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幼馴染②
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side 砂道
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「ゔ‥ってえ‥」
激しい衝撃の中、必死に八谷を抱き寄せて庇った。
背中に鈍い痛みが走る。大きな木にぶつかったらしい。そのまま転がり落ち、俺たちは平らな山道に叩きつけられた。
「スナ‥大丈夫っ」
腕の中からハチの声がして、俺は息を詰めたまま問い詰める。
「ハチ‥てめえわざと落ちただろ」
「っ、ちがっ、俺‥めまいがして‥ごめんな‥こんなつもりじゃ‥」
「くそっ‥」
足を打撲したのだろう。
動かそうとすると鋭い痛みが走って顔を顰める。
こんなはずじゃなかったーー
今日は二人きりで思い出の場所に行って、ただ早川を笑顔にしたかった。そう思っていたのに。
電車の中、夏樹と話す早川を思い出して、俺は苛立つ心を堪える。
「大した高さじゃない。すぐ戻れるはずだ。上がれる場所を探そう」
「まって‥」
「なんだ?」
「好きだよ‥‥スナ、」
ぎゅっと背中に抱きつかれて、俺はまた苛立つ気分を必死で落ち着かせる。
いったいなんなんだ‥人を突き落としておいて好きだって?ふざけんな‥
「離せ‥」
「っ、なんで!」
「俺らはそんな関係じゃねえだろ。」
冷静にそう答えると、八谷がポタポタと涙をこぼした。
八谷は今、不安定だ。
普段はこんな奇行を起こすような奴じゃない。
全部、
俺の、せいか‥
冷静な自分が、どこかでそう呟いた。
勘違いを拗らせて、学ばずに放っておいた自分を呪う。
はっきりさせたいーーそう言った早川を思い出して、俺は覚悟を決めるように強く拳を握った。
「八谷、俺は、お前の気持ちには応えられない。」
正直、失うことを誰よりも恐れていた。もともと、持っているものが少ない人間だったからかもしれない。
それでも、脳裏に浮かんだ笑顔が一番大事なのだと心がそう告げる。
俺は、ハチのことを大事に思っている。
だけどそれは、恋愛感情じゃないーー。
昨日。自分の考えを根本から改めた。早川と過ごして、自分の気持ちに向き合った。そこで出た答えだった。
「っ、スナはッ、優しいから、早川に同情してるだけだ!目を覚まして‥元に戻ってよスナ‥」
「これが俺だよ、八谷ーー」
「っ、ちがっ」
「お前を大切にしてる気持ちは嘘じゃない。昔からお前はたくさん俺を助けてくれたし、そばに居てくれた。俺の一番近くにいてくれた。」
「そうだよっ、ずっと小さい頃から一緒だったよな!たくさん遊んだし、笑い合って楽しくてっ!」
「あぁ、そうだな。」
「中学の初め、俺に告白してくれたよな?好きだって。付き合ってほしいって。」
「あぁ」
「っ、俺やっと心の準備ができたんだ!だから付き合おう!スナ!俺もスナのことがっーーー」
応えられないのなら、無意識だとしても知らなかったとしても、思わせぶりな態度や優しさは、結局誰の得にもならない。
「好きな奴ができたんだ」
「っ、」
当時の俺は孤独で、世界はハチを中心に回っていた。
一緒にいると安心できたし、困ったときや眠る前に思い浮かぶのも、決まってハチだった。
けれどそれは、俺の世界にハチ以外の“他がなかった”だけなんだ。
胸が痛んだのは、ハチが楽しげに家族の話をするから。自分にはない温かさを突きつけられ、勝手に傷ついていた。
今振り返れば、俺はハチが象徴する温かい家族に憧れていたのだと思う。祖父の言葉を崇めてハチと繋がれば、自分もその温もりに触れられるって、そう信じていたのかもしれない。
「、そんなの‥」
「俺は、早川が好きだーー。」
初めて口にした言葉は、すっと胸の内に染み込んでいった。
あぁ、そうか、俺はーー
「なん、で」
「早川といると、空っぽだった胸が満たされるんだ。」
演じた自分じゃなくてもちゃんと心から感情を出せる。自分の気持ちを言葉にして伝えたいって思う。
早川の穏やかな目が好きだ。早川の優しい声が好きだ。俺に触れる早川の手が好きだ。早川の笑顔をずっと隣で見ていたい。
「そんなの俺にだってできる!」
「早川じゃないとダメなんだ。」
「なんでっ、そう言い切れるんだよ!」
