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第4章 魔王城編

嘘と誘惑

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「‥」


ぼーっとベッドに腰掛けるラシルさんを見て、ユウがおかしそうに俺に耳打ちする。



「本当にボスさん、記憶を失くしたの‥?」


「‥うん。一昨日の事がショックだったみたいで‥目覚めた時には自分の名前すら覚えてなかった」


「っ‥サルくんの事‥きっとッ」


「興奮しないで。ラシルさん、その話をすると酷い頭痛を起こしちゃうから‥」


「そう、なんだ‥ごめん‥」


すんなりと、俺の言うことを聞いてくれるユウに安心する。
もっと‥反抗的な態度を取られると思っていた‥。


ラシルさんをこの部屋から出すなと命令されているから、
作戦会議はこのラシルさんに用意されている部屋ですることになった。


広々とした部屋にポツンと置かれた豪華なベッド。
なんとも殺風景で寂しげだ。


昨日目覚めてから、ずっと部屋の壁をボーッと見つめている。

まるで、中身を失った抜け殻のように



「だから、あの日の事は‥言わないで。自分でいつかちゃんと話すから」



あの日の事はまだラシルさんに話していないし、これから話す気もない。

クロスが、このまま記憶失くしたまま過ごせば、
この王国から追放しないと、犯してきた罪も全て忘れて彼を保護するとそう言ったからだ。


ラシルさんの幸せ‥いつも王国を狙っていた彼‥もしかすると、滅ぼすのではなく、懐かしい故郷へ戻りたかったのかもしれない。

例え、どんな形であれ‥




これで、いいんだ。
貴方は手放した。それなら、貰ってもいいでしょ?サルさんーー



ラシルさんの幸せは‥俺が守るから‥



「わ、わかった‥」



「ありがとう、ユウ。」



「話は済んだか?地図でルートを確認するぞ。俺達の目的は簡単に言うと、魔王退治ってとこだよな。」



俺たちの背後で、ゼノさんがそう告げる。
地図を机に広げ、念入りにルートを確認する彼は、ギルドの冒険者経験が長いだけあって仕事が早いし手際もいい。


ことが早く済めば、それだけ早くラシルさんが自由になるということだ。

俺は彼の言葉に頷く。


「はい。目指すは魔王城。俺たちの目的は、世界の脅威である魔王を退治し平和をもたらすこと。そうすれば彼もーー」



「彼‥?」



「っ、」


失言した

ラシルさんが、俺達をみて、そう呟いたのだ。


俺達には、国から託された重要な任務があるのだと、ラシルさんには説明してある。
そして、彼は王国の騎士で、とある事故のショックで記憶を失っているのだと‥


普段の彼なら信じてくれなかっただろう。でも、彼は真剣な顔で俺の言う事を聞き‥そして、納得してくれた。

俺が目を覚まして、凄く心配してる顔をしてたからって‥俺は何も分からない。頼れるのはお前しかいないって
そう言われたんだ‥


だから、知られてはいけない。


サルさんの存在を絶対にーー


どうすればっ






「俺の‥大事な奴だ。」


ラシルさんに向けて、強い眼差しがそう告げる。
そう、だ。この人もサルさんのこと‥



「な!ちょ!俺もだよ!!」


「っ‥」



冷や汗が額を伝っていて、俺は震える手を握りしめた。





「攫われたのか‥?魔王って、やつに‥」


ゼノさんの方へ顔を向けて、首をかしげるラシルさん。
適当に誤魔化そうか?‥、


いや、ここはゼノさんに任せよう。


彼が俺と同じ考えなら


きっと大丈夫だ







「ああ‥そうだ。必ず取り返す‥もう誰にも‥渡さない」


「‥?」


キッとラシルさんを睨みつけるゼノさんに、俺は慌ててその場を収めようと、話をそらす


「ッ、さ、ルートを確認しましょう!まずは‥ああ‥そうだ、地図見たって分からないんだった‥」


が、
そうだ俺‥この世界の事‥あまり知らないんだった‥
何やってんの馬鹿‥



「そういえば、お前は異世界の人間だったな。黒髪に黒の瞳は珍しい‥。地図とルートは俺が確認する。魔王城は、この大陸から海を越えて、ここ、南の死の果ての島に存在すると言い伝えられている。」


