2 / 12
15歳
8月9日
しおりを挟む
「ちゃんと勉強して!高校生になりたくないの!?」
母からの叱責とまではいかないが咎めるような声がリビングに響く。扇風機の前で涼んでいた私は、正直だるいと思いながらも勉強机に向かうべく2階の部屋に向かった。
するとまた母から「ただ勉強するだけじゃ頭に入らないのよ!内容がしっかりと伴わないと・・・。」
「うるさ・・・。」ボソッと呟きイヤホンを耳に突っ込み今お気に入りの曲を聞き始める。
・・・なんて憂鬱な夏休みなんだろう。去年の今頃は大会で忙しく真っ黒に焼けて部活に勤しんでいたのに。
私はつい2週間前に、陸上部を引退した。小さい頃からなぜか走る事だけがすごく得意で、小学生の頃に陸上クラブに入っていた影響でそのまま中学生になってからも迷わず陸上部を選択した。もちろん結果は県でも上位にいた。私の種目は短距離。100mと200mを専門として走っていた。私の中学校は女子陸上部は存在せず、男女陸上部という枠組みで活動しており、中でも私の学年は女子が1人に対し男子が40人もいた。その中で活動していたため、私も普通の女子よりは男気のある女子になってしまったのだ。
そのせいか女友達があまり出来ず、いつも遊んでいるのは男友達だ。そのためクラスの女子からは男たらし、なんていう僻みを言われたこともある。
まあ私は全然気にするタイプではないので益々それが癇に障ったのであろう、多少のいじめは今でも続いている。
だからこそ、私は遠い高校に行くと決めた、陸上で有名な高校に行って、見返してやるのだ、と。
だが部活を頑張ろう、という気と勉強しよう、という気は違うのだ。違う。そう。私の中では違うのだ。
そう言えば、と気づく。母はさっき私に向けて、『ただ勉強するのではなく、内容がしっかりと伴わなければならない。』と言った。なら、今やる気のない私が勉強しても無意味なのではないか、というとんでもない屁理屈の元、電車で1時間ほどの距離に住んでいる祖父母の家に行こうと決めた。
10分後、バッグを持ち完全に出かける格好の私を見た母は、「どこに行くの!?」と驚き引き留めようとしたが、その時既に私は自転車のペダルを思いっきり漕いでいた。
快晴の夏空の下、なんて心地いいんだろう、と詩人家になりそうな勢いで独創的かつバカバカしい考えを撒き散らしながら自転車を進ませる。
駅に着くなりたった今着いた電車に飛び乗り乗り換え2回するとあっという間に1時間経過していて、祖母の家の前に立っていた。
そしていつもの恒例行事を始める。
「しゅん!会いに来たよ!」
私は目の前の犬小屋に向かって話しかける。
すると1匹の柴犬がしっぽをちぎれんばかりに振りながら出てきた。
鼻と鼻をくっつけて挨拶した後は、毛が全て抜けるんじゃないかという程にわしゃわしゃと頭を撫でてしゅんが舐め回すのも気にせずに戯れる。私が祖父母の家に来る理由の一つでもある。
しゅんは16歳のオスの柴犬。人間で言うとだいぶおじいちゃんなのだ。でも小さい時からずっと一緒で、私が20歳になったら一緒に暮らそう、なんて決めたのだ。
ワフワフと転がり回っていると、ガチャリと家のドアが開き、祖母が顔を覗かせた。
「ことちゃん、暑いから中に入りなさい。アイスあるわよ。しゅんもついでに家の中に入れちゃって。」
やったあ!と私はしゅんと一緒に家の中に入る。
そこで祖母から一言。
「お母さんが心配してるわよ?ちゃんとウチくるって言ったの?」と。
あ、言ってない。と気づいた顔をした私を見て、祖父が言う。
「ことちゃんは女の子なんだから。いくら明るくても危ないんだよ。」
「・・・。」
正直そう言われる筋合いがないだろうと私はいつも思う。だって私は陸上部の男子と殴り合いの喧嘩だってしたことある。力だって男の子と同じくらいある。なのになんで女の子なんだからって理由で自由に行動しちゃダメなのか。
ムスッとした私の顔を見た祖父は、まあそのうちわかるよ。とだけ言い、話を逸らした。
