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11 大浴場-Ⅱ
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そして、千里は油断もしていたのだ。鋼のことだ。自分が呼べばどんなときも「なーに、ちーちゃん」といつものニコニコ笑顔を浮かべると思いこんでいた。何が鋼の怒りに触れたのかは全く分からないが、なんとかこの場の空気を変えねば鋼のフェロモンに全員気を失いかねない。千里は、鋼の従属フェロモンのおかげで、同一人物から絶え間なく放出されている怒りと殺意を含む攻撃フェロモンからは守られている。守られてはいるが、殺意そのものは素通りなので震えは止まらない。それ以外の6人は、攻撃フェロモンの渦の中で無防備な状態なのだから千里よりも受ける影響は大きいだろう。
相手と拳を交えていようが、とどめを刺す直前だろうが、そう、αのプライドをかけた決闘の途中であっても、鋼は千里が止めればその場を放棄。「ちーちゃん、褒めてー」と従った千里にまとわりつきにやってきていた。
穂高ナンバーズに加わっている木曽が鋼に挑んだ決闘でもそうだった。勝利の証として牙を折ろうとした鋼を、千里はやり過ぎだと止めに入った。確かに、「服従か死か」で始まる決闘において、敗者は相手への服従を誓うかαにとって死と同意である牙を折られるかを迫られる。敗者が服従を選んだとき、勝者がそれを受け入れる決まりはない。選択の権利は勝者にあり、不足と思えば牙を折ることができる。流石にその権利を観戦していただけの千里に奪われれば、鋼も黙ってはいないだろう。けれど、千里は入学早々牙を折られる木曽の将来を案じ、決死の覚悟を決めて止めに入ったのだ。
結果は、鋼はなんの文句も言わずあっさり千里の制止を受け入れた。地面に倒れた木曽に馬乗りになり、戦意を失くして縮んだ歯目掛けて振り下ろした拳がその声一つで叩きつけられる寸前に止まった。拳圧が木曽の頬を切るほどの本気、が。折られたと錯覚した木曽はその場で失神。鋼は、だらりと地面に落ちた木曽を一瞥すらせず立ち上がり、垂れ流していた攻撃フェロモンもなんの執着も無く消し去った。
自分のプライドを賭けた勝利の確定よりも、格下リーダーの命令を優先。その場にいたほかの観戦者や見届け人は、事の重大さにざわついたが、本人は微塵も気にした様子はなかった。千里に「止めたんだから、ちーちゃん褒めてよ~」とトテトテ近づく。鋼なりに、目の前でちょっと本気を出したせいで怖がらせたかも?と気を使ってのあざとさだ。しかし千里はそれどころではなく、辛うじて回避できた危機に安堵し放心していた。鋼が拳を本当に止めてくれるかは賭けだったため、すぐには現実味が無かったのだ。代わりに自分の牙が折られる可能性も考えていたのに。「ちーちゃん、顔怖いよぉ」と、からかい混じりに頬をぷにぷに突つかれやっと我に返った。「何をするっ」とプンスカ怒り出した千里に、「ちーちゃん、褒めるのが先だって」と頭を差し出す鋼。周囲は二人の切り替えの早さに益々驚いていた。
ちなみに、そのとき途中から駆けつけた漆戸は(ニネンメモ ガンバロウ)と遠い空を見上げて歯を食いしばった。鋼の強さと、決闘を止めて赦される千里のパワーバランスの逆転した危うさ。(これほどまでなんて、穂高さんに何かあったら牙折るだけじゃ済まないんじゃないかなぁ)
自分の属せざるを得なかった群れの弱点が、改めてこーんなに目撃者のいる場所で晒されてしまったのだから堪らない。この先にも苦労がいっぱいだぁと分かってしまったのである。
相手と拳を交えていようが、とどめを刺す直前だろうが、そう、αのプライドをかけた決闘の途中であっても、鋼は千里が止めればその場を放棄。「ちーちゃん、褒めてー」と従った千里にまとわりつきにやってきていた。
穂高ナンバーズに加わっている木曽が鋼に挑んだ決闘でもそうだった。勝利の証として牙を折ろうとした鋼を、千里はやり過ぎだと止めに入った。確かに、「服従か死か」で始まる決闘において、敗者は相手への服従を誓うかαにとって死と同意である牙を折られるかを迫られる。敗者が服従を選んだとき、勝者がそれを受け入れる決まりはない。選択の権利は勝者にあり、不足と思えば牙を折ることができる。流石にその権利を観戦していただけの千里に奪われれば、鋼も黙ってはいないだろう。けれど、千里は入学早々牙を折られる木曽の将来を案じ、決死の覚悟を決めて止めに入ったのだ。
結果は、鋼はなんの文句も言わずあっさり千里の制止を受け入れた。地面に倒れた木曽に馬乗りになり、戦意を失くして縮んだ歯目掛けて振り下ろした拳がその声一つで叩きつけられる寸前に止まった。拳圧が木曽の頬を切るほどの本気、が。折られたと錯覚した木曽はその場で失神。鋼は、だらりと地面に落ちた木曽を一瞥すらせず立ち上がり、垂れ流していた攻撃フェロモンもなんの執着も無く消し去った。
自分のプライドを賭けた勝利の確定よりも、格下リーダーの命令を優先。その場にいたほかの観戦者や見届け人は、事の重大さにざわついたが、本人は微塵も気にした様子はなかった。千里に「止めたんだから、ちーちゃん褒めてよ~」とトテトテ近づく。鋼なりに、目の前でちょっと本気を出したせいで怖がらせたかも?と気を使ってのあざとさだ。しかし千里はそれどころではなく、辛うじて回避できた危機に安堵し放心していた。鋼が拳を本当に止めてくれるかは賭けだったため、すぐには現実味が無かったのだ。代わりに自分の牙が折られる可能性も考えていたのに。「ちーちゃん、顔怖いよぉ」と、からかい混じりに頬をぷにぷに突つかれやっと我に返った。「何をするっ」とプンスカ怒り出した千里に、「ちーちゃん、褒めるのが先だって」と頭を差し出す鋼。周囲は二人の切り替えの早さに益々驚いていた。
ちなみに、そのとき途中から駆けつけた漆戸は(ニネンメモ ガンバロウ)と遠い空を見上げて歯を食いしばった。鋼の強さと、決闘を止めて赦される千里のパワーバランスの逆転した危うさ。(これほどまでなんて、穂高さんに何かあったら牙折るだけじゃ済まないんじゃないかなぁ)
自分の属せざるを得なかった群れの弱点が、改めてこーんなに目撃者のいる場所で晒されてしまったのだから堪らない。この先にも苦労がいっぱいだぁと分かってしまったのである。
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