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第十話

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 そんな日々はだらだら続いた。
 あまり大きな変化がないのはありがたかったが、さすがにこれでは変わらなさすぎる。
 かといって、この城にいる誰かに相談することはできなかった。
 キッカに好きだと言ってもらえたことは大いに触れ回りたいが、こんな微妙な距離感でいることまでは話したくない。

(昔だったら、サリサに相談したんだけど)

 ここには親しい女友達がいない。一番親しいのはカフである。
 セランが無事に戻ってきたあと、カフは本当に喜んでくれた。
 いなくなって数日、カフはセランが自分には伝えずどこかを楽しんでいるのだと思っていたらしい。そういうことは往々にしてあるもの。だから最初はあまり深く考えていなかったと言う。
 鳥らしい考え方だと思ったことを、セランは伝えなかった。
 カフに伝えてくれたのはやはりミウだったらしく、何人かの女と共に教えに来てくれたと言っていた。
 無事に逃げられたのだと改めて知ったセランは心からほっとした。
 彼女たち全員にもう一度会える日が来るかどうかはわからない。
 だが、長い人生の中でいつかはそんな日も来るだろう。ナ・ズを案内するときも来るかもしれない。
 ちなみに、置いていってしまった魚はカフが回収してくれていた。
 だが、さすがに日にちが経ってしまい、腐る前にキッカに渡したと言う。
 大切な食べ物が無駄になることと、キッカにお礼を言いたかったセランの気持ちと、カフが優先したのは前者だった。
 しかし、セランは怒らなかった。
 ナ・ズは過酷な地域である。当然、食料がいつ手に入るかわからない状況も少なくなかった。ましてやカフは亜人であり、人間のセランよりも獣としての本能が強い。気持ちなどという曖昧なものを後回しにしてしまうのも仕方のないことだった。
 とはいえ、セランに対して申し訳ない様子は見せたが。
 ちなみに贈り物を受け取ったキッカは、ほくほくしていたという。まさかその数日後に、セランが攫われていたらしいという話を聞くことになるとは思わなかっただろうが。

(あ、そうだ)

 ふっとセランは大切な友達のことを思い出した。
 しばらく会っていない上に、謝らなければならないことがある。

(ティアリーゼに会いに行こう。キッカに行ったら、連れて行ってくれるかな?)

 キッカと話すきっかけを見つけられたのが嬉しい。
 それと同時に、またしゅんとした。

(もし、キッカがそれほど私を好きじゃない……なんて結論になったらどうしよう?)

 現状を打破したいが、答えを知るのは恐ろしい。
 セランはいまだ、恋に振り回され続けていた。
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