その後はしゅんの散歩の途中にボールで遊んだり、私と一緒に走り回ったりと、久しぶりに体をたくさん動かし、帰りは父に迎えに来てもらい、また来るねー、と祖父母に言いながら帰った。
その日の夜、父から話がある。と呼ばれ、1階のリビングに呼び出された。
父は少し険しい顔をした後、こう言った。
「今日みたいにしゅんに会いに行くのはいいんだ。でも、しゅんももう16歳。真夏の昼間に散歩させるのだって、おじいちゃんだから本当は避けた方がいいんだよ。ことみがしゅんに会いたい気持ちもわかる、わかるけどしゅんの体調管理が1番なんじゃないか?」と。
私はいきなり何言い出すんだ、と思った。
今までもそうだったのに、なぜこのタイミングなのか、と。
私の謎だ、と言わんばかりの顔を父はやはり。と言う顔で見た後に続けた。
「ことみも受験生、高校生になるんだよ。しゅんに会うよりも自分の勉強を進めるべきじゃないのか?高校合格、ということがじいじやばあばにとって嬉しいことなんじゃないのか?」
あー・・・結局それが言いたかっただけなんですね。はい。
いつもそうだ。何かしら前置きがあった後に回りくどく本題を突っ込んでくる。家の中では母よりも父の方が気が合うのだが、唯一父に改善点を頼むとしたら、こう回りくどく言ってくるところだ。本当にやめてほしい。
私はうん、わかった、理解したよ。など心無しの相槌をうちながらこの日の親子会議は終了した。
翌日
天気が雨だったため、私はなぜか心を入れ替えたかのように猛勉強し始めた。父にあそこまで言われて何もしないのは逆に自分にムカつくのだ。
ただひたすら部屋に響くのはペンを動かす音と参考書をめくる紙ズレの音。人生で1番(と言ってもまだ15歳)勉強していると思った。
男友達が多いせいか、負ける、という言葉にはとても敏感だ。負けたくない、何事にも、勝つ。受験だって、なんだって私が勝ってやる。そう思って取り組んでいた。
でもこの日を境に、私の中の歯車が、少しずつ狂い、12月、ある事件が起きる。
母からの叱責とまではいかないが咎めるような声がリビングに響く。扇風機の前で涼んでいた私は、正直だるいと思いながらも勉強机に向かうべく2階の部屋に向かった。
するとまた母から「ただ勉強するだけじゃ頭に入らないのよ!内容がしっかりと伴わないと・・・。」
「うるさ・・・。」ボソッと呟きイヤホンを耳に突っ込み今お気に入りの曲を聞き始める。
・・・なんて憂鬱な夏休みなんだろう。去年の今頃は大会で忙しく真っ黒に焼けて部活に勤しんでいたのに。
私はつい2週間前に、陸上部を引退した。小さい頃からなぜか走る事だけがすごく得意で、小学生の頃に陸上クラブに入っていた影響でそのまま中学生になってからも迷わず陸上部を選択した。もちろん結果は県でも上位にいた。私の種目は短距離。100mと200mを専門として走っていた。私の中学校は女子陸上部は存在せず、男女陸上部という枠組みで活動しており、中でも私の学年は女子が1人に対し男子が40人もいた。その中で活動していたため、私も普通の女子よりは男気のある女子になってしまったのだ。
そのせいか女友達があまり出来ず、いつも遊んでいるのは男友達だ。そのためクラスの女子からは男たらし、なんていう僻みを言われたこともある。
まあ私は全然気にするタイプではないので益々それが癇に障ったのであろう、多少のいじめは今でも続いている。
だからこそ、私は遠い高校に行くと決めた、陸上で有名な高校に行って、見返してやるのだ、と。
だが部活を頑張ろう、という気と勉強しよう、という気は違うのだ。違う。そう。私の中では違うのだ。
そう言えば、と気づく。母はさっき私に向けて、『ただ勉強するのではなく、内容がしっかりと伴わなければならない。』と言った。なら、今やる気のない私が勉強しても無意味なのではないか、というとんでもない屁理屈の元、電車で1時間ほどの距離に住んでいる祖父母の家に行こうと決めた。
10分後、バッグを持ち完全に出かける格好の私を見た母は、「どこに行くの!?」と驚き引き留めようとしたが、その時既に私は自転車のペダルを思いっきり漕いでいた。
