嘘の愛は惨劇の笑み

むぅたこ

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15歳

8月9日

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「ちゃんと勉強して!高校生になりたくないの!?」
母からの叱責とまではいかないが咎めるような声がリビングに響く。扇風機の前で涼んでいた私は、正直だるいと思いながらも勉強机に向かうべく2階の部屋に向かった。
するとまた母から「ただ勉強するだけじゃ頭に入らないのよ!内容がしっかりと伴わないと・・・。」
「うるさ・・・。」ボソッと呟きイヤホンを耳に突っ込み今お気に入りの曲を聞き始める。
・・・なんて憂鬱な夏休みなんだろう。去年の今頃は大会で忙しく真っ黒に焼けて部活に勤しんでいたのに。
私はつい2週間前に、陸上部を引退した。小さい頃からなぜか走る事だけがすごく得意で、小学生の頃に陸上クラブに入っていた影響でそのまま中学生になってからも迷わず陸上部を選択した。もちろん結果は県でも上位にいた。私の種目は短距離。100mと200mを専門として走っていた。私の中学校は女子陸上部は存在せず、男女陸上部という枠組みで活動しており、中でも私の学年は女子が1人に対し男子が40人もいた。その中で活動していたため、私も普通の女子よりは男気のある女子になってしまったのだ。
そのせいか女友達があまり出来ず、いつも遊んでいるのは男友達だ。そのためクラスの女子からは男たらし、なんていう僻みを言われたこともある。
まあ私は全然気にするタイプではないので益々それが癇に障ったのであろう、多少のいじめは今でも続いている。
だからこそ、私は遠い高校に行くと決めた、陸上で有名な高校に行って、見返してやるのだ、と。
だが部活を頑張ろう、という気と勉強しよう、という気は違うのだ。違う。そう。私の中では違うのだ。
そう言えば、と気づく。母はさっき私に向けて、『ただ勉強するのではなく、内容がしっかりと伴わなければならない。』と言った。なら、今やる気のない私が勉強しても無意味なのではないか、というとんでもない屁理屈の元、電車で1時間ほどの距離に住んでいる祖父母の家に行こうと決めた。
10分後、バッグを持ち完全に出かける格好の私を見た母は、「どこに行くの!?」と驚き引き留めようとしたが、その時既に私は自転車のペダルを思いっきり漕いでいた。
快晴の夏空の下、なんて心地いいんだろう、と詩人家になりそうな勢いで独創的かつバカバカしい考えを撒き散らしながら自転車を進ませる。
駅に着くなりたった今着いた電車に飛び乗り乗り換え2回するとあっという間に1時間経過していて、祖母の家の前に立っていた。
そしていつもの恒例行事を始める。
「しゅん!会いに来たよ!」
私は目の前の犬小屋に向かって話しかける。
すると1匹の柴犬がしっぽをちぎれんばかりに振りながら出てきた。
鼻と鼻をくっつけて挨拶した後は、毛が全て抜けるんじゃないかという程にわしゃわしゃと頭を撫でてしゅんが舐め回すのも気にせずに戯れる。私が祖父母の家に来る理由の一つでもある。
しゅんは16歳のオスの柴犬。人間で言うとだいぶおじいちゃんなのだ。でも小さい時からずっと一緒で、私が20歳になったら一緒に暮らそう、なんて決めたのだ。
ワフワフと転がり回っていると、ガチャリと家のドアが開き、祖母が顔を覗かせた。
「ことちゃん、暑いから中に入りなさい。アイスあるわよ。しゅんもついでに家の中に入れちゃって。」
やったあ!と私はしゅんと一緒に家の中に入る。
そこで祖母から一言。
「お母さんが心配してるわよ?ちゃんとウチくるって言ったの?」と。
あ、言ってない。と気づいた顔をした私を見て、祖父が言う。
「ことちゃんは女の子なんだから。いくら明るくても危ないんだよ。」
「・・・。」
正直そう言われる筋合いがないだろうと私はいつも思う。だって私は陸上部の男子と殴り合いの喧嘩だってしたことある。力だって男の子と同じくらいある。なのになんで女の子なんだからって理由で自由に行動しちゃダメなのか。
ムスッとした私の顔を見た祖父は、まあそのうちわかるよ。とだけ言い、話を逸らした。
その後はしゅんの散歩の途中にボールで遊んだり、私と一緒に走り回ったりと、久しぶりに体をたくさん動かし、帰りは父に迎えに来てもらい、また来るねー、と祖父母に言いながら帰った。


その日の夜、父から話がある。と呼ばれ、1階のリビングに呼び出された。
父は少し険しい顔をした後、こう言った。
「今日みたいにしゅんに会いに行くのはいいんだ。でも、しゅんももう16歳。真夏の昼間に散歩させるのだって、おじいちゃんだから本当は避けた方がいいんだよ。ことみがしゅんに会いたい気持ちもわかる、わかるけどしゅんの体調管理が1番なんじゃないか?」と。
私はいきなり何言い出すんだ、と思った。
今までもそうだったのに、なぜこのタイミングなのか、と。
私の謎だ、と言わんばかりの顔を父はやはり。と言う顔で見た後に続けた。
「ことみも受験生、高校生になるんだよ。しゅんに会うよりも自分の勉強を進めるべきじゃないのか?高校合格、ということがじいじやばあばにとって嬉しいことなんじゃないのか?」
あー・・・結局それが言いたかっただけなんですね。はい。
いつもそうだ。何かしら前置きがあった後に回りくどく本題を突っ込んでくる。家の中では母よりも父の方が気が合うのだが、唯一父に改善点を頼むとしたら、こう回りくどく言ってくるところだ。本当にやめてほしい。
私はうん、わかった、理解したよ。など心無しの相槌をうちながらこの日の親子会議は終了した。



翌日

天気が雨だったため、私はなぜか心を入れ替えたかのように猛勉強し始めた。父にあそこまで言われて何もしないのは逆に自分にムカつくのだ。
ただひたすら部屋に響くのはペンを動かす音と参考書をめくる紙ズレの音。人生で1番(と言ってもまだ15歳)勉強していると思った。
男友達が多いせいか、負ける、という言葉にはとても敏感だ。負けたくない、何事にも、勝つ。受験だって、なんだって私が勝ってやる。そう思って取り組んでいた。
でもこの日を境に、私の中の歯車が、少しずつ狂い、12月、ある事件が起きる。
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