恋愛ビギナーと初恋イベリス

からぶり

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3-1 紗倉奏太とファッションセンス

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 じりじりと夏の日差しが肌を焦がす、雲一つないよく晴れた日曜日。
 遊びたい盛りの高校生にとって、日曜日というのは特別な一日であり、学生それぞれが思い思いの休日を過ごしていることだろう。

 カラオケやボウリングで遊んだり、空調の効いた部屋でゲームに興じたり、友達とランチに行ったり。

 後は……そうだな。

 服を買いにショッピングに来たり、とか。

「ねぇ紗倉君、どうかな? これとこれ、どっちがいいと思う?」
「え? ああ、うん……ど、どっちも似合ってると思うよ」
「もうっ、紗倉君さっきからそればっかりなんだから」

 ここは地元から少し離れた場所にあるショッピングモール。おしゃれなお店が数多く立ち並ぶ、俺には縁遠い場所である。

 そんな縁遠いはずの俺は現在、ショッピングモール内にあるおしゃれな洋服店にて、自分の置かれた状況に戸惑いを隠せないでいた。


 ……どうしてこうなった?


「そうだ、紗倉君にも選んでもらおうかな。どれがいいと思う?」
「あ、あはは……いやー、俺にはおしゃれってよく分からないから……」

 目の前でそんな無茶振りを要求してくるのは学校一の美少女、西木詩想さん。

 彼女の私服姿に緊張する俺などお構いなしに、西木さんはこの服可愛くない? この服似合うかな? と、次々と服を手にとっては感想を聞いてくる。


 もう一度言おう――どうしてこうなった!?

 ○

 時は今日の朝にまで遡る。

「なんてことを言うんだっ!」

 そんな悲痛な叫び声が、我が家のリビングに響き渡った。

 時刻は午前九時。天気もいいしちょっと出かけようかな、なんて気まぐれを起こした俺は、自分なりにカッコいいと思う服装に着替えたのだが、それが事の始まりである。

「聞こえなかった? ならもう一度言ったげるよ」
「い、いやいい! 言わなくていい!」

 ソファにだらっと座ってテレビを眺めているのは、妹の奏恵(かなえ)ちゃん。

 少し赤みがかった癖っ毛の髪は肩にかかるくらいの長さで、たれ目の少女。その顔立ちに、どことなく俺に似た部分もあるのはやはり兄妹と言ったところか。まあこれを言ったら奏恵ちゃんはすごい嫌がるんだけども。

 そんな彼女はリビングに入ってきた俺を見るなり、あまりにも失礼なことを言ってきたのだ。

「おにぃのその服、ダサくない?」
「だから言わなくていいって!」

 奏恵ちゃんの兄に対する毒舌に躊躇がなさすぎて困る。
 多感な年ごろの男子高校生としては、妹の心無い言葉に傷つくばかりだ。

「ダサいってなぁ! 家族からそういうこと言われるのが一番傷つくんだからな!」
「家族以外から指摘される方が普通嫌でしょ。それにその恰好で外出て恥をかくのはおにぃなんだよ?」
「ぐっ……そんなにダメかなぁこれ……俺なりにおしゃれしたつもりなんだけど……」
「はぁ? 冗談でしょ、おしゃれ舐めてんの?」
「そこまで言う!?」

 自分の服装を見下ろしてみる。

 普通のジーパンにお気に入りのTシャツという、確かにおしゃれじゃないかもしれないが、それでも無難な恰好をしているつもりだ。まあおしゃれに関しては俺なんかより奏恵ちゃんの方が詳しいだろうし、奏恵ちゃんが言うのならおしゃれどころかダサいのだろうけど。

 しかし俺はお兄ちゃん。妹に言われっぱなしではいられない。ここはびしっと言い返してやらなければ。

「それならどこがおしゃれじゃないのか教えてもらおうじゃないか!」
「ジーパンはサイズが合ってなくて足が短く見える。シャツも色褪せてしょぼく見えるし、首回りがよれてるのがだらしない。黒い生地にピンクの英字とか中学生なの? しかも靴下に穴空いてるし」
「あ、はい……なんかすいませんでした……」
「全体的にみっともない」
「すいませんでした!」

 心がえぐられる思いだ。まだ言い足りないとばかりにジト目な奏恵ちゃんに、もう勘弁してくれと白旗をあげる。

 ここまで酷評されてしまうと、俺にはファッションセンスがないことを認めざるを得ない。別に自分自身おしゃれでありたいと思っているわけではないが、しかしダサいとまで言われてそのままにするのもいかがなものか。

「奏恵ちゃん。お願いがある」
「無理嫌だ面倒くさい」
「どうか俺におしゃれを教え――って、言う前に断らないで! それも三回も!」

 俺だってあんなに言われてそのまま放置することなんて出来ないんだ。もし私服で薺奈ちゃんに会う機会があった時、『先輩の服ださーい!』なんて笑われちゃうかもしれないじゃないか。それで薺奈ちゃんに嫌われでもしたらどう責任とってくれるんだ。

「お願いだよこの通りだ! 奏恵ちゃんだって友達に『奏恵ちゃんのお兄ちゃんっておしゃれだよね』って言われたいだろう!? それとも『奏恵ちゃんのお兄ちゃんって、服のセンスないよね。奏恵ちゃんもそうなの?』とか言われてもいいのか!」
「う……それは嫌だけど……」
「だから頼むよ! ねっ?」

 必死に頭を下げて懇願する。
 奏恵ちゃんは憎々しげにこちらを睨んできて、だいぶ迷っている様子だ。

「で、でもやっぱ無理! おにぃと買い物とか、知り合いに見られたら恥ずかしいじゃん!」
「何をぅ!? お兄ちゃんのどこが恥ずかしいっていうんだ!」
「その恰好だよ!」

 なんて強情な妹なんだ。兄のお願いくらい、素直に聞いてくれてもいいじゃないか。

「分かった奏恵ちゃん。それなら一つ交換条件を出そう」
「ふん! どんな条件出されても絶対嫌だから!」
「奏恵ちゃんの服も一つ買ってあげるよ」
「何ぐずぐずしてんのおにぃ! 日曜日は混むんだから早く行くよ!」

 見事なまでの手のひら返し。
 このチョロさ、さすがは俺の妹だ。
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