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【晦 成楓】
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あれはいつだったか。
確か小学校の修学旅行でチーム分けをしていた時。
何事もチーム分けはくじ引きで行われていたうちのクラスで、初めて自由に組んでいいと先生が指示を出した。
その場はとても盛り上がっていた。
まだ無垢だった俺も例外ではなく、すぐに当時仲が良かった男友達とチームを組んだ。
ふと、何を思ったか一番端っこの席で机に突っ伏しているクラスメイトに視線が行く。
『なぁ、あいつも誘ってやろうぜ』
ただそう言っただけなのに、さっきまで盛り上がっていた同じチームの奴らのテンションは一気に下がる。
先程まで周囲に溶け込んでいたのが嘘であるかのように、俺のチームだけ雰囲気ががらりと変わった。
『成楓、あいつは止めとこうぜ』
『そうだよ。あの子全く話聞かないし、折角の修学旅行が台無しになっちゃうよ』
同じチームの奴らの言い分を聞くなり、無駄に正義感が強かった俺は『仲間外れはよくないよ』と言って、一人ぽつんと席に座るクラスメイトに話しかけた。
クラスの中で一番嫌われている“小路聡”に、俺は初めて声をかけた。
『なあ、どこのチームに入るか決めてないなら俺らのところに来いよ』
俺がそう誘っても、聡は俯いたままぶつぶつと何かを呟いている。
もしかして聞こえなかったのか。
『なあ___』
聡の肩に触れる寸前で、俺の手首は強い力で引っ張られる。
教室だった空間が大きく歪み、一瞬にして聡たちが住んでいたアパートに変わった。
目の前には、血塗れた聡がいる。
「だったらなんで俺を殺したんだよ」
地を這うような低い声で問われる。
骨が砕けそうなくらい強く、腕を握られる。
「死にたくなかったよ、成楓」
背中から、美子斗の青白い手が伸びる。
骨と皮だけになってしまったその手は、俺の肌に食い込んでそのまま頬の皮膚を引き裂いた。
「ひとごろし、ひとごろし」
美子斗が呪詛のようにその言葉を俺の耳元で囁く。
この異様な光景に耐えられなくなった俺はただ叫ぶことしか出来なかった。
気が狂いそうで
後悔という重荷に潰されそうで
ただ無様な姿を晒した。
◆
「.......っ!」
「やっと起きた。もう 朝です」
俺が寝ていた布団の横で正座していたのは例の日本人形を思わせる少女、ひいなだった。
ひいなは相変わらず大きな瞳で俺をじっと見つめてくる。
妙な夢を見て酷く汗をかいた俺は、枕元にあった眼鏡を取って布団から身体を起こした。
「...夢じゃなかったのか」
全身に鈍い痛みがある。
人を刺した生々しい感触が今も両手に焼き付いている。
心臓は混乱している俺を煽るように早く脈を打った。
「お風呂 入る? それとも ごはん 食べる?」
ロボットのように独特な発音をするひいなは、僅かに首を傾げて俺の答えを待っていた。
「......食事する気にはなれない」
「じゃあ お風呂 案内 します」
一切無駄な動きなく立ち上がったひいなは、質素な襖を開いてピタリと立ち止まる。
それから彼女は全くと言っていいほど微動だにせず、一体何をしているのかと疑問に思いつつも立ち上がると、彼女はようやく襖の敷居をまたいだ。
どうやら俺が動くのを待っていたらしい。
彼女なりに一定の距離を保とうとしているのか、俺が遅れると彼女も足を止め、俺が隣に来ようとすると逃げるように足早になる。
「(妙な子だ)」
俺を助けてくれた男の話では、この子も俺と同じなのだと。
それは一般的な社会を生きていけないという意味なのか。
あるいは何らかの罪を犯したのか。
世間的に行方不明とされていたのにも、何か訳があるのか。
「ここ お風呂。 着替えと タオルは ある です」
ひいなの簡潔過ぎる説明を受け、俺は風呂場に一人取り残された。
広い屋敷のような場所なのに、浴槽は一般家庭にあるようなものと変わらない。
なんなら俺の家にあるものとよく似ていた。
「(俺の家...)」
浴槽に張ったお湯に歪む自分の顔。
いくら浴槽が似ていても、内装も外装も住んでいた家とはまるで違う。
厳格な父も、優しい母も、生意気な妹も...
