Ωにしちゃってゴメンナサイ

三日月

文字の大きさ
97 / 111
11 大浴場-Ⅱ

10

しおりを挟む
 漆戸が、ゾンビよりもぎこち無く重い足どりで浴槽内を横切り、葛籠の隣に戻る。「ヤバかったな」と、葛籠相手に災難への軽口を叩こうとしたが開きかけた口をそのまま閉じた。葛籠が、白目を剥いて気を失っていることに気付いたのだ。とうに限界を越えていたらしい。
 (相変わらず静かにしてると思ってたら、コイツ気を失ってたのかよ)
 仕方ないなと、こわばる表情筋でギチギチと苦笑い。あれだけ強烈なフェロモンに当てられれば致し方ない。漆戸も、正直壁際にへばりついたまま気を失いたかった。未だに指先が震えるし、フェロモン酔で先程の殺意が頭から離れない。だが、調整役、ナンバー2として諸々動かなくてはならない。悪夢のようなフェロモンは消えたとはいえ、その発生源の鋼はいる。いるし、自分が従うリーダーのままだ。この場で目を閉じて、今後もやり過ごせる関係では無い。
 これまで、鋼の強さに手も足も出ずに従ってきたが、今日は新たに仄暗い殺意の交じる攻撃フェロモンを出せるのだと知ってしまった。(俺だって気を失ってしまいたいなぁ。これからのやり方は変えていくのかとか、ここまで力があるとどの程度まで知らしめるのか、そこらへんの確認は必須だよなぁ。もし群れ内で秘匿なら、特に話しそうな二人にはここにいる間に言い含めないといけないし。しっかし、穂高さんに『冷血帝』の残酷さを見せないように隠してるから、『冷血帝』が笹部さんの本当の顔だって知った気でいたのにさ。俺たちにも見せてない、隔絶レベルの隠し玉があるとか。どんだけ秘密主義者なんだよ。αならαらしく、そんだけ力があるなら誇って見せびらかして周りを圧倒させて悦に入ってくれてた方が敵も現れる余地が無くて仕事が楽だったのに)
 漆戸は、これまでの煩わしい仕事の不満も相まって顔が険しくなる。一方で、今日初めて『お菓子の王子様』の裏側を見せられた千里に同情。『真・冷血帝』とでも付け加えたい、あんな強烈なフェロモン付きでバラされたらショックも大きかっただろう。人が到底素手では叶わぬ獅子だと恐れていた相手が、武器を使用しても殺せないレベルの化け物だったというオチより、ニコニコ笑顔で自分を助けてくれていた仲間が化け物だった方が落差が酷い。千里を、よく獅子を飼い猫のように手懐けているなと思っていたが、化け物鋼に千里が憑かれている、の間違いだったのかも知れない。(まぁ、その『真・冷血帝』相手に湯をぶっかけられる時点で、穂高さんも相当だが)思い返しただけで背筋が凍る。冷たい指先の震えがみっともないほどに強まり、漆戸は両手を組んで湯に沈め隠した。
 そもそも、鋼が今まで匂わせもしなかった『真・冷血帝』の一面を見せたのは何がきっかけだったのだろう。それなりの理由が無ければ、千里に隠し通せと言っていた本人から一足飛びでバラすわけがない。千里を指名されたことへの怒りで、うっかり理性のストッパーが弾けたとは知らずに考え込んだ漆戸。その前後の記憶を辿り、思い出した。(あー、そうだった、そうだった。ちゃんと話をつけないといけないんだった)
しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...