転生者、月と魔法とプロポーズ

Rio

文字の大きさ
5 / 19
第一章 魔法士学校編

第四話 はじめてのおつかい

しおりを挟む
 ーー狭い部屋を出てまだ十秒くらいしか経っていないのだが……

「暑い……暑すぎて死ぬ……」

 外が死ぬほど暑い。いや実際死にはしないと思うのだが、死ぬほど暑いと表現するしかないくらいに俺の頭はまわっていないのか、それとも語彙力がないのか。

 体感では四十度以上はある気がする。遠くを見ると地面の上にモヤモヤとした蜃気楼のようなものも見える。まるで砂漠にでもいるかのようだった。

 汗はとっくにかいているし止まる気配もない。人体の五十パーセントから六十パーセントは水でできていると聞いたことがある。そして二十パーセントの水を失うと死に至るらしい。

 死ぬ程暑いという表現はあながち間違ってはいないということか。実際死に近づいているのだから。

 いやそれどころではない。何か水分を補給できるものを確保しなくては……

 しばらく歩きながら辺りを見回していると、ちょうど売店を発見した。発見したのだが……

「……遠い」

 遠くにあると思われる売店はそれはそれは小さく見えた。どれだけ歩けばいいのか。



 十分程歩いて到着。そしてこの売店、何故だが分からないがすごく違和感を感じる。綺麗に並べられた白くて丸いものが、まるで俺を見ているかのようにじっと動かない。まさかこれは……

「あ、いらっしゃいませお客様! まんじゅう何個欲しいんですか?」

「まんじゅう専門店かよ!」

 おっといけない、ツッコミをしている余裕はない。本当は飲み物が欲しかったが、とりあえずまんじゅうを買って一度ルナさんのところに戻ろう。このままだと本当に倒れそうだ。

「……に、二個下さい……」

「二個ですね、かしこまりました!」

 しかしこの店員さん、元気な娘だな。この暑さだぞ、何故耐えられるのだろうか。

 見事なまでの接客スマイルが眩しい。体感温度が五度くらい上がった気がする。

 店員の女の子がまんじゅう二つを袋に入れて最高の笑顔で渡してきた。

「お金はこれで……」

 恐る恐るルナさんお手製の偽造通貨である金色のお金を店員に渡す。

 すると、何やら店員さんはまじまじとお金を見つめること数秒、驚いた顔をしてこう言ってきた。

「お客様! 大変失礼いたしました、まさか帝国貴族のお方だったとは! まんじゅう二個とは言わず全部もらってください!!」

「帝国貴族?」

 俺貴族だったの? 死んで生き返ったら平社員が貴族に出世したって、何階級昇級したんだよ。

 それとも見た目が貴族に見えたのだろうか。そうだとしたら悪くない気分だが、白シャツに黒のズボンの今にも倒れそうな奴が貴族に見えるって、この国の貴族は大丈夫なのか?

「このお金ってそんなに価値があるのですか?」

「とんでもない、小国を一個まるまる買えるくらいの価値はありますよ。この金貨は真ん中に太陽の刻印が刻まれています。信仰対象である太陽は帝国の象徴であり、これは国王様や帝国貴族の方しか持つことは許されないのです!」

「ーーってそんなことはご存知ですよね、申し訳ございませんっ!!」

 早口で喋る店員の言葉に耳を傾けても全然頭に入ってこなかったが、ひとつだけ聞き取れたのは小国が買えるくらいの価値がこの金貨にあるということだ。

 なんだか恐ろしいことになってきそうな予感がしたので、とりあえずルナさんのところに帰ることにした。

 まんじゅうは全て持って帰っていいと言われたが、気が引けるので二個だけ頂いていこう。

「ありがとうございました。また来ます」

「また来てください、今後ともごひいきに!」



 店員さんと別れたあと、来た道を戻ること五分、ふとルナさんにパシリにされている事を思い出した。

 そういえば死にかけのこの状況も、金貨のことも全部ルナさんのせいなんだよな。

 ルナさんの家の前でまんじゅうを二個とも食べてやろう、そうしよう。

 

 さらに五分後、家の前に到着。そして着いたと同時に持っていたまんじゅうを一口食べてみた。

「うまい……」

 うますぎる。同時に涙が出てきた。食べ物で感動して涙が出たのは生まれて初めてだった。

 一個目を食べ終わり二個目を食べようとしたが……

 涙が止まらない。それどころか滝の様に出てくる。いくらなんでも異世界での初めての食べ物とはいえ、まんじゅうくらいで感動してここまで涙が出てくるはずがない。このままでは脱水で死んでしまう。

 ルナさんの分のまんじゅうを食べるのを諦め、家の扉を開けた。

「ルナざぁぁぁん、だだいばぁぁああぁ!!」

「あっ、彼方さんおかえりなさい。意外と早かったんですーーって何で泣いてるんですか? もしかして私のところに早く帰りたくて、寂しくて泣きながら帰ってきたんですかぁ?」

「もう、可愛いですねぇ! よしよし、ハグしてあげましょう! こちらへどうぞ!」

 帰った途端に滝の涙を流す俺に対し、何の不信感も抱かない神様の、ふざけた発言にツッコミを入れようと思ったが、そんな気力も体力も水分もなく、神様のたわわな二つの果実を枕の代わりにするように倒れ込み、そのまま意識を失ったーー

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

1歳児天使の異世界生活!

春爛漫
ファンタジー
 夫に先立たれ、女手一つで子供を育て上げた皇 幸子。病気にかかり死んでしまうが、天使が迎えに来てくれて天界へ行くも、最高神の創造神様が一方的にまくしたてて、サチ・スメラギとして異世界アラタカラに創造神の使徒(天使)として送られてしまう。1歳の子供の身体になり、それなりに人に溶け込もうと頑張るお話。 ※心は大人のなんちゃって幼児なので、あたたかい目で見守っていてください。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

R・P・G ~転生して不死にされた俺は、最強の英雄たちと滅ぼすはずだった異世界を統治する~

イット
ファンタジー
オカルト雑誌の編集者として働いていた瀬川凛人(40)は、怪現象の取材中、異世界の大地の女神と接触する。 そのまま半ば強制的に異世界へと転生させられた彼は、惑星そのものと同化し、“星骸の主”として不死の存在へと変貌した。 だが女神から与えられた使命は、この世界の生命を滅ぼし、星を「リセット」すること。 凛人はその命令を、拒否する。 不死であっても無敵ではない。 戦いでは英雄王に殴り倒される始末。しかし一つ選択を誤れば国が滅びる危うい存在。 それでも彼は、星を守るために戦う道を選んだ。 女神の使命を「絶対拒否」する不死者と、裏ボス級の従者たち。 これは、世界を滅ぼさず、統治することを選んだ男の英雄譚である。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

処理中です...