ここにはいないのだ。
確か小学校の修学旅行でチーム分けをしていた時。
何事もチーム分けはくじ引きで行われていたうちのクラスで、初めて自由に組んでいいと先生が指示を出した。
その場はとても盛り上がっていた。
まだ無垢だった俺も例外ではなく、すぐに当時仲が良かった男友達とチームを組んだ。
ふと、何を思ったか一番端っこの席で机に突っ伏しているクラスメイトに視線が行く。
『なぁ、あいつも誘ってやろうぜ』
ただそう言っただけなのに、さっきまで盛り上がっていた同じチームの奴らのテンションは一気に下がる。
先程まで周囲に溶け込んでいたのが嘘であるかのように、俺のチームだけ雰囲気ががらりと変わった。
『成楓、あいつは止めとこうぜ』
『そうだよ。あの子全く話聞かないし、折角の修学旅行が台無しになっちゃうよ』
同じチームの奴らの言い分を聞くなり、無駄に正義感が強かった俺は『仲間外れはよくないよ』と言って、一人ぽつんと席に座るクラスメイトに話しかけた。
クラスの中で一番嫌われている“小路聡”に、俺は初めて声をかけた。
『なあ、どこのチームに入るか決めてないなら俺らのところに来いよ』
俺がそう誘っても、聡は俯いたままぶつぶつと何かを呟いている。
もしかして聞こえなかったのか。
『なあ___』
聡の肩に触れる寸前で、俺の手首は強い力で引っ張られる。
教室だった空間が大きく歪み、一瞬にして聡たちが住んでいたアパートに変わった。
目の前には、血塗れた聡がいる。
「だったらなんで俺を殺したんだよ」
地を這うような低い声で問われる。
骨が砕けそうなくらい強く、腕を握られる。
「死にたくなかったよ、成楓」
背中から、美子斗の青白い手が伸びる。
骨と皮だけになってしまったその手は、俺の肌に食い込んでそのまま頬の皮膚を引き裂いた。
「ひとごろし、ひとごろし」
美子斗が呪詛のようにその言葉を俺の耳元で囁く。
この異様な光景に耐えられなくなった俺はただ叫ぶことしか出来なかった。
気が狂いそうで
後悔という重荷に潰されそうで
ただ無様な姿を晒した。
◆
「.......っ!」
「やっと起きた。もう 朝です」
俺が寝ていた布団の横で正座していたのは例の日本人形を思わせる少女、ひいなだった。
ひいなは相変わらず大きな瞳で俺をじっと見つめてくる。
妙な夢を見て酷く汗をかいた俺は、枕元にあった眼鏡を取って布団から身体を起こした。
「...夢じゃなかったのか」
全身に鈍い痛みがある。
人を刺した生々しい感触が今も両手に焼き付いている。
心臓は混乱している俺を煽るように早く脈を打った。
「お風呂 入る? それとも ごはん 食べる?」
ロボットのように独特な発音をするひいなは、僅かに首を傾げて俺の答えを待っていた。
「......食事する気にはなれない」
「じゃあ お風呂 案内 します」
一切無駄な動きなく立ち上がったひいなは、質素な襖を開いてピタリと立ち止まる。
それから彼女は全くと言っていいほど微動だにせず、一体何をしているのかと疑問に思いつつも立ち上がると、彼女はようやく襖の敷居をまたいだ。
どうやら俺が動くのを待っていたらしい。
彼女なりに一定の距離を保とうとしているのか、俺が遅れると彼女も足を止め、俺が隣に来ようとすると逃げるように足早になる。
「(妙な子だ)」
俺を助けてくれた男の話では、この子も俺と同じなのだと。
それは一般的な社会を生きていけないという意味なのか。
あるいは何らかの罪を犯したのか。
世間的に行方不明とされていたのにも、何か訳があるのか。
「ここ お風呂。 着替えと タオルは ある です」
ひいなの簡潔過ぎる説明を受け、俺は風呂場に一人取り残された。
広い屋敷のような場所なのに、浴槽は一般家庭にあるようなものと変わらない。
なんなら俺の家にあるものとよく似ていた。
「(俺の家...)」
浴槽に張ったお湯に歪む自分の顔。
いくら浴槽が似ていても、内装も外装も住んでいた家とはまるで違う。
厳格な父も、優しい母も、生意気な妹も...
ここにはいないのだ。
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