失恋の特効薬

三日月

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気心がしれた仲だからこその軽口・・・にしては、摩耶の目はまるで売られていく仔牛を見るような哀れみに満ちていた。
悠介は、どういう事かと尋ねたかったけれど。


「はいはーいっ、時間押してるんで手早くヨロッ」
「くーっ、本当に勝手なんだからっ」


瞬がやたらと時間が無いアピールをするので、悠介は気が引けてしまい摩耶に詳しく聞くことが出来ない。
摩耶は二人を並びの椅子に座らせ、手早く髪を濡らすと迷いなく作業に入った。
悠介が要望を言う暇もない。


「ちゃんとこの義弟君に説明してるんでしょうね?」

「してるよ~」

「・・・うわぁ、怪しい顔ぉ。
話しにくいなら、あたしから話してあげようか?」

「信用してよ。
身内に嘘はつかないし」


悠介は、鏡越しで二人のやり取りを目で追う。
元お客さんで好きな人の結婚式に行く、なんてことは確かに話しにくいことだよな。
この人は、瞬と付き合いが長いみたいだし、瞬の失恋を心配してるんだろうか。

軽やかな手の動きで、瞬のセット、悠介のカットが半時間で完成。
4月から二ヶ月放置していた髪は、校則にもふれないマッシュショートに仕上げられていた。
前髪は、眉毛の上でカットされていたので視界も広がり軽い。
摩耶は、悠介の髪をワックスで緩くセットしつつ、鏡に映る自分に気を取られている瞬の目を盗んでこっそりその耳に囁いた。


「アイツ、悪気が無い詐欺師みたいなとこがあるからね。
あなたにまだ聞かせたくなくて、無意識に後回しにしてることがあると思うんだ」

「・・・はぁ」


悪気が無い詐欺師って、悪気があるより悪いんじゃないのか?
悠介は思わず顔を顰めていた。
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