フォローしてくれたゼノさんにホッと胸をなでおろす。
本当に‥頼りになる人‥

どうしてサルさんは、この人を選ばなかったのだろう。 

頭もキレて、顔もラシルさんに負けずと美形だ。
性格だって、敵である俺をフォローしてしまうほどお人好しっぽいし‥


いや、こんな事どうでもいい‥話を進めないと


「死の果てか‥名前だけで恐ろしそうだね‥」


「ああ、昔はとても美しい森だったと聞く。だが、魔王誕生と共に、その森に魔のものが集いに集うようになってな。大量の闇の臭気を放つものだから、全ての木が枯れ、今じゃ誰も近づかない。」

「魔物‥俺はまだ遭遇したことないけど、はあ、凄いヤバいものだって事は分かったよ‥」


「だろ?死なないように油断するなよ。まず南へ進み、魔の森を抜ける。歩きで2日程度だか、野宿してやり過ごす。この際、魔物には注意が必要だ。この森を出るとすぐに町があるはずだから、そこで一旦休息を取ろう。」

「了解です。」


「次に、船で海を渡るため、港町シーサイドへ向かう。町からシーサイドまでは鉄道が走っているから、それに乗れば半日でシーサイドに着くだろう。後は船を手配して‥
最果ての島、死島に向かう」


「う、うん‥」


「‥分かりました。」


地図を閉じるゼノさんと、緊張しているユウを眺める。


俺とは違う。光に愛された人達‥

彼らに愛されるサルさんか‥



「明後日、出発する。各自準備をするように」


「えと、俺、準備って具体的に何したらいいのかな分からなくてさ、ゼノくん、もしよかったら色々アドバイスくれないかな?」


「ああ、分かった。明日お前の部屋に行く」

「ありがとう!ゼノくんってなんだかお兄さんみたいだね。俺もこんな兄貴が欲しかったよ~」

「っ、兄貴、か‥はは、俺なんかでよければ助けになる。それじゃあ、俺はこれで」

「うん!おやすみ!」

「はい。ユウも疲れてるだろうし‥今日はもう遅いから、休みなよ。部屋に案内する。俺も一旦部屋に戻って‥っと、


ラシルさん‥?」



「‥あ‥すまない‥」



ギュッと掴まれた袖。
その行動と、彼の不安気な表情に俺は目を見開いた。

もしかして、
1人になるのが怖いんですか?

俺に、部屋に帰って欲しくないの?ラシルさん?



「ッ、大丈夫です!俺が、貴方のそばに居ますからっ!だから、安心してください!」


握りしめる彼の手は大きくて。だけど、
俺を見つめる目は、俺に縋っている。



ああ、クロスと同じになんてなる訳ないと、そう思っていたのに




「っ」


「ユウ、やっぱりそこの兵士達に、案内してもらって?ラシルさん、もう休みましょう?ほら、」



「‥ああ‥あの‥すまない‥ありがとう‥」



結局、誘惑に負けてしまう。

俺だけの視線。

俺だけの言葉。





「っ、へへ‥どういたしまして」




謝らないでラシルさん。
貴方のためなら、なんだってします。


そう俺は誓ったのですから。

ソッとベッドに潜り込んだラシルさんの隣に腰掛ける。





「‥ラシルさん、本当に記憶を失くしているんだね‥雰囲気も‥だいぶ違う‥。アサヒだって‥なんだか別人みたいだ‥いつか記憶が戻れば‥ッ、」


「そう思い詰めるなユウ。その時になれば考えればいい。

まあ、俺は‥このまま戻らない事を願っているがな。それが奴と、ライトの為になるのだから。」



「っ‥







本当に‥そう、なのかな‥」








アサヒside endーーー
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