ロスト オメガ

三日月

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Case 5

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国民にバース性検査を義務付ける国は減り続け、世界に大小合わせて三百を超える国があるのに現在検査実施国はその一割にも満たない。
当然、検体数が減ればそれに比例して見つける確率もぐんと減る。
世界は広いが、Ωであるとわかっているのは矢吹だけだ。
研究所を閉鎖した国も多く、有能な研究者がここに集まってくれるのは有り難いが、探究心を先細りさせて自ら離職していく人間を見送る度に焦燥感で辛くなる。

このままでは、矢吹に番を見つけてやれないんじゃないか。


「⋯⋯なぁ、冗談じゃなくさ。
本気でコールドスリープ考えてみないか?」


岩田はドカッとベンチに座り直し、空を見上げる。
ギラギラ眩しい太陽に思わず手を翳す。
とてもではないが、本人の顔を見る勇気は無かった。

身体的特徴が男女に緩やかに分岐していく年齢に差し掛かった頃、矢吹は顔を翳らせることが増えた。
「俺が仲間を見つけてやる!」と、岩田が矢吹に豪語したのはその頃だ
調べれば調べるだけ絶望的な数字に当たり、高2でグループ交際をしたこともあった。
発情期にさえ気をつけていればβと変わらないんだからと、そこを逃げ道にしてしまった苦い経験だ。

岩田はそれがきっかけで童貞から抜け出し、卒業するまでその彼女と付き合っていたのだが。
矢吹は誰ともうまく行かず、寧ろそういった場に出ることに消極的になってしまった。
大学に入ってからの合コンの誘いも、のらりくらりとかわして誰かと付き合っている話も聞かずじまい。

あの頃、矢吹を女性と付き合わせようとしたのは無知な岩田の思いつきだった。
それに巻き込んでしまった後ろめたさもあり、今では二人の話題にすら上がらない黒歴史だ。
Ωは、生殖機能が妊娠に特化しているため、女性との性行為に適していない。
過去のデータを遡ると、Ωがβの男性と所帯を持ち、人口減少に歯止めをかけた実績が数多く残されている。
逆に、Ω同士から子どもが生まれる可能性はかなり低い。

矢吹の将来まで視野に入れるなら、探すなら仲間のΩよりもαの方が建設的だと研究所に入所してから岩田は考え方を改めていた。


「考えねぇよ」


バーカ!と付け足し、ケラケラ笑う矢吹の声。
なんの迷いもそこに無いことが、幼馴染の岩田には十分わかる。
分かるだけに、辛い。
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