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俺から見たお前
心の奥底は
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◇
どれだけ時間が経っただろうか。
「ん、ごほっごほっ‥はぁ‥ここ、どこ、寒い‥」
早川が目を覚ます。俺は安堵して、名前を呼んだ。
「早川、」
「っ、!」
驚いたような顔。その表情が一瞬で歪む。
俺がいるの、嫌だったのだろうか。無理やり連れてきたようなものだから。夏樹の方が‥よかったよな‥。少し胸が痛んで、それでも自業自得だと言い聞かせる。
「っ、‥ごほっごほっ‥」
苦しそうに喉を抑える早川。買ってきた水を持ってこようとベッドの際にしゃがんでいた足に力を入れた。
「スナ‥ッ、やだッ、行かないでッ‥!」
っ、
急に起き上がっては、俺の服をぎゅっと握りしめた早川にどきりと心臓が高鳴ったがすぐに振り払う。
熱で心が弱っているのだろう。
俺はすぐさま、その手に触れる。
「っ、はやかわ、水を取りに行くだけだ‥喉、辛いんだろ?」
「スナッ‥す、な‥ごほっ」
何度も早川が俺を呼ぶ。俺は安心させるように、その身体を優しく抱きしめた。
「早川、俺はどこにも行かないから‥」
「ッ‥ほんとに‥?」
「あぁ、ずっと一緒だ」
夢現だって分かってた。だけど早川のその言葉が嬉しくて仕方なくて。
お前が望むなら、永遠に俺はーー。
「‥スナは嘘つき‥だね‥」
「っ、」
まるで現実だと思い知らされるかのようにそう告げる早川の言葉。俺は心臓を掴まれたような気分になる。
「ずっと‥側に‥いたかった‥のに‥」
声が震えている。
ずっと‥か、
俺と同じことを考えているのに、
その中身はきっと違う。
俺の執着心がこの関係を壊したんだ。
友人のまま、大人しくすりゃいいのに‥。夏樹と早川の邪魔ばかりして‥俺のせいだよな、ほんと。ごめんな、早川。
「いればいいだろ‥」
今度はちゃんと、側にいれるように、努力する。だから、安心してくれ。
「っ、はは‥夢の中でも‥残酷な事‥言うんだ‥せめて、幸せな夢が見たいよ‥」
俺の首筋に顔を埋める早川に、びくりと体が震えた。
勘違いしそうになって、それでも早川の温もりに喜ぶ自分に嫌気がさす。
ふいに肩口が震えていて、俺は目を見開いた。
「‥っ、泣いてんのかっ‥?早川、こっち向けっ‥!」
首を横に振る早川に俺は顔を顰める。
「っ、早川、頼むから‥お前に否定されたら俺っ、どうすればいいのかわかんなくなるんだ‥」
本ばかり見ていたからこうなるんだ。
本当は、自分の気持ちを否定されるのが、怖かった。
全部本の通りにすれば、俺の意思じゃないから。俺の気持ちじゃないから。
その代償がこれだ。
目の前で泣く大切な人すら、励ます言葉が見つからない。
「、ス、ナ‥?」
顔を上げた早川。
「っ、」
「ゴホッ‥なんで‥そんなに震えてるの‥どうしてそんなに辛そうな顔をしているの。」
それはとても優しい声だったーー。
涙が一筋早川の頬を流れて、でもそれ以上に俺を案じるその瞳に、どうしようもなく心が目の前の早川を求めた。
そっと後頭部に手を回されて、早川の胸の中に抱きしめられる。何度も髪を撫でられて、
俺は目元が熱くなるのを感じた。
生まれてから一度ももらったことのない損得のない温もり。この感覚の名前を俺は知らない。壊れものを扱うように、早川の腰に触れる。
