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第4章 魔王城編

不安な愛しさ

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K side‥



「スー‥スー‥」


俺様のベッドの上で、
幸せそうにスヤスヤと寝息を立てる光を眺める。


意地が悪い。最低魔王だなほんとさ。
またしょうもない俺の気まぐれだった。


朝仕事が一段落すると、気を抜いた奴から抜け出して
光の元へと向かう。
昨日の事で動揺しておもしろい事になっているだろうと勝手に想像していたが、
その反応は予想外で、
まったくもって気に入らない。


だから、イラついて、つい意地悪をした。


光を無視して扉へ向かう。


たったそれだけ


それだけなのに




深く傷つき、捨てないでと縋り付く光の姿。
やめておけばよかった。大切に優しく接すればよかったのに

寝不足なのか、俺が抱きしめ支えるとウトウトとそのまま瞼を閉じる光。
夢を見ているのだろう。うなされる光に目を細める。
俺に預けてきた体重は軽い。
グズグズと垂れ流れる涙を拭って、首筋へと触れては光の記憶を盗み見た。

病室ーー


テレビーー


俺と‥名も知らない後輩の男


嫉妬とプライドの間でその試合を眺める光。




今度はちゃんと
捨ててくれーー


捨てられたと勘違いする馬鹿なチビ助に
愛しさが込み上げて吹き出しそうになる。

それでも、俺が捨てると思っているのは
かなりムカつくから
忘れないように、額を合わせてっと‥
はい、
俺の気持ちをそのまま光の頭に送信っ!




「安心できましたかお姫様?」


だらしなく緩んだ口元を抓って、
そのままそれに噛み付いた。

二度目のキスはしょっぱくて
こいつらしい色気のないそんな口付け。


「ん、っ」


「、ぷは、アホヅラ‥





おやすみ、光‥」



いい夢を‥



完全に落ちた光をベッドに運ぶ。

感情が不安定になっているのは、この身体に俺が変えたせい。


魂が消えても、心の臓が止まっても
身体の一部さえ残れば、生涯の体験した想いや記憶を、生命の役割として時の風に刻んでいく。
その不安や恐怖が、光の新しい魂に影響を及ぼしているのだ。



残念な事に、俺が傷つけた記憶がその大半を占めているようで、
めんどくせえが、こいつが信じてくれるまで、
ゆっくりと伝えていかなくてはならない。



早く気付け。そして笑えばいいさ
俺のガキのような心の奥底を
じっくり観察して知っていけ


そしたら‥お前も安心して
俺の隣に‥いや、お前なら俺様を弄りだしそうでムカついてきた‥。そのヘタレな顔に落書きでもしてやろうか



「んん‥」


「っ、」


「きいち~‥ふへへ‥くかー」






‥。


あーあ、
お前がいる未来は‥想像するだけで楽しくて堪らないわ‥


こんな俺様の偉大な心を
いつかお前は知るんだぜ?光栄に思えよー。

はは、覚悟しとけー。


重くて押しつぶされねえように
甘くて溶かされねえように‥な。



白い頬に触れる。
サラリとした前髪を流してやり、
その髪に口付けた。




「俺様の全てをやるからさ‥



だから、お前の全てを



寄越せよ、光ーー」








「ぐへへ、ヤダッ!!」




「‥」



よし、ペンは油性にきーまりっ!
魔王様が直々にサインしてやるんだぞ!
嬉しいだろう?なあ?


調子に乗ってんじゃねえぞー
クソチビぃ‥







K side endーー


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