失恋の特効薬

三日月

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詳しく聞きたくないし、寧ろ用が済んだのならさっさと帰りたいし、忘れたい。

あの先輩の怯えぶり。
瞬を騙し、お金を巻き上げトンズラしたのは間違いないだろう。
けれど、瞬のストーカー行為にも賛同しかねる・・・ホストの兄の正体が、詐欺師でゲイでストーカー。

ここに来るまで、一言も相手が男とか言ってなかったですよね。
しかも、9歳下の義弟に恋人頼みます?
どう考えても不釣り合い、無理がある。
なのに、その理由が先輩に自分のことを心配せずに幸せになってほしいからとか・・・ホストのくせに恋愛下手過ぎ。

声を上げて泣いている瞬は、悠介のジト目にも気付いていない。
瞬は、教会が見える中庭のベンチに腰掛けてからずっと泣き続けていた。
移動している招待客やスタッフから、不思議そうに見られてもお構い無し。
賛美歌が漏れ聞こえてきたところをみると、中で挙式は滞りなく進んでいるようだ。

誓いの言葉や拍手、パイプオルガンの音色・・・そろそろあの扉を開けて、人が出てきそうだな。
半年間、この人のことを兄と呼べずに迷っていたが、今日一日でその迷いは消えていた。


「瞬さん」

「え、わ、ゆ、悠介、初めて名前呼んでくれたね」


驚いた瞬の涙が引っ込む。
お人好しで泣き虫なこの人を、今更兄と呼ぶ気にはなれない。

が、家族ではある。


「そろそろ先輩が出てくるみたいですから、笑顔で手を振ってあげた方が良いんじゃないですか」

「そ、そうだねっ」
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