婚約破棄されたので魔王になります。

晴日青

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終幕

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 夜、やっぱり歌っているキッカのもとに歩み寄る。

「キッカ、ちょっといい?」
「どした?」

 歌がやみ、風の音が吹き抜ける。
 顔が熱いせいでその冷たさをいつも以上に感じてしまった。

「きょ……今日、一緒にお風呂入らない?」
「…………はぁ?」

 いくら夫婦だとはいえ、とんでもない誘いだった。
 湯浴みをするということは、必然的になにも身に着けていない身体を見せるということになる。すさまじく恥ずかしいが、背に腹は代えられなかった。

(服も脱ぐんだから、仮面だって脱ぐに決まってる!)

「いつもお互い、いつの間にか入ってるでしょ? 今日くらいはその……夫婦として、あの……そういう……。……とにかく必要だと思わない?」
「俺、そもそも水嫌いだし」
「水じゃなくてお湯だよ! だから大丈夫!」
「濡れんのが好きじゃねぇんだよなー」

 ぐ、とセランは言葉に詰まる。
 キッカが水嫌いなのは知っていた。なんでも、羽根が重くなるらしい。
 なぜ、羽根のない人間の姿のときにまでそう言うかは理解に苦しむが、獣としての苦手意識が先に立つのだろう。
 だから、キッカの湯浴みは本当に一瞬だった。水が貴重だとわかっているセランはゆっくりじっくり入浴を楽しむが、キッカはぱっと洗ってぱっとあがってしまう。
 砂と埃にまみれた身体のままでいないだけいいのかもしれないが、今回ばかりは困る。

「じゃ……じゃあ、背中流してあげる!」
「いいよ、別に。自分でやれるし」
「髪を洗うのは? ほら、人にやってもらうと気持ちいいって教えてあげる!」
「それも自分でできるって」

 まったく揺らがないキッカにぐぬぬと声が漏れる。

「ああ、そっか。お前も俺の羽繕いしたいのか?」
「えっ。は、羽繕い?」
「シュシュも尻尾の手入れしてもらってるって言ってたしな。人間ってそういうの好きなんだろ?」
「え……いや、それは違うというか……」
「俺、水は嫌いだけど綺麗好きだから大丈夫。尾羽が汚れたまんまなんて耐えられねぇもん」
「う、うん……」

 もうどうすればいいかわからず、やはりセランは引いてしまった。
 羽繕いというのをさせてもらえるなら、それはそれでいいかもしれないと思ったが、それでは目的が変わってきてしまう。
 セランの目的はあくまでキッカの仮面の内側。そこに隠された素顔なのである。

(どうしたらいい……)

 ここまで悩むのは人攫いに連れ去れたとき以来かもしれなかった。
 考えれば考えるほど、いい方法が思いつかなくなる。

「……とりあえず、先にお風呂入ってくるね」
「ちゃんと拭いてから出てこいよ。いっつも髪、びしょびしょのままだからな。風邪引いてからじゃ遅いぞ」
「はーい……」

 相変わらず面倒見のいい夫に生返事をする。
 その後、考え事に没頭したせいで言われたことを忘れ、キッカに呆れながら叱られたのは当然と言えば当然のことだった。
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