友人が自分はヒロインだと言うので、身の程を分からせる事にした

睫毛

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お助けキャラの役割

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 マルカと別れた後、自室に戻ってすぐにノートとペンを用意する。
 さっき聞かされたあの駄作のような話と、マルカの行動を記していく。


「マルカは誰かを好きな訳ではないけど、身分が高くて見目の良い男性達に言い寄られる事を期待してる。婚約破棄までさせたいって事は、自分は誰かの婚約者に収まるつもりっぽいけど…」


 どう考えてもあのアホ娘じゃ無理だ。


「どうやって現実を分からせればいいんだろ…」


 素敵な男性との恋なんて、勿論誰だって夢に見る。
 ビクトリアもアカデミーでは素敵な出会いがあるかもしれない、なんて期待に胸を膨らませていたのだから。

 王立魔術アカデミーには、16歳から18歳までの若い男女が集まって勉強し、研鑽を積む場だ。
 勿論魔力が少ない者や、魔法の才能がない者は入学できず、逆に言えば能力さえあれば身分が低くても授業を受けることができる。


「平等の意味をはき違えてるんだよねぇ…」


 マルカ自身にも告げたが、このアカデミーの謳う『平等』とは、身分や性別に関係なく、己の能力を平等公平に評価する意味だ。
 決して身分を蔑ろにしていいと言う訳ではない。
 だが時々マルカのような考えを持つ者が出てくるのも事実で、その都度アカデミーの教員や上級生達が丁寧に説明し分からせるのだが。


「マルカのあの状況だと、どれだけ言っても理解しなさそう」


 となると、消去法で行くしかない。
 幸いビクトリアはマルカが言う『ライバル令嬢』でもなければ『意地悪令嬢』でもなく、『お助けキャラ』らしいのだから、その立場を存分に使ってマルカの邪魔をするつもりだ。

 とは言ってもマルカの言う『お助けキャラ』なのだが、どうやら分からない事や困った事を手助けしたり教えたりする人物のようで、直接何かをしないといけない訳でもないらしい。


「…知らず知らずにすでに『お助けキャラ』になってるわね」


 だが、マルカが語る物語と、実際のマルカの状況は少ししかかぶっていない。
 マルカの母は生きてるし、お金を持って嬉々として出て行ったのだ。
 子爵夫婦は仲が良く、夫人はマルカの事は事故でできてしまった可哀そうな娘くらいにしか思っていない。


「こうなったら、逆にハニートラップしかけるとか」


 マルカに見目がよくて婚約者がいない、ある程度身分のある男性にアプローチしてもらう。


「…そんな都合良い人いないか」


 大体こちらに協力してもらうメリットがない。
 ああでも、婚約者がいないという意味では、ライモンドがその条件にバッチリ合う。

 マルカが言うには私は今どこに誰がいるだとか、今彼等は何に興味があるかとか、そういった情報提供するのも私の役目だと言っていた。


(それって完全に私がマルカの使いッ走りじゃない。絶対あり得ないんだけど)


 やっぱりここはマルカの夢の物語ではないだろう。
 というか、何であんな突拍子もない事を言い出したのか。
 前世とやらを思い出したとか言っていたが、それも本当に前世の記憶なのかどうかも怪しい。
 そもそも前世と言うくらいなのだから、今よりも前の、そもそも自分達がまだ生まれてもいない頃の記憶のはず。
 なのに何で今の世の事が小説になってるのか。


「矛盾しかないわ」


 予知で誰かが物語として書いたとしても稚拙な内容だ。
 一人の少女の恋物語なんて、予知してまで書く必要があるだろうか。


「はぁ、まあいいわ。マルカが私をお助けキャラだと言うのなら、そう見せかけて軌道修正するしかないわね」


 最悪な事に彼女が狙っているのが王族やら高位貴族の子息なのだ。
 何かやらかしたらマルカの首なんて簡単に飛んでしまう。
 となれば、アカデミーにいる間に解決する必要があるのだ。

 とりあえず、誰かに相談しよう。

 一人で悶々と考えるにも限度があるのだ。

 そう結論付けたビクトリアは、ノートを引き出しに仕舞い、明日に向けて就寝する事にしたのだった。




 ※※※




 あれから数日。
 特に誰かに相談するでもなく、無駄に時間を経過してしまった。
 何故ならマルカの突拍子もない話をどう理解してもらうか、そして自分まで頭がおかしいと思われたりでもしたらと思うと、どうにも一歩踏み出せずに今に至る。

 そしてマルカは今日も登校するが早いか、何処かへ一人で行ってしまった。
 いわく、イベントがあるだとか。

 彼女の言う「イベント」がろくでもないのは分かっていたが、朝からあのパワーに付き合う元気もない。
 それにまだアカデミーに通い出して間がないのだ。
 とりあえず自分は自分の事をしようと、マルカの事は放っておく事にした。

 何かあればフォローに回ればいいだろう。

 そう楽天的に考えていたのもつかの間。
 数日後、あろう事かマルカの目を盗んで休憩時間にライモンドが接触してきた。


「ビクトリア・メル・ディアゴスはいるか?」

「はい?…え!デ、デアンジェリス公子…!?」

「ホークス子爵令嬢はいないな。よし、付いて来てくれ」

「え?ええ?」


 拒否する間もなくライモンドに腕を掴まれ、引っ張られる。
 その様子を見ていた同じクラスの女子達は、何やらきゃあきゃあと騒いでいた。


(め、目立つ!目立つからやめてくださいぃぃ!)


