鬼ごっこ~あのこがほしい~

三日月

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弥勒過去編(瑛二&白銀)

決意 3

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「瑛一、いるかっ」
「僕はここにいますよ」

玄関口から、呼ぶ声。
人間だったときは、こんな風に名前を呼ばれることも無かったのに。
顔を合わせることすら無かったのに。
毎朝、毎夕。
僕の顔を見るだけで、瑛二はホッとしている。

「お前、よくあんな訓練受けてたな?
前は空気みたいに無視してたくせに。
ジジィども、当主にさせるために毎日毎日容赦がねぇ。
大抵、もっと飲み込みが早かったって・・・名前までは言わねーけど、お前と比べてくる」

剣術の稽古を受け、帰宅した瑛二。
汗だくで、胴着まで濡れている。

「怪我、したんだね」

切れた頬。
赤い血が滲んでいる。

「あ”~、たいしたことねーよ。
飯の前に、風呂入って来る」

胴着を全部僕に預けて、行ってしまう。
下着姿のその背中、細くしなやかで生命力に溢れた身体。
姿が見えなくなるまで、飲み込むのを堪えたけど。
血と汗を見ただけで、僕はの口内は生唾で溢れる。
喉が、渇く。
あの日に焼けた肌に、舌を這わせ。
血や汗を吸い取りたくて、口の中が震えてしまう。

手に取った胴着にさえ、口をつけようとしてしまう。
僕は、瑛二が鬼の食糧となることを知ってしまっているから。
匂いが抑えられていても、食べたいと感じてしまう。

鬼落ちして、すでに四週目。
人間から鬼へ変化する際のエネルギー消費は膨大。
しかも僕は、気持ちに任せて弥勒家まで移動してしまった。
車でも、半日以上かかる距離をあっという間に繋いでしまった。
僕の体は、エンスト寸前。

・・・そろそろ気付かれるだろうか。
この青い唇が何を意味するのか。
瑛二は、どこまで鬼について教えられたのだろう。
鬼の食糧は、人の体液であることはもう知ってしまっただろうか。
個体差はあっても、何も食べない僕をそろそろ不審がるだろうか。

神宮寺家の人間であれば、すぐわかる飢餓状態。
僕の死を願う人間は、瑛二に進言はしない。
僕の死を待ち、本来の弥勒家の当主としての姿を求めるだろう。

僕が悪く言われるのは仕方ない。
でも、弥勒家当主として、残りの夏休みを全て過密スケジュールに埋め尽くされ。
すでに戦場にまで出ている瑛二のことまで、正当に評価されない。
まだ、剣技の基礎さえ終わっていないのに。
実践だと連れまわされている。
僕が守っているけど・・・嫌がらせが過ぎる。

鬼落ちした僕を角無し鬼にしていることで、全ての評価は落とされている。
僕が、足を引っ張っている。

僕さえいなければ、嫌がらせも無くなる。
みすみす弥勒家の当主を死なせることはしない。
もっと時間をかけて、教育される。

瑛二の足枷となってまで、僕は生きたくない。
僕は、間違ってばかりだ。
ただ、瑛二を守りたくて生きてきたはずなのに。

僕が瑛二を苦しめる。
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