理由なんてわからない。ただ、気づけば目で追っていた。声をかけられると安心して、触れられると心地よくて。
一緒に過ごす時間が、早川の笑顔が、
いつの間にか俺の中でかけがえのないものになっていた。ーー。
早川じゃないと、ダメだ。早川じゃなきゃ意味がないんだ。
「ハチ、ごめんな。」
「っ、なんで‥スナが謝るの。やめて‥そんな風に終わりみたいに言わないで‥スナの気持ちは変わらないって‥信じてたのにっ‥」
「お前はひとりだった俺にたくさんのことを教えてくれた。今思えば、俺にとって1番の親友だったんだと思う。本当に感謝してる。」
「っ、親友とか‥言うなよ‥。やだよ‥俺がもっと早くに気づいてたらッ、‥スナの特別に、なれた‥?」
虚な目に涙を溢すハチ。俺は目を細める。
これ以上は、俺にできることはない。
「‥そろそろ戻ろう。整備された山だし、探せば上に上がる場所があるはずだから。」
「なぁ‥スナッ、待って‥まだ間に合わない?ーー」
「スナッ!どこ!スナッ」
ハチの言葉を掻き消すように、山道の脇から聞き慣れた声が響いて、俺は目を見開いた。
早川っ、
「早川‥?っ早川!!ここだ!」
助けに来てくれたのか?高いところ苦手な癖にっ‥
本当に、お前はヒーローみたいな奴だよ‥。
あぁ、早く会いたいーー早川。
俺は痛む足を無視して、立ちあがろうと力を入れる。
「やだよ‥こんな、終わり方‥っ!」
刹那、ハチが何かを呟いたが、早川の声に気を取られた俺は聞き逃してしまった。
それがいけなかったんだ。
「っーー!?」
「っ、スナ‥!ッ、ーー、」
唇に触れる感覚にぎょっとする。
目線の先には傷ついた顔をした早川がいて、俺はそんな早川を見つめたまま一瞬固まった。
「え、ちょっと風太!?ッ、何してんの‥スナッ八谷ッーーほんとにっ、どれだけ風太のこと弄んだら気が済むの!?」
夏樹の声で、はっと我に帰る。
俺は反射的に八谷を突き飛ばした。
「っ!やめろッ!どけ!?違っ、早川ッ、待て!?」
もう傷つけないって、約束したのにーー
俺は早川を追って走り出す。ズキリと足が痛んだが、そんなのどうでもよかった。
「スナっ、待ってやだ、置いて行かないで!?スナぁあああ」
背後から悲痛な八谷の声が聞こえた。
だけど俺はもう振り返ることはなかった。
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「ゔ‥ってえ‥」
激しい衝撃の中、必死に八谷を抱き寄せて庇った。
背中に鈍い痛みが走る。大きな木にぶつかったらしい。そのまま転がり落ち、俺たちは平らな山道に叩きつけられた。
「スナ‥大丈夫っ」
腕の中からハチの声がして、俺は息を詰めたまま問い詰める。
「ハチ‥てめえわざと落ちただろ」
「っ、ちがっ、俺‥めまいがして‥ごめんな‥こんなつもりじゃ‥」
「くそっ‥」
足を打撲したのだろう。
動かそうとすると鋭い痛みが走って顔を顰める。
こんなはずじゃなかったーー
今日は二人きりで思い出の場所に行って、ただ早川を笑顔にしたかった。そう思っていたのに。
電車の中、夏樹と話す早川を思い出して、俺は苛立つ心を堪える。
「大した高さじゃない。すぐ戻れるはずだ。上がれる場所を探そう」
「まって‥」
「なんだ?」
「好きだよ‥‥スナ、」
ぎゅっと背中に抱きつかれて、俺はまた苛立つ気分を必死で落ち着かせる。
いったいなんなんだ‥人を突き落としておいて好きだって?ふざけんな‥
「離せ‥」
「っ、なんで!」
「俺らはそんな関係じゃねえだろ。」
冷静にそう答えると、八谷がポタポタと涙をこぼした。
八谷は今、不安定だ。
普段はこんな奇行を起こすような奴じゃない。
全部、
俺の、せいか‥
冷静な自分が、どこかでそう呟いた。
勘違いを拗らせて、学ばずに放っておいた自分を呪う。
はっきりさせたいーーそう言った早川を思い出して、俺は覚悟を決めるように強く拳を握った。
「八谷、俺は、お前の気持ちには応えられない。」
正直、失うことを誰よりも恐れていた。もともと、持っているものが少ない人間だったからかもしれない。
それでも、脳裏に浮かんだ笑顔が一番大事なのだと心がそう告げる。
俺は、ハチのことを大事に思っている。
だけどそれは、恋愛感情じゃないーー。
昨日。自分の考えを根本から改めた。早川と過ごして、自分の気持ちに向き合った。そこで出た答えだった。
