められたのでその手を取るしかなかった。ビリビリと、直接マウントフェロモンを送り込まれ顔が引きつる。ここまでされれば嫌でも分かる。αの常識など無視して笹部は穂高に従っている。しかも、自分の力を隠している。
 笹部は、漆戸に向かってニッコリと笑った。真正面から自分を見据えた目が「笑え」と命じてくるのでなんとか口角を上げたが上手く笑えているか自信は無かった。
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