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第八話
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しおりを挟む一方、ティアリーゼは親しく話す相手もなく毎日を一人で過ごしていた。
もっとも、正確に言えば一人ではない。
今も結婚式のドレスを作るために、何人もの針子たちが集まっている。
しかしどうにも空気が重かった。
(なにか喋った方がいいのかしら……)
「……あの」
ついに耐えきれず声を発すると、一気に緊張が走った。
十人以上も人がいるというのに、誰もティアリーゼと目を合わせようとしない。
視線を動かせば、皆不自然に顔を背けてしまう。
(結婚をよく思われていない……ってところかもしれないわね)
下手に声をかけない方がいいかもしれない、と口を閉ざす。
再び沈黙が下りてしばらく。
ティアリーゼよりもずっと年下に見える少女が勢いよく立ち上がった。
「ティアリーゼ様はこれでいいんですか!?」
「えっ」
少女に詰め寄られ、うろたえてしまう。
「これでいいって……なんのことを言っているの?」
「結婚です! 今回の結婚は亜人とだなんて……!」
「やめなさい、ミリア!」
他の一人が少女を止める。
それでも、ミリアと呼ばれた少女は黙らなかった。
「いくらこの国のためだからって、こんな結婚はひどすぎます!」
(……え?)
「ティアリーゼ様が犠牲になることなんかないです! せっかく無事に魔王のもとから帰ってこられたのに……!」
(……あれ、私ってどういう風に伝わってるの?)
「あの……ちょっといいかしら」
鼻息を荒げているミリアにそっと声をかける。
誤解があるのは間違いなかった。
ティアリーゼは望んでシュクルの妻になるのだし、帰ってきたのだってむしろシュクルの協力があってのことだった。
「私のことをどう聞いているの……? その……犠牲とかって聞こえたけれど……」
「それは――」
他の者が止めるのも聞かず、ミリアは語りだした。
ティアリーゼは勇者として旅立ち、そして死闘の果て、魔王に囚われてしまったのだと。なんとか逃げ出してきたが、魔王はお気に入りの玩具を手放すつもりなどなく、国を滅ばされたくなければティアリーゼを差し出せと言っていると――。
「待って、お願い。ちょっと待って」
(なにからなにまでどうしてこんなことに)
ティアリーゼは額を押さえ、今の話をなんとか飲み込む。
勇者として旅立った、以外に合っている箇所がひとつもない。しいて言うなら、シュクルがティアリーゼを手放したくないと思っているところだろうか。だが、それ以外は事実無根の、ティアリーゼ自身混乱するような内容だった。
「それは事実ではないわ。私は自分から望んで……」
「おいたわしいです。なんて健気な……」
(……いやいや)
自分より年下の少女に本気でそう言われるのは、なんとも居心地が悪い。
これは誤解を正した方がいいだろうと、その場にいる全員を見回す。
「他のみんなも、そういう風に聞いているのかしら?」
「……はい」
「ティアリーゼ様は毎晩泣いていらっしゃると聞きました」
「お部屋の前を通るとすすり泣きが聞こえたという話も……」
思っていたよりもずっとおかしな方向に話が広がっていたらしい。
しかも彼女たちはそれを信じている。
これは一大事だった。
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