「っ、スナはッ、優しいから、早川に同情してるだけだ!目を覚まして‥元に戻ってよスナ‥」
「これが俺だよ、八谷ーー」
「っ、ちがっ」
「お前を大切にしてる気持ちは嘘じゃない。昔からお前はたくさん俺を助けてくれたし、そばに居てくれた。俺の一番近くにいてくれた。」
「そうだよっ、ずっと小さい頃から一緒だったよな!たくさん遊んだし、笑い合って楽しくてっ!」
「あぁ、そうだな。」
「中学の初め、俺に告白してくれたよな?好きだって。付き合ってほしいって。」
「あぁ」
「っ、俺やっと心の準備ができたんだ!だから付き合おう!スナ!俺もスナのことがっーーー」
応えられないのなら、無意識だとしても知らなかったとしても、思わせぶりな態度や優しさは、結局誰の得にもならない。
「好きな奴ができたんだ」
「っ、」
当時の俺は孤独で、世界はハチを中心に回っていた。
一緒にいると安心できたし、困ったときや眠る前に思い浮かぶのも、決まってハチだった。
けれどそれは、俺の世界にハチ以外の“他がなかった”だけなんだ。
胸が痛んだのは、ハチが楽しげに家族の話をするから。自分にはない温かさを突きつけられ、勝手に傷ついていた。
今振り返れば、俺はハチが象徴する温かい家族に憧れていたのだと思う。祖父の言葉を崇めてハチと繋がれば、自分もその温もりに触れられるって、そう信じていたのかもしれない。
「、そんなの‥」
「俺は、早川が好きだーー。」
初めて口にした言葉は、すっと胸の内に染み込んでいった。
あぁ、そうか、俺はーー
「なん、で」
「早川といると、空っぽだった胸が満たされるんだ。」
演じた自分じゃなくてもちゃんと心から感情を出せる。自分の気持ちを言葉にして伝えたいって思う。
早川の穏やかな目が好きだ。早川の優しい声が好きだ。俺に触れる早川の手が好きだ。早川の笑顔をずっと隣で見ていたい。
「そんなの俺にだってできる!」
「早川じゃないとダメなんだ。」
「なんでっ、そう言い切れるんだよ!」
理由なんてわからない。ただ、気づけば目で追っていた。声をかけられると安心して、触れられると心地よくて。
一緒に過ごす時間が、早川の笑顔が、
いつの間にか俺の中でかけがえのないものになっていた。ーー。
早川じゃないと、ダメだ。早川じゃなきゃ意味がないんだ。
「ハチ、ごめんな。」
「っ、なんで‥スナが謝るの。やめて‥そんな風に終わりみたいに言わないで‥スナの気持ちは変わらないって‥信じてたのにっ‥」
「お前はひとりだった俺にたくさんのことを教えてくれた。今思えば、俺にとって1番の親友だったんだと思う。本当に感謝してる。」
「っ、親友とか‥言うなよ‥。やだよ‥俺がもっと早くに気づいてたらッ、‥スナの特別に、なれた‥?」
虚な目に涙を溢すハチ。俺は目を細める。
これ以上は、俺にできることはない。
「‥そろそろ戻ろう。整備された山だし、探せば上に上がる場所があるはずだから。」
「なぁ‥スナッ、待って‥まだ間に合わない?ーー」
「スナッ!どこ!スナッ」
ハチの言葉を掻き消すように、山道の脇から聞き慣れた声が響いて、俺は目を見開いた。
早川っ、
「早川‥?っ早川!!ここだ!」
助けに来てくれたのか?高いところ苦手な癖にっ‥
本当に、お前はヒーローみたいな奴だよ‥。
あぁ、早く会いたいーー早川。
俺は痛む足を無視して、立ちあがろうと力を入れる。
「やだよ‥こんな、終わり方‥っ!」
刹那、ハチが何かを呟いたが、早川の声に気を取られた俺は聞き逃してしまった。
それがいけなかったんだ。
「っーー!?」
「っ、スナ‥!ッ、ーー、」
唇に触れる感覚にぎょっとする。
目線の先には傷ついた顔をした早川がいて、俺はそんな早川を見つめたまま一瞬固まった。
「え、ちょっと風太!?ッ、何してんの‥スナッ八谷ッーーほんとにっ、どれだけ風太のこと弄んだら気が済むの!?」
夏樹の声で、はっと我に帰る。
俺は反射的に八谷を突き飛ばした。
「っ!やめろッ!どけ!?違っ、早川ッ、待て!?」
もう傷つけないって、約束したのにーー
俺は早川を追って走り出す。ズキリと足が痛んだが、そんなのどうでもよかった。
「スナっ、待ってやだ、置いて行かないで!?スナぁあああ」
背後から悲痛な八谷の声が聞こえた。
だけど俺はもう振り返ることはなかった。
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