嘘の愛は惨劇の笑み

むぅたこ

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17歳の12月17日

プロローグ

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「愛してる。」そう呟いた後、私は手を振りながら彼の隣から去った。彼は笑顔で「またね。」と言った後、もう一度振り返り、笑顔で帰っていった。
彼は何も知らない。私の顔が疲れ切っているということも。今までの笑顔が全て嘘だとしても。彼は知る由もない。
「今日で何日目だ・・・?」真冬の夜空に向かって自問自答する。時刻は22時。夜空には星が煌めいている。クリスマスが近いせいか、街全体が暖かい空気で帯びている。通りすがる人も浮き足立っているようだ。年末だからと騒ぐ会社員。クリスマスはどこに行こうと話をしているカップル。サンタさんからなにを貰えるかな、と親に聞いている小さい子供。みんな赤の他人だ。けれどみんなには共通していて私だけ違う点がある。
私は偽善者なのだ。嘘に嘘を重ねて、つまらない人生を、17歳になってまでも、続けている。
別になにか特別なものを求めている訳では無い。みんながみんな持っているものだ。私は。普通に愛を求めることが出来ない。永遠に手の入らない愛を求め続けている。気づいているのに。不可能だと知っているのに。それを学習しない私は、バカなんだろう。
ふと彼氏のことを考えた。
彼はダンス部のエースとして、毎日夜遅くまで部活に励んでいる。そんな彼は、誰がどう見てもかっこよかった。
元々周りのみんなから容姿端麗、男女分け隔てなく仲の良いイメージがある、と言われ、実際のところその通りだと私も思う。だからこそ思う。
何故私のような取り柄のない女子を選んだのか。
隣にいて、すごく申し訳なくなる。そんな気持ちをずっと2ヶ月も引きずっているから疲れるのだ、と従兄弟に指摘されたけれど、事実私の方が明らかに見劣りしてしまうのだ。
何故付き合ったのか全て教えて欲しいぐらいだ。
「はぁ・・・。」今日だけでも何度目かわからないため息をまた吐き出す。かじかむ手を、凍りそうになる鼻を、温めてくれる人は、誰もいない。風呂に入れば治る。と勝手に解決しながら自宅玄関を開ける。
おかえり、の優しい母の声、期末テストの結果どうだー?、と苦笑を含んだ父の声。お姉ちゃん遊ぼう、の純粋な弟の声。どれもこれも私にとっては反吐しか出ないのだ。傍から見れば裕福で幸せそうな家。その環境がどれほど私を苦しめているかも知らずに。ただいい子を演じている自分。もはやその自分が正しいのでは、と思っている。
晩ご飯はー?という母からの声掛けをいらない。と呟き切り捨てながら部屋に入り、バッグをベッドの上に投げ捨てる。一気に体全体から力が抜け、床に座り込む。
『ブブブブ・・・』バッグの中のスマホから、メッセージの通知を知らせる音がした。這うようにベッドに向かい、メッセージの送信者を見る。送信者は・・・・・・・・・・・・彼。
『今日は会えて嬉しかった。クリスマスは渋谷に行きたいな!会うために部活頑張ります。それと・・・』
彼からの幸せそうな文面。きっとクリスマスは会えると思っているはずだ。
彼への返信をせずに、ベッドに倒れ込む。
目を閉じると、夢の中へと誘われた。
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