開いた口。ずっと心の奥底にあった言葉が、蓋を開けるようにこぼれ出した。
「っ、分かんねえっ‥俺‥、俺は‥ほんとは空っぽで‥何もない、から‥こういう時は、どうすればいい‥?なぁ、早川っ、俺どうすれば‥ッ」
辛いのは早川のほうだ。なのに、
俺は頭を撫でる早川の腕を掴み、縋るように見上げた。
刹那、頬を両手で包み込まれて、俺は早川の穏やかで優しげな顔を見つめる。
俺は、ずっとお前の側にいたいーー。
「大丈夫だよスナ‥大丈夫。そのままのスナで、いいんだ。‥スナのやりたいことをすればいい。スナの好きなことをして‥スナが笑えるならそれで‥」
「っ、」
早川の言葉に俺は目を丸くする。
誰にも、そんなことを言われたことがなかった。
いつも俺の意見なんて、関係なくて
俺のままだと、みんな俺から離れていく。嫌いになる。
だから、自分の思いは
いらなくて
それなのに、どうしてお前はいつも、
俺を
早川が俺をまた引き寄せて、そのままがくりと力を抜く。
俺は咄嗟にその身体を抱き止めた。
肩口で規則正しい呼吸が聞こえてきて、俺はその顔を首をずらして覗き込む。
「っ、はや、かわ‥?眠ったのか‥?‥なぁ、お前はこのままで、本当にいいのか‥?分かんねえよっ、お前はどんどん離れていくじゃねえかッ‥。
なぁ‥早川‥
なんで‥俺の側にいてくれねえの‥?」
至近距離に早川の唇があって、俺はそれに触れようとする。
あと数センチ、ぴたりと俺は動きを止めた。
‥そういえばあの時、嫌がってたな‥。
そこで止まるべきなのは分かっていた。
だけど、先ほどの早川の言葉が何度も頭にこだまする。
俺の‥好きなように‥
なら‥
代わりに捉えたのは白い首筋。
俺はゆっくりと熱で熱ったその首筋に噛みついた。
この体も心も全部、俺だけのものにしたいーー。
どれだけ時間が経っただろうか。
「ん、ごほっごほっ‥はぁ‥ここ、どこ、寒い‥」
早川が目を覚ます。俺は安堵して、名前を呼んだ。
「早川、」
「っ、!」
驚いたような顔。その表情が一瞬で歪む。
俺がいるの、嫌だったのだろうか。無理やり連れてきたようなものだから。夏樹の方が‥よかったよな‥。少し胸が痛んで、それでも自業自得だと言い聞かせる。
「っ、‥ごほっごほっ‥」
苦しそうに喉を抑える早川。買ってきた水を持ってこようとベッドの際にしゃがんでいた足に力を入れた。
「スナ‥ッ、やだッ、行かないでッ‥!」
っ、
急に起き上がっては、俺の服をぎゅっと握りしめた早川にどきりと心臓が高鳴ったがすぐに振り払う。
熱で心が弱っているのだろう。
俺はすぐさま、その手に触れる。
「っ、はやかわ、水を取りに行くだけだ‥喉、辛いんだろ?」
「スナッ‥す、な‥ごほっ」
何度も早川が俺を呼ぶ。俺は安心させるように、その身体を優しく抱きしめた。
「早川、俺はどこにも行かないから‥」
「ッ‥ほんとに‥?」
「あぁ、ずっと一緒だ」
夢現だって分かってた。だけど早川のその言葉が嬉しくて仕方なくて。
お前が望むなら、永遠に俺はーー。
「‥スナは嘘つき‥だね‥」
「っ、」
まるで現実だと思い知らされるかのようにそう告げる早川の言葉。俺は心臓を掴まれたような気分になる。
「ずっと‥側に‥いたかった‥のに‥」
声が震えている。
ずっと‥か、
俺と同じことを考えているのに、
その中身はきっと違う。
俺の執着心がこの関係を壊したんだ。
友人のまま、大人しくすりゃいいのに‥。夏樹と早川の邪魔ばかりして‥俺のせいだよな、ほんと。ごめんな、早川。
