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第5章 再開編

疑問

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疑問を抱くのは当然だった。


忘れていくラシルの記憶もそうだが、
このからだには生きるために必要な、食欲というものが存在しないのだ。
この身体が欲するのは喜一、魔王の魔力のみ

普通の人間ならば生きていけない。




聞いたことがある。
魔の王は、魔を生み出すことができる。
特殊な力を持ち、
彼らの生命力は、魔王から与えられると




俺は‥ずっと気づかないふりをしていた。



振り返れば庭なんてなくて、
そこは森の終わり。

目の前には広大な海が広がっていて、
島の外れまで来てしまったのだと認識した。



「俺‥人間じゃなくなってるよな」

確実にやばめな脚力とスピード。
溢れ出す力は、先程喜一と口づけを交わしてからだ。

喜一が追いかけてくる気配がないのは、
俺を見失ったのか、はたまた青に捕まったのか


俺に呆れてしまったのか‥

「っ、くそ」

記憶が分かれている。
一つだった思い出が、二つにキッパリと‥。
そしてその人格ですら、引き離されるような感覚が気持ち悪くて仕方がない。


喜一への想いを自覚した自分と、
それに喰らい付こうとするもう1人の自分がいて、争っているような‥

おかしな話だ。
元は一つのはずなのに、どうしてこんなことに‥


「はぁ、それにしても‥魔の王様と、鬼畜な鬼のボス‥俺って趣味悪いわほんと」

自意識過剰なら痛い奴だが、
たぶん喜一は、俺と同じ気持ちだと思う。
だけど、他の人を想いながら愛すのは、違う‥喜一に失礼だ。

サルファーの記憶はラシルに縋り付いたまま。彼の幸せを願いながら、そこに自分がいない事に絶望を感じている。
ラシルには犬くんがいるし、あのまま記憶を思い出さずに幸せに‥平凡で幸せな日常を過ごしてくれたらそれでいいはずなのに、

ズキリと痛む心臓に嫌気がさす。

どうしてそこまで縋り付く?諦めているなら、前へ進むべきだ。


そうすれば、全てうまくいくのに‥
くそ、くそッ

どうして

掴まれた温かい温度が、
握り返された大きな手が

俺を引き止めてしまう。



2人を愛した滑稽な魔族‥笑えるぜ‥
ほんと、笑える





俺‥どうすればいいんだろう‥


弱々しいその言葉は、
海の波にかき消されて
誰にも聞こえないまま夜の底へ沈んでいった
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