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第九話
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しおりを挟むセランの一世一代の告白を聞いたキッカはすぐに返事しなかった。
それどころか、いつまで経っても黙っている。
「……キッカ?」
あまりにも反応がないことを不安に思って近付く。
目の前でひらひら手を振ってみた。
が、やはりキッカは黙っている。
「どうしたのー?」
ここまで来ると恥ずかしさなど吹き飛んでしまっていた。
せめてなにか言ってほしいと顔を覗き込む。
とても小さく、ぴぃ、と鳴き声が聞こえた。
「ぴ?」
「お前なー……」
キッカがその場にしゃがみ込んでしまった。
頭を抱えて、ちらりとセランを見上げる。
「もっと恥じらいってもんがねぇのかよ」
「だって、キッカがいつまで経っても言ってくれないから」
「言わなくてもわかるだろー」
「わかるかもしれないけど、言ってほしいの」
気付けば、セランもキッカの前に座っていた。
仮面を挟んで見つめ合う。
「キッカってお喋りなのに肝心なことは言わないね? 魔王のこともそうだし、今だって。うじうじしてたら私に逃げられちゃうよ。前科持ちなんだから」
「あー……うん、そうだよな」
「……ここまで言ってるのに、聞かせてくれないの?」
「…………言えねぇから歌うんだろ」
また、ぴぃ、という声が聞こえた。
「俺、結構照れ屋なんだよなー、たぶん」
「…………顔、隠してるのに」
「これだって、恥ずかしいから取りたくねぇんだもん」
少しだけ、この場で取ってくれないかと期待する。
「…………あー」
キッカがうつむく。
もう、セランは急かさなかった。
「……あのさ」
「うん」
「……俺の卵、温めてくれねぇか」
「…………えっ」
(……あ、そういう)
おそらく、これがキッカなりの言葉なのだろう。
仮面の裏側は真っ赤になっているに違いなかった。
(私が思ってた言葉とは違うけど)
「人間だから卵は生めないと思うの。それでもいい?」
「じゃあ、人間ってどうやって増えるんだよ」
「えっ。……ふ、普通に?」
「俺の普通が卵なんだって」
ほー、とセランは思わず息を吐いていた。
亜人と人間と、こういうところでも認識の違いがある。
「おばあさまに聞いておけばよかった。鳥と結婚するときの心得みたいな」
「お前がここにいるってことは、まぁうまくいくってことなんだよな」
「たぶん?」
「じゃあ、いいや」
キッカが笑ったような気がした。
「俺、お前とつがいになりたいよ。人間相手に恋なんてありえねぇと思ってたのにな」
「私もキッカだけはないと思ってたんだけどなぁ」
「……どこで変わったんだ?」
「うーん……。はっきりしたのは、離れてる間だったかな」
キッカと会えずにいたのは、ほんの十日ほど。
そのたった数日でセランは自分の気持ちを知ってしまった。
「ずーっとキッカのことを考えていた気がする。ウァテルに初めて行った感想も聞いてほしかったし、二度と会えないって思ったら絶対嫌だったし……。……あ」
「うん?」
「たくさん助けてもらったお礼に魚を買ったの。でも、渡せなくなっちゃった……」
「いいよ。今度は俺がウァテルまで運んでやる」
「本当? 楽しみにしてる」
しゃがんだまま、セランは嬉しそうに笑う。
「芸を見せろって言われて歌ったときもキッカのことを考えて歌ったんだよ」
「言ったじゃん。まっすぐ俺に聞こえてたって。……ちょっと照れた」
「どういう意味の歌か知ってたんだもんね」
「おー」
「あんまり照れそうな人だと思ってなかったんだけど、意外だなぁ」
じ、とセランがキッカを見つめる。
「照れた顔、見たい」
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