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2 寮-Ⅰ
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千里は、いつも正しくあろうとする。笹部の父親が千里に直接説明と謝罪に訪れたときでさえ、 「悪いのはバカネですから」と頭を上げさせ責める相手を間違えなかった。千里のそんな頑ななまでの真面目で融通がきかないところが、笹部は昔から好きだった。正直愚かだと思うときもあったが、笹部にとってはそれをひっくるめて『可愛いちーちゃん』なのだ。
受付窓口に二人で並んで座り、笹部は退院手続きの書類に眉間に皺を寄せながら『笹部 千里』と書き込んでいる千里の横顔をニコニコ笑顔で眺める。不本意だと表情に出していても、戸籍上正しい名前を選ぶところが千里らしい。(あー、俺のちーちゃん可愛いなぁ)と甘ったるい視線を送ってくる笹部に、益々千里の表情は険しくなる。
笹部が父親から預かっていた現金で支払いを済ませると、その眉間の皺は一層深まっていた。多分、自分の入院費用を支払われていることに感謝した方が良いのだろうか、いや、そもそも原因は⋯とか、そんなことを考えているんだろうなぁと笹部には見当がついていたが敢えて触れない。何を言っても藪蛇だし、何を言われてももう自分は千里を離すつもりは無い。
寮に向かうタクシーの中で、千里の指先はタートルネックで覆われた首周りを不安げに何度も往復していた。その下にあるのは、病室を出るときに笹部に着けられた番避け。千里の中で、笹部への怒りより生徒も教師もαしかいない優生学園でΩが生活することへの不安の方が大きく膨れ上がっているのが流石に笹部にも伝わって来た。
「ちーちゃん、寮は俺と同室だし、俺が絶対他のαには触れさせない。大丈夫だよ」
「⋯お前が言うな」
イラッと睨まれても、笹部は幸せいっぱいの笑顔を返す。入院中、笹部は千里に対してずっとこんな調子だ。確かに、昔から自分にはやけに甘いと思うことはあったがここまでじゃ無かった。それが、Ωとして扱われているからだと分かり過ぎて苛立ちが増す。千里は腹立ち紛れに、隣に座るその足を軽く蹴飛ばしてみたがこれも笑顔で返された。
フェロモンが使えなくなった心許なさは、笹部のフェロモンで周りを固められても変わらない。こんな丸裸の状態で、半年も今までと変わらない三冠生徒会長『穂高 千里』として過ごさなければならないのか⋯一体、なんのために?
車窓に映る自分の不安げな顔を眺めていると、穂高家からは見限られ帰る場所さえ選べない状況に千里の気持ちは濁るばかりだった。
受付窓口に二人で並んで座り、笹部は退院手続きの書類に眉間に皺を寄せながら『笹部 千里』と書き込んでいる千里の横顔をニコニコ笑顔で眺める。不本意だと表情に出していても、戸籍上正しい名前を選ぶところが千里らしい。(あー、俺のちーちゃん可愛いなぁ)と甘ったるい視線を送ってくる笹部に、益々千里の表情は険しくなる。
笹部が父親から預かっていた現金で支払いを済ませると、その眉間の皺は一層深まっていた。多分、自分の入院費用を支払われていることに感謝した方が良いのだろうか、いや、そもそも原因は⋯とか、そんなことを考えているんだろうなぁと笹部には見当がついていたが敢えて触れない。何を言っても藪蛇だし、何を言われてももう自分は千里を離すつもりは無い。
寮に向かうタクシーの中で、千里の指先はタートルネックで覆われた首周りを不安げに何度も往復していた。その下にあるのは、病室を出るときに笹部に着けられた番避け。千里の中で、笹部への怒りより生徒も教師もαしかいない優生学園でΩが生活することへの不安の方が大きく膨れ上がっているのが流石に笹部にも伝わって来た。
「ちーちゃん、寮は俺と同室だし、俺が絶対他のαには触れさせない。大丈夫だよ」
「⋯お前が言うな」
イラッと睨まれても、笹部は幸せいっぱいの笑顔を返す。入院中、笹部は千里に対してずっとこんな調子だ。確かに、昔から自分にはやけに甘いと思うことはあったがここまでじゃ無かった。それが、Ωとして扱われているからだと分かり過ぎて苛立ちが増す。千里は腹立ち紛れに、隣に座るその足を軽く蹴飛ばしてみたがこれも笑顔で返された。
フェロモンが使えなくなった心許なさは、笹部のフェロモンで周りを固められても変わらない。こんな丸裸の状態で、半年も今までと変わらない三冠生徒会長『穂高 千里』として過ごさなければならないのか⋯一体、なんのために?
車窓に映る自分の不安げな顔を眺めていると、穂高家からは見限られ帰る場所さえ選べない状況に千里の気持ちは濁るばかりだった。
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