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しおりを挟む「君は、いい友人だと思っていたのに残念だ。失望したよ」
「で…ん、か?」
「国王にも次ぐ聖女を貶めた罪、国家反逆罪にもなる。連れていけ」
「そんな、…聖女って…」
殿下の傍らには、ピンクゴールドの髪を背中に流した彼女が寄り添うように立っている。
殿下は彼女の腰を引き寄せ、大事そうに抱えた。
やはり彼女が聖女だったのだろうか?
だとしても、私は何もしていない。
そう否定しても、聞き入れてもらえず、私は衛兵に連れて行かれそうになる。
「お兄様!助けてください!………おにい、さま?」
私の後ろにいたお兄様に助けを求めて、お兄様の顔を見た私は硬直した。
「聖女を汚したその口で、お兄様等と呼ばないでもらえるかな。虫酸がはしる」
「え…」
「君と私はもう兄妹でも何でもない。公爵家とも縁を切らせてもらった。ただの他人だ。」
「そ…んな…」
私を人とも思わない、冷徹なアクアブルーの瞳で私を見下ろしていた。
お兄様が…私に、こんな表情をするなんて…
いや、信じたくない。うそ、うそ、嘘と言って!
「お兄様!私は無実です!信じてください!!」
「…五月蝿いね…そんなに死にたいの?いいよ、元兄だった誼だ、私が殺してあげよう」
剣を片手にお兄様が近づいてくる…
「い…や、ちがう、私は…やってない…おにい、…」
「いやああああああああ!!!」
「ユリーナ!!目を覚ますんだ!!」
「いや、いや!」
「ユリーナ!!」
「お、兄さ、ま?」
「ああ、そうだよ」
『そんなに死にたいの?』
『私が殺してあげよう』
お兄様の顔に夢が重なって見える。
「っひ、いや、私じゃない、こ、殺さないで!」
「ユリーナ!?ッくそ、ごめん、ユリー」
「!?っふ、」
一瞬何が起きたのかわからなかった。いや、夢で情緒がおかしくなっている時点で元から頭など回っていない。
気がついたらお兄様に口を塞がれていたのだ。
まだ意識が朦朧としている私はただ息が苦しくて、首を反らしてお兄様から離れようとする。
だが、そんな私をお兄様は逃がさないとばかりに
私の頭を固定し、もう一度唇を合わせてきた。
「んん!?」
無理やりされているはずなのに、何だか体に暖かい力が注がれているような感じがして…
いつの間にか私はその心地よさに身を委ねていた。
「ふぁっ、」
体の力が抜けてしまっていた私は
お兄様のなすがままになっていたが、
暫くするとチュッと最後に音を立ててお兄様の唇が離れていった。
「ユリー、落ち着いたかい?」
「……はい…」
「大丈夫、もう何も怖くないよ。もう少しお休み。」
お兄様の優しい声に微睡み、そのまま私は眠りについていた。
____________________________________________
キリクside
学園からユリーナが倒れたという連絡があったときは心臓が止まるかと思った。
父上にも報告し、自分が迎えに行く事を告げ、
流行る気持ちで学園に向かった。
医務室に着くと、ちょうど入れ替わりで宮廷魔術師が中から出てきた。
怪訝に思いながらも自分も中へ入る。
すると其処にはユリーナの手を握り、祈るようにしている殿下がいた。
「殿下」
「…あぁ、キリク殿か。」
「ユリーナは…」
「先ほど意識が戻って、今はよく眠っている。もう大丈夫だろう」
そう言われてユリーナの様子を見れば、スヤスヤと安心した表情で眠っているのがわかる。
妹の為に、ありがとうございました。と頭を下げる。
「構わない、彼女は私にとっても大切な友人だからな」
そう言う殿下の視線はユリーナに向いたまま。
殿下…貴方は…
同じ男として、殿下の表情で気付いてしまう。
友人と言いながら、その瞳は友人を見る目ではないということ。
愛しい者を見る瞳だということに。
最近、学園でユリーナと殿下の噂が流れている事は知っていた。
だが私は只の噂だろう、と信じてはいなかった。
事実、ユリーナ自身もいつも通りで、ユリーナから殿下の話を聞いた事もなかった。
お茶会にすら出席したことのないユリーナが、殿下に慕われているとは思えない。
それも相思相愛だ等と言う。
それこそあり得ないと、笑い飛ばしたものだ。
だがどこかでまさかと思う自分がいて、無意識に考えないようにしていたのかもしれない。
殿下がユリーナを心配そうに見つめるのを見て、私は心が騒いだ。
いくら相手が王族だろうと、ユリーナを渡したくない。
そんな己の嫉妬心をおくびにも出さず、殿下の横を通り過ぎ、ユリーナを抱えた。
もう一度殿下にお礼を言い、失礼します、と外へ向かう。
「待ってくれ、これを。」
そう言って殿下が手渡してきたのは深碧色の石がついたネックレスだった。
一見、ただのアクセサリーに見えるが、
それから感じる魔力から、殿下の意図を理解し、そのまま受け取った。
深い碧色の石が、殿下の瞳の色と同じなのは偶然なのか…
腑に落ちない顔をしていた私に、勘違いしたのか、殿下は後日説明すると言う。
だが、説明すると言う殿下には悪いが、
何故魔道具が必要かなどはもうわかっている。
最近のユリーナから感じる別の魔力の気配、
ユリーナの様子がおかしいこと。
今日倒れたこと。
先ほど宮廷魔術師がいたこと。
極めつけはこのネックレスだ。
元々、公爵家でもユリーナの周辺は調査していたのだ。
犯人も目星がついている。
だが決定的なものが足りなく、まごついている状態だった。
そうこうしているうちに、こんな事が起きてしまった。
ユリーナを守ると誓ったのに、全く出来ていない。
殿下に嫉妬しながら、自分の不甲斐なさに反吐がでる。
それから数日後、ユリーナからアンカー嬢の話を聞いて、ちょうど良い機会だからと、殿下とアンカー嬢を公爵邸に招き、話をした。
殿下の話は私の予想通りで、隣に座って聞いているユリーナが見ていて痛々しかった。
終始私は聞きに徹していたが、
ユリーナの辛そうな表情を見て、肩を抱いて慰める。
今は、いや、今までも、此れからも、私はユリーナを守ると言い続ける。
そして実際に守るだろう。
彼女が聖女でなくても関係ない。ユリーナがユリーナで有る限り私の気持ちが変わることはないのだから。
だから、ユリーナの肩を抱いたときに然り気無く殿下に牽制した。
殿下は一瞬顔をしかめたが、すぐに元の表情に戻り、学園では自分がユリーナを守ると言う。
そんな殿下を見て、中々一筋縄では行かなさそうだ…と苦笑いした。
また暫く、一応平和に過ぎていた事に安心していたのかもしれない。
ユリーナが殿下に送られて帰って来た。
ユリーナに聞いても何でもないと言う。
殿下には送っていただいた上に引き留めるのは申し訳ないからと、ユリーナがそのまま帰したようだった。
私が執事に聞いて、ユリーナを出迎えに外に出たときには既に帰られた後だったため
話を聞く事は出来なかった。
抵抗魔法を掛けてもらい、魔道具も着けているのだから大丈夫だとは思うが…
「ユリーナ、魔道具はちゃんと身に付けている?」
「肌身離さず身に付けています、お兄様。」
それを聞いても私は安心出来なかった。
暫くして、ユリーナが寝に着いた頃合いを見計らうように、
ユリーナの寝室から、以前に感じた魔力の残滓が現れている事に気付いた私は
急いでユリーナの部屋へと向かい、私は絶句した。
「…うぅ、」
「ユリーナ?ユリーナ!目を覚ますんだ!」
ユリーナの周りには、禍々しい黒い靄が漂っていた。
何故、宮廷魔術師からも、魔道具すらも役に立たないと!?
その間にもユリーナは魘されたまま…
「…いや、助けて、お兄様…」
「ユリーナ!ユリーナ!っっ、!?」
その時、ユリーナを揺する腕から伝わるように、頭の中に映像が流れてきた。
突然の事に驚きながらも、私はその頭に映されるモノに戦慄した。
『お兄様!私は無実です!信じてください!!』
『…五月蝿いね…そんなに死にたいの?いいよ、元兄だった誼だ、私が殺してあげよう』
『い…や、ちがう、私は…やってない…おにい、…』
泣きながら懇願するユリーナに向かってその私は剣を振りかざし……
「っっ!!だめだ!ユリーナ!」
「いやああああああああ!!!」
「ユリーナ!目を覚ますんだ!!」
だが、やっと目を覚ましたユリーナは私に怯えて殺さないでと暴れてしまい、我を失っている。
しかもそのユリーナの体から、残り少なくなった彼女の光魔法の魔力が何かに引っ張られていることに気付いて、
ユリーナの周辺をまた見回すと、先ほど見たあの黒い靄が今にもユリーナに入り込もうとしている。
自分も一応抵抗魔法は使える為、最初からユリーナに魔法を掛けているのだが、全く効いていない。いや、寧ろ弾かれている。
呪いの魔力が私の魔力を上回っているのか、呪いが弾き返しているようだった。
だからと言って、何も手がない訳ではない。ただひとつ問題があるとすれば…
私は意を決して行動に出た。
ごめん、ユリ―。
誤りながら、ユリーナの口に口付ける。
突然の事に驚いたのか、一瞬ユリーナの体が固まるものの、
息が苦しくなったのか、いやいやと首を反らす。
嫌がるユリーナの頭を支え、腰を強く抱いたまま、またユリーナに口付けた。
私は体内で抵抗魔法の魔力を練ると、そのままユリーナに流すように口から送り込む。
少しでも魔力を漏らさないようにと、更に深く口付けた。
暫くすると、ユリーナが大人しくなったことに気付いた。
既に私に身を委ねているユリーナの表情は、恍惚としていて、まるで、"もっと…"と言っているようで…
もう魔力は流し終えているのにもかかわらず、私はユリーナが抵抗しないことをいいことに、
その欲望のままに深く口付ける。
「ん、…ふぁ、」
緩く開いた唇の隙間にするりと舌を入れ、そのままユリーナの口腔を這いまわるように堪能し、
ユリーナの舌を絡めとる。
「んあ、…はあっ」
そのユリーナの舌をちゅうっと吸えば、ユリーナの体がびくんっとなった。
「…っふ、ん」
まだ意識が覚醒していないのか、素直に私に答えてくれるのが嬉しくて、
何度も角度を変えながらユリーナとのキスに酔いしれる。
途中で漏れ聞くユリーナの艶声に、自身が熱くなって行くのがわかる。
これ以上は駄目だ…と自分に言い聞かせ、名残惜しくも
ちゅっと音を立てて唇を離した。
医療行為と称してユリーナに無体をしたことに罪悪感はあった。
だがそんな事はおくびにも出さず
何事もなかったかのようにユリーナに話し掛けた。
私の言葉に頷くユリーナに、まだ朝は早いからと、
まだお休み。と促した。
例え夢の中の私に対してだろうとも、ユリーナに怯えられるのは辛い。
早く何とかユリーナを解放させなければならない。
でないと、ユリーナが壊れてしまうだろう。
ユリーナ、君を守るためなら何でもしよう。
愛してやまない、いつも君の事を想っている…
愛しているから、どうか離れていかないでくれ…
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