「いればいいだろ‥」
今度はちゃんと、側にいれるように、努力する。だから、安心してくれ。
「っ、はは‥夢の中でも‥残酷な事‥言うんだ‥せめて、幸せな夢が見たいよ‥」
俺の首筋に顔を埋める早川に、びくりと体が震えた。
勘違いしそうになって、それでも早川の温もりに喜ぶ自分に嫌気がさす。
ふいに肩口が震えていて、俺は目を見開いた。
「‥っ、泣いてんのかっ‥?早川、こっち向けっ‥!」
首を横に振る早川に俺は顔を顰める。
「っ、早川、頼むから‥お前に否定されたら俺っ、どうすればいいのかわかんなくなるんだ‥」
本ばかり見ていたからこうなるんだ。
本当は、自分の気持ちを否定されるのが、怖かった。
全部本の通りにすれば、俺の意思じゃないから。俺の気持ちじゃないから。
その代償がこれだ。
目の前で泣く大切な人すら、励ます言葉が見つからない。
「、ス、ナ‥?」
顔を上げた早川。
「っ、」
「ゴホッ‥なんで‥そんなに震えてるの‥どうしてそんなに辛そうな顔をしているの。」
それはとても優しい声だったーー。
涙が一筋早川の頬を流れて、でもそれ以上に俺を案じるその瞳に、どうしようもなく心が目の前の早川を求めた。
そっと後頭部に手を回されて、早川の胸の中に抱きしめられる。何度も髪を撫でられて、
俺は目元が熱くなるのを感じた。
生まれてから一度ももらったことのない損得のない温もり。この感覚の名前を俺は知らない。壊れものを扱うように、早川の腰に触れる。
開いた口。ずっと心の奥底にあった言葉が、蓋を開けるようにこぼれ出した。
「っ、分かんねえっ‥俺‥、俺は‥ほんとは空っぽで‥何もない、から‥こういう時は、どうすればいい‥?なぁ、早川っ、俺どうすれば‥ッ」
辛いのは早川のほうだ。なのに、
俺は頭を撫でる早川の腕を掴み、縋るように見上げた。
刹那、頬を両手で包み込まれて、俺は早川の穏やかで優しげな顔を見つめる。
俺は、ずっとお前の側にいたいーー。
「大丈夫だよスナ‥大丈夫。そのままのスナで、いいんだ。‥スナのやりたいことをすればいい。スナの好きなことをして‥スナが笑えるならそれで‥」
「っ、」
早川の言葉に俺は目を丸くする。
誰にも、そんなことを言われたことがなかった。
いつも俺の意見なんて、関係なくて
俺のままだと、みんな俺から離れていく。嫌いになる。
だから、自分の思いは
いらなくて
それなのに、どうしてお前はいつも、
俺を
早川が俺をまた引き寄せて、そのままがくりと力を抜く。
俺は咄嗟にその身体を抱き止めた。
肩口で規則正しい呼吸が聞こえてきて、俺はその顔を首をずらして覗き込む。
「っ、はや、かわ‥?眠ったのか‥?‥なぁ、お前はこのままで、本当にいいのか‥?分かんねえよっ、お前はどんどん離れていくじゃねえかッ‥。
なぁ‥早川‥
なんで‥俺の側にいてくれねえの‥?」
至近距離に早川の唇があって、俺はそれに触れようとする。
あと数センチ、ぴたりと俺は動きを止めた。
‥そういえばあの時、嫌がってたな‥。
そこで止まるべきなのは分かっていた。
だけど、先ほどの早川の言葉が何度も頭にこだまする。
俺の‥好きなように‥
なら‥
代わりに捉えたのは白い首筋。
俺はゆっくりと熱で熱ったその首筋に噛みついた。
この体も心も全部、俺だけのものにしたいーー。
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