 ビクトリアの心の声もむなしく、ライモンドに連れてこられたのは何と生徒会室だ。
 無言のまま入室を促され、おずおずと入っていくとそこにはそうそうたるメンバーが座っていた。


「ビクトリア・メル・ディアゴス辺境伯令嬢を連れて来た」

「まあ!そんな風に腕を掴んで連れてくるなんて、かわいそうでしょう!」

「逃げられたら困るからな」

「ライモンド、お前相変わらずだな…」


 ベルトランド第二王子が呆れたように呟き、フロレンツィアがビクトリアの腕をそっと触った。


「痕になってなければいいけど」

「そんなに強く握ってない」

「そんな事ありません!ホラ、服の袖の部分が皴になってるじゃない!ごめんなさい、ビクトリア様…急で驚いたでしょう?」

「い、いえ、それよりも…どうして私をここへ…?」

「君の友人であるホークス子爵令嬢の事だ」


 ライモンドに告げられ、やはりそうかと項垂れる。
 そして気を取り直して前を向くと、ベルトランドと目が合いニッコリと微笑まれた。


「申し訳ないね、でも少し君の友人の事で困っていてね」

「あぁ…何となく予想がつきます…」

「うん。彼女事あるごとに僕達にまとわりついてくるんだけど、最近はフロレンツィアにまで絡むようになってね。どうしたものかと悩んでるんだ」

「…申し訳ありません」

「いや、君が悪いんじゃないから謝らなくてもいいよ」


 苦笑しながらベルトランドが告げるが、要は苦情を自分に言う為に呼び出したのだろう。
 だがこちらも日々彼女の暴走を止めようとはしているのだが、何分知らない間に何処かへ一人で行ってしまうのだ。
 追いかけるほど暇でもなければ興味もないのだ。
 まだ出会って数日だし、それほど迷惑をかける事もないと高を括っていたのは事実だが。


「いくら彼女に遠回しに断っても、全く理解してもらえないんだ。そればかりか、望まぬ婚約に心を痛めてると言って、私を慰めようとする始末でね」


 痛い痛い、聞いてるこっちが恥ずかしい。


「わたくしにも、ベルトランド様を解放してあげてくださいと仰っていて…」

「解放もなにも、王家と公爵家で決まった婚姻なのだから、個人の感情でどうにかできる問題でもないだろう」

「ライモンド、その言い方だとフロレンツィアが誤解する。確かに婚約の解消は両家の話し合いがなければ無理だが、私はフロレンツィアと婚約を解消するつもりは微塵もない」

「ベルトランド様…」


 少しだけ不安そうな顔をしていたフロレンツィアが、花が綻ぶように微笑んだ。
 その笑顔を見てベルトランドも頬を赤くし、ゴホンとわざとらしく咳ばらいをしている。

 どう見てもこの二人は両想いだろう。

 どうするべきか、悩む。
 正直にマルカの考えている事を告げるべきか、やんわりと誤魔化して話すべきか。

 そこに、突如ノックの音がした。
 部屋にいる全員が一瞬警戒するが、ドアの外の声が意外な人物で警戒が緩んだ。


「レオカディオ・ロス・アクレスです。ビクトリアがここにいると聞いたんですが、入ってもよろしいですか?」

「えっ、アクレス様?」


 ビクトリアが驚いて声を上げる。ベルトランドもマルカではないと分かったからか、すぐに入室を許可した。
 そして生徒会室に入ったレオカディオは、真っ直ぐにビクトリアの元に近寄り、じーっとビクトリアを見つめた。


「な、何ですか…」

「…ふむ、どこも何ともねぇみたいだな」

「は?」

「だってお前、急に教室から拉致られたんだろ?」

「はあ!?」


 突然とんでもない事を言うレオカディオにビクトリアが驚いて立ち上がる。
 そしてそれを聞いていたライモンドが、不満げに二人の間に割って入ってきた。


「拉致などと酷い言いがかりだな。呼び出したのは確かだが、一緒にここへ連れて来ただけだ」

「本人の意思を無視して腕を掴んで引っ張ってったって聞きましたよ。それって普通に拉致だろ」

「ちょっ、アクレス様!」

「レオ」

「レ、レオ様!とりあえず座ってください!その、デアンジェリス公子様も」

「ライモンドだ」

「は?」


 ライモンドだ、と言われても。
 まさかとは思うが、この人まで自分に名前で呼べと言うのだろうか。


「あの、デアンジェリス公…」

だ、ビクトリア嬢」

「い、いやいや!さすがにダメです!私が公子様を名前で呼んだりしたら、マルカまで真似しますって!」

「君が呼ばなくてもあの女は勝手に人を名前で呼ぶだろう」

「で、ですが…」

「ライモンドさん、トーリが嫌がってるからその辺にしといてやってくれよ」

「お前に話してないだろ」

「ちょ、ちょっと…」


 二人が火花を散らしだしたのを見てビクトリアがオロオロしていると、ベルトランドとフロレンツィアがお互いの顔を見合わせ、そしてプッと吹き出した。


「ははははっ!二人とも、その辺にしてやれ。ビクトリア嬢が困ってるじゃないか」

「そうですわ。ご本人を目の前にしてお二人で言い合いをするなんて、彼女の気持ちも考えてあげてください」

「「う…」」


 ベルトランドとフロレンツィアに言われ、二人が言葉を詰まらせる。
 そしてようやく落ち着いたのか二人が席についたのを見て、ビクトリアは静かに語りだした。

 マルカの暴走について。


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