ロスト オメガ

三日月

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Case 4

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岩田は、ストローを乱暴に突き刺しコーヒー牛乳を勢いよくズズッと飲んでみたがやはり気持ちは収まらない。
口を離し、隣の矢吹を軽く睨む。
(困るのはお前なのに、なんでそんなあっさり受け入れてんだよ)
先に飲み干した矢吹は、ペコペコと紙パックを小さく折り畳みながら矢吹の視線に応えた。


「そりゃぁ、俺が居るくらいだしね。
αが生まれる可能性は限りなくゼロに近くてもゼロとは言い切れないよ?
でもさ、例えば最短の今日αが生まれたとして、そのαと番になれる頃には俺っていくつになってるかわかってる?
20歳まで待ってたら、45歳のおじさんだぜ。
そんなん相手にされねぇよ」


45歳といえば、自分達の親世代だ。
岩田は、矢吹の20年後を想像すべく矢吹の母親が亡くなった40歳の面影を混ぜてみる。
岩田が5歳のときに、隣のアパートに引っ越して来たのが矢吹親子だった。
母子家庭で昼夜忙しく働く矢吹の母親を見かねて、岩田の母親は一人で帰りを待つ矢吹を家に招き入れた。
出会った頃の矢吹の母親は、当たり前なんだろうけれど今の矢吹と似ている。
35歳の母親は、45歳の矢吹を想像するには一番のヒントだ。


「⋯イケるんじゃないか?」

「イケるかよ、バーカ!」


片手チョップで岩田の額を割る矢吹。


「バカってお前なぁ⋯そんなに年を気にするなら、コールドスリープすれば良いだろう。
Ωには、特定認可難病指定がされてるんだから」


今は治せない難病も、未来には特効薬が出来ているかもしれない。
そのときに合わせて長期間眠るシステムは、どういう経緯があったのかαとΩも対象に入っている。
実際にこれまで難病を抱えていた多くの人が眠りから覚め、医療の発達の恩恵を受けて天寿を全うしている実績があり安全性も高い。


「バカバカバーカッ
Ωは病気じゃねぇわっ」


こんにゃろっと、矢吹は笑いながら岩田の首に腕を巻き付け締めるふりをする。
研究者の岩田が、そのことを当人の矢吹よりも知っているのを見越してワザと笑い話で有耶無耶にしようとしているのだ。
岩田は、やり返しながら切なくなる。
病気では無い、病気では無いが⋯⋯


『あのね、イオね、仲間ハズレなんだ』


まだ幼い矢吹が、泣くのをぐっと堪えて自分がΩなんだと打ち明けてくれた日のことが蘇る。
『それでも友達になってくれる?』と、目に涙を浮かべていた矢吹。
『もう友達じゃん』と、首を傾げて答える岩田。
あのとき、矢吹がどんな思いを抱えていたのか。
矢吹がΩとわかった途端、以前住んでいた家を追い出されたことを知ったのはもっと後だった。
自分とは異質な存在を、受け入れられない人間は少数だがいる。
その少数から爪弾きにされたトラウマを、岩田は少しでも軽くしてやりたい。
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