Ωにしちゃってゴメンナサイ

三日月

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13 笹部家食卓-Ⅱ

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 千里は、助手席に座るよう福から勧められたが、鋼が後部座席に乗ろうと扉まで開けたのでそちらに従った。福のスーツ姿に、おそらく仕事中に駆けつけてくれたのだろうと推察。早く出ることを優先したのだ。運転手に座った福がエンジンをかけると、鋼の機嫌はどんどん上がる。
「親父、家まで急いでくれ」
「ふたりとも後部座席って・・・親をタクシー代わりにするな」
「いぃーじゃねぇか。ちーちゃんと早く家に帰りたいんだよ」
 千里は、座席の上で握られていた手にギュウッと想いを込められ、福に気づかれないようゆっくりと解いて後ろ手に引っ込めた。手を繋ぐことに慣れすぎていたが、流石に親の前となると我に返ったのだ。
「ちーちゃん?」
「ちーちゃんは、やめろ」
 その呼び方も居心地が悪い。千里は拒むが、鋼は「ちーちゃんは、ちーちゃんだろ?」とけろりと言って直す気持ちは無さそうだ。走り出した車の中で、福は後部座席の二人に早速温度差を感じ(だよなー)と心の中で深く頷く。ここまで一緒に帰ってきてくれただけでも奇跡なのだ。鋼には、何かあれば連絡をしろと言ってもしてこない。こちらからしてみても「大丈夫」で詳しくわからない。どこも大丈夫そうに見えないぞと、ため息を殺して唸る。
「そんな呼び方、恥ずかしいだろう」
「俺は、かわいい俺だけの呼び名で好き」
 臆面もなくニコッと返す鋼に、言葉もないようで申し訳なくなる。鋼を番相手として意識していない証拠に、千里は親の前で何を言ってるんだと呆れているのがミラーでも確認出来た。それでも、真っ向から否定しないのは相手を尊重する千里の性格なのだろう。(この調子で、万事が万事、鋼の良いように流されてくれてたんだろうなぁ)
 鋼は、千里から言われたことなど全く無視して「ちーちゃん、あれあれ」と窓を開けて案内を始める。自分の生まれ育った場所に千里を迎え入れることに興奮を抑えきれない様子は、親の目では微笑ましくもあるが少しは千里に気を使えと止めたいところ。道すがら「この道の向こうの公園で遊んだことがある」とか、「ここから街燈が減るから夜は真っ暗」とか忙しなく言われ、千里は律儀に「そうなのか」と相づちを打っていて申し訳なさが何重にも増えていく。
 (おン前、やっぱりわかってねぇだろう。千里さんは、戸籍上家族になってても俺たちの被害者なんだぞ?)
「おい、こら、鋼。少しは静かにしろ。千里さんが迷惑だ」
「ちーちゃん、迷惑?」
「・・・いや」
「ほら。ちーちゃんは、大丈夫だって」
 ここで「大丈夫」が使われたことで、福の中でやはり鋼の大丈夫はあてにならないなと確定。千里の声音から、何を言っても聞かないだろうと諦めている気持ちが伝わってくる。
「千里さん、無理しなくてよいからな。こっちじゃ、俺もこころも鈴もいるから」
「あの、こころさんというのは・・・?」
 聞き慣れない名前に、千里が問う。
「鋼、お前は家族紹介もしてなかったのか?こころは、俺の妻。鋼の孕親、なんだが、まぁ変異種ではないんだ」
 不用意に変異種Ωになったことへ千里の意識を向けたくはないが、ここは避けて通れない。αの中にはΩを蔑視する者もいるし、福の心の準備がないときに千里からこころを罵倒されるのは避けたい。あと、同じ変異種Ωと思ってこころに相談事を持ちかけても厄介事になりそうだ。福は、出来るだけさり気なくこころを紹介したつもりでいたが、聡い千里はなにかを感じて「そうですか」と曖昧に頷く。そこに、はっきりとわかるほどの侮蔑も嫌悪も含まれていないことにひとまず安堵。
 福は、他人にこころをコケにされれば手を出さずにはおれないが、二人の帰省を前に千里ならば赦すと決めていた。αからΩへ勝手に変えておいて、価値観まで強制するのは有り得ない。息子の詫びにもならないが、代わりに自分の価値観を捻じ曲げる。それは、変異種Ωではなくても、自分の番を大切にする笹部一族のαにとっては破格の扱いだった。
 家屋が徐々に途切れ、いよいよ笹部の血を引くもので固めた集落へ車が入る。福はハンドルを握り直し、気を引き締めた。
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