快晴の夏空の下、なんて心地いいんだろう、と詩人家になりそうな勢いで独創的かつバカバカしい考えを撒き散らしながら自転車を進ませる。
駅に着くなりたった今着いた電車に飛び乗り乗り換え2回するとあっという間に1時間経過していて、祖母の家の前に立っていた。
そしていつもの恒例行事を始める。
「しゅん!会いに来たよ!」
私は目の前の犬小屋に向かって話しかける。
すると1匹の柴犬がしっぽをちぎれんばかりに振りながら出てきた。
鼻と鼻をくっつけて挨拶した後は、毛が全て抜けるんじゃないかという程にわしゃわしゃと頭を撫でてしゅんが舐め回すのも気にせずに戯れる。私が祖父母の家に来る理由の一つでもある。
しゅんは16歳のオスの柴犬。人間で言うとだいぶおじいちゃんなのだ。でも小さい時からずっと一緒で、私が20歳になったら一緒に暮らそう、なんて決めたのだ。
ワフワフと転がり回っていると、ガチャリと家のドアが開き、祖母が顔を覗かせた。
「ことちゃん、暑いから中に入りなさい。アイスあるわよ。しゅんもついでに家の中に入れちゃって。」
やったあ!と私はしゅんと一緒に家の中に入る。
そこで祖母から一言。
「お母さんが心配してるわよ?ちゃんとウチくるって言ったの?」と。
あ、言ってない。と気づいた顔をした私を見て、祖父が言う。
「ことちゃんは女の子なんだから。いくら明るくても危ないんだよ。」
「・・・。」
正直そう言われる筋合いがないだろうと私はいつも思う。だって私は陸上部の男子と殴り合いの喧嘩だってしたことある。力だって男の子と同じくらいある。なのになんで女の子なんだからって理由で自由に行動しちゃダメなのか。
ムスッとした私の顔を見た祖父は、まあそのうちわかるよ。とだけ言い、話を逸らした。
その後はしゅんの散歩の途中にボールで遊んだり、私と一緒に走り回ったりと、久しぶりに体をたくさん動かし、帰りは父に迎えに来てもらい、また来るねー、と祖父母に言いながら帰った。
その日の夜、父から話がある。と呼ばれ、1階のリビングに呼び出された。
父は少し険しい顔をした後、こう言った。
「今日みたいにしゅんに会いに行くのはいいんだ。でも、しゅんももう16歳。真夏の昼間に散歩させるのだって、おじいちゃんだから本当は避けた方がいいんだよ。ことみがしゅんに会いたい気持ちもわかる、わかるけどしゅんの体調管理が1番なんじゃないか?」と。
私はいきなり何言い出すんだ、と思った。
今までもそうだったのに、なぜこのタイミングなのか、と。
私の謎だ、と言わんばかりの顔を父はやはり。と言う顔で見た後に続けた。
「ことみも受験生、高校生になるんだよ。しゅんに会うよりも自分の勉強を進めるべきじゃないのか?高校合格、ということがじいじやばあばにとって嬉しいことなんじゃないのか?」
あー・・・結局それが言いたかっただけなんですね。はい。
いつもそうだ。何かしら前置きがあった後に回りくどく本題を突っ込んでくる。家の中では母よりも父の方が気が合うのだが、唯一父に改善点を頼むとしたら、こう回りくどく言ってくるところだ。本当にやめてほしい。
私はうん、わかった、理解したよ。など心無しの相槌をうちながらこの日の親子会議は終了した。
翌日
天気が雨だったため、私はなぜか心を入れ替えたかのように猛勉強し始めた。父にあそこまで言われて何もしないのは逆に自分にムカつくのだ。
ただひたすら部屋に響くのはペンを動かす音と参考書をめくる紙ズレの音。人生で1番(と言ってもまだ15歳)勉強していると思った。
男友達が多いせいか、負ける、という言葉にはとても敏感だ。負けたくない、何事にも、勝つ。受験だって、なんだって私が勝ってやる。そう思って取り組んでいた。
でもこの日を境に、私の中の歯車が、少しずつ狂い、12月、ある事件が起きる。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる