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キリク・フェリス

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「……っぐ、カハッ……」




………え……?


お、にい、さま………?


新たに来るだろう痛みに備えて気を引き締めていたが、
それは来ることはなく、

代わりに聞こえて来た苦しむお兄様の声。



閉じていた瞼を開いた目に映ったのは、
私に刺す筈だった剣を己の腹に刺しているお兄様の姿だった。




「………ハッ、ユ、リー…ナ…ご……めんよ。助け……られな……」


「__っ!~~!!」



口から血を吐き、必死に言葉を紡ぐお兄様は、震える手で私の頬に触れた。


どうして、どうして!?

本当は……私が死ぬ筈だった。

このままではお兄様が……お兄様が……死ぬ……?


っ!そうだ、エリアナに_

彼女に聖女の魔力でお兄様を治して貰えれば……!


そう思ってエリアナを見れば、
彼女もまさかこんな事になるとは思ってなかったのか、狼狽えているのがわかる。


とにかく治して欲しい……そう思いを込めてエリアナに視線を送るも、彼女は嫌々と首を振った。


「そんな男、もういらないわよ、もう術も効かないだろうし。」

だからそのまま返してあげる。

そのエリアナの言葉に、私は怒りと絶望を抱いた。


人を散々操り、術に反発すればもういらないと切り捨てる。

人を何だと思っているのか。


そして、お兄様を治して貰えないという事は間違いない。


嫌だ、嫌だ、嫌だ!!


「…私の、事は……もう……いい……んだよ、ユリーナ…。」


泣きながら首を振る私に、お兄様は困ったように微笑む。

「…私は、ユリーナを、……殺さずに…すんだ。」

それだけでも私は救われたんだ。そう言うお兄様の目からも、涙が流れた。



私の体にある魔獣に襲われた傷に目を向け、お兄様はまた私の顔に視線を戻した。


「君を、……助ける……事は、出来ない…けれど…、君と、一緒に……逝く事はできる…」


確かに私自身も限界だった。


でも……


「ユリーナ……愛しているよ。……私の……唯一の…愛しいひと……」




私自身も意識がなくなっていく……


私を抱き締めたまま、事切れたように動かなくなったお兄様……。


私もそのまま力が無くなり、自然に瞼が閉じていった。































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「お兄様~!今日は何処に行きますか!?」


「そうだね~、じゃあ、今日は北の方へ行ってみようか。」


「はい!」



この世界は万年常春のようだ。

まるで、桃源郷かと思わせる程の安らかで、心地よい世界。

お兄様と、私、二人しかいない。


あぁ、幸せだ………

大好きな人と、ずっと一緒にいられる。

これ以上の幸せはないのではないか。




でも、何か忘れているような………



「ユリー、どうしたんだい?」


考え込んでいた私を抱き寄せ、お兄様が優しく問いかける。


何でもありません。と首を振ると、そうか。と返事が返ってくる。


「お兄様といられて、幸せだなぁって思ってたんです」


「……あぁ、私も幸せだ。愛しているよ、ユリー。」



お兄様に体を委ね、私達はゆっくりキスを繰り返した。







___ねえ、本当にそれでいいの?



どこかで聞いた事のある声は、私達には聞こえはしない………





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