Ωにしちゃってゴメンナサイ

三日月

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9 大浴場

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 漆戸は、ブチブチ不満を絶やさない胡麻を宥めながら、引き戸を開け連れ立って浴室へ入った。群れのメンバーしかいないため、いつもより広く見える。(定員30人、とかだったか?)千里の群れに見せているこの群れは、歯向かう対象には微塵も容赦はしないがそれ以外には常に優しく穏やかに接していた。αの能力が絶対的な物差しであり、弱いαは強いαの視界に入ることさえ躊躇するα社会の常識に反して、自分たちと浴室を使用する時間が重なっても出ていくどころか進んで話しかけてくる生徒もいるくらいにはなめられ、いや、慕われていた。漆戸は、寄ってこられても笑顔を貼り付けて対応することに慣れてしまっていたため、ガランと人気のない浴室に肌寒さまで感じてしまう。
「うわー、こんな広かったっけ」
 後から来た胡麻も同じ感想を抱いたらしい。その口から思わず言葉が溢れていた。漆戸も「みたいだな」と同意する。何故、急に貸切で使用することになったのかはわからないが、鋼と千里から離れていればこの時間帯はそこそこ気を抜けそうだし、他に人もいないなら有り難いのでは。鋼は、千里さえ近くにいれば命令を思いつくより、千里にちょっかいをかけて怒られている方が本人も楽しそう、そして漆戸も無茶振りな命令も無く動かなくて済むから楽で良い。それでもとばっちりはゼロとは経験上思えないので、一番離れた場所にいようと密かに決意したのだが。さっさと胡麻が逆方向、鋼と千里のいる方へ当たり前のように歩いていくので「ちょっと待て」と思わずその背に声をかけそうになった。
 折角なら広々使えば良いのに、先に入った5人は一箇所に固まり早速揉めていて、そこに胡麻まで行くとひとり離れた自分が悪目立ちすることになる。漆戸がどこにいようと、鋼は気にも止めないだろう。が、何かと気を回してくる(そして気を回されていると、鋼が不機嫌になる)千里はそうも行かない。「なぜ、来ないんだ?」と声をかけてくるのが目に見えていた。ここで咄嗟に胡麻を呼び止めても、不自然だ。焦りすぎてうまい理由が思いつかない。
「ちーちゃんの背中は、俺が洗うっ」
「お前にだけは洗われたくないっ」
「では、俺がっ」
「まぁまぁ、先輩、代わりに俺が先輩の背中洗いますって!こちらに座ってくださいよー」
「いらねぇ」
 千里が一人椅子に腰掛け、その周りを取り囲む鋼と木曽。鋼の背後には、築花がその背を洗いたくてソワソワと待機し、峯森はそんな築花の身体に湯桶で湯を掛けてやっている。こんなに広い、洗い場さえ壁際と浴槽の間に2列あるというのに!
「なら、俺が洗ってやるよ」
 そこに参戦していく胡麻には、今まであった痛い目の記憶は全て欠落しているに違いない。漆戸はため息を心の中で留め、余波を受けずに済みそうな千里の3つ隣の椅子に座るべく動いた。
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