上 下
4 / 66
第1章

【4】不安ディスク!

しおりを挟む
 私はリュオン様に訊ねたわ。

「リュオン様……『トクテン』とはどのような点なのですか?」

「それが私にも全容は解らぬ。しかしこの旧来あるべき世界と違った、新しい並行世界へと続く点のようなモノのようだ」

「新しい並行世界……」

 それは『花と嵐と恋の華~魔法学院でドキドキ☆スクランブル~』の世界とは変わっている世界と言うことなのかしら? どうして? でも思い当たることなら有るわ。

 私がニーハイムス殿下と婚約したこと。

 私とヒロさんが仲良くなってしまったこと。

 私は考えながらリュオン様に訊ねたわ……。

「本来の筋書きとは違う運命が巡ってきていると言うことでしょうか……?」
 リュオン様はいつの間にか出した紅茶を手に取り、ひとくち飲んで、
「そういうことになるな……。育ちだけでなく頭の回転も良いと見た。気に入ったぞ娘」
「そんな、勿体ないお言葉ですわ。ありがとうございます」
「流石カレンちゃんね! 妖精王様とも仲良くなれると思っていたのよ!」
 ヒロさんが私の手を握る。やっ、ヒロさん私なんかに必殺のモーションを披露しないで! 嬉しい!!

 リュオン様は話を続けたわ。
「私はこの世界を俯瞰して見る者。そこのヒロ・インが2巡目以降の運命の輪をくぐる時、真のチカラが発揮されるように設定されている――」
 えっ、待って。リュオン様は2周目以降の隠し攻略対象なことを自覚していたの!?
「しかし今のこの世界、1巡目なのに私はこうやって真のチカラを発揮し、覚醒している。これは何か『特異点』――私の夢では何者かが『トクテン』と言っていたが――が有るはずだ」

 今度はヒロさんがリュオン様に訊いたわ。
「リュオン様の『夢』って一体何なんですか?」
 リュオン様は答える。
「うむ。どうも異世界で、珍しい服装をした乙女たちがはしゃぐ夢を見てな。中には私やこの学院の生徒の小さい肖像画を鞄に沢山付けている者もおる」

 …………すみません、それ、絶対確実に私の前世の世界ですわ………。肖像画の鞄と言うのは、キャラ缶バッジで作る痛バッグのことでしょう、恐らく…………。

「その乙女たちの言葉が、時に予言となりこの世界に降りかかるのだ――」

「――なるほど。異世界の乙女たちがこの世界の話をしているんですね……」
 それってつまり、ファン同士の攻略情報交換か何かよね。

「そして最新で聞いた夢の話は『トクテン』と『不安でぃすく』だ――」

「『トクテン』と『不安でぃすく』ですか――――!?」

 リュオン様はため息をひとつ付いたわ。
「何か不穏なことでも起きねば良いのだが」

 私は瞬間、固まった。

「……それってつまり、『特典』と『ファンディスク』なのでは――!?」

 前世の私が行けずに死んでしまった場所、それが新作発表会……!

 もしもその新作発表会で新作として『ファンディスク』が発表されて、この世界が『華と嵐と恋の華~魔法学院でドキドキ☆スクランブル~』でなくて『華と嵐と恋の華~魔法学院でドキドキ☆スクランブル~ ファンディスク』だとしたら?

 私が知っている様で知らない新たな世界が繰り広げられる新シナリオ搭載の世界だとしたら!?

 どうしましょう!! 私の今までの知識も経験も計算も覚悟も全て狂ってしまいますわ!
 いえ、ニーハイムス様の登場で既に狂って居たのね!?

「どうしたの? カレンちゃん? 顔色が悪いわよ?」
 ヒロさんが私を覗き込んでくる。私は心配をかけまいとして、
「ああ、大丈夫よ。ただ、リュオン様の言った意味が何となく解っただけ――」

「ほう、夢の意味が解ったのか」
 リュオン様が手を叩いて私を見たわ。ヒロさんも私を心配そうに見ている。
「その夢は――きっとこことは別の世界の、この世界を観察する者たちが具現化した夢かと思います――」
「この世界は覗かれていると?」
「はい……!」
 信じて貰えないでしょうけど、私だってその『覗く側』だったのだから間違いないわ。

 私が転生してこの世界のカレン・アキレギア悪役令嬢に生まれ変わったのなら、他にもこの世界とあちらの世界を結ぶ何かが有っても不思議ではない。
 それが妖精王リュオン様の夢というカタチであったとしても――――

「ふむ。覗かれるのはちと、気持ちが悪いな」
 リュオン様は腕組みをして考えているようだった。
「しかしきっとこの世界に対しては無害ですから……」

「とりあえず、夢の話は私とヒロとカレンの間の秘密にしておこう」

「それがよろしいかと」
 私は頷いたわ。ヒロさんは、
「わ、カレンちゃんと共通の秘密を持っちゃった!」
 イマイチ解っていないようでしたけど、可愛いから良し! ですわ。

 それから、お茶を頂いてヒロさんと私は林の泉を後にしましたわ。


 そうして帰り道、学院の裏手、教会の近くを歩いて居た時ですわ。
「おや、こんな校舎裏に居たのですか。探しましたよ」
「ニース先生!」
 うわっ、メガネのニーハイムス様ことニース先生ですわ。
「私かカレンちゃんに何かご用ですか?」
 ヒロさんがニース先生に訊ねましたの。
「ええ、少しカレンさんにご用が。明日のクラスの課題集めを手伝って頂きたくて……」
「それなら私もお手伝いしますわ! 2人よりも3人の方が早いに決まってますもの!」
 私は狼狽えてニース先生とヒロさんの間に入りましたわ。
「わ、私とニース先生で大丈夫ですわっ! ヒロさんのお手間を掛けることもありません!」
「えー、無理しないでね、カレンちゃん」
 私とヒロさんのやりとりを見ていたニース先生は
「お2人とも、仲が良いのですね。いい事です」
 優しく微笑んでくださったわ。

 その時、
「おやおや、何ともバラバラなメンツで集合ですね」
 教会の方からひとりの背の高い男性がやって来ましたの。
 あの方は――この学院の教会の神父様で誰にでも温厚でありながら一度恋するとヤンデレに豹変する一部ではマニアックな人気を誇る、シオン・アカンサス神父様ではなくて――!?
 
「金髪の髪の乙女と亜麻色の髪の乙女と漆黒の髪の男性。派手ですね」
 私たち3人のことを指して言う。金髪はヒロさん、亜麻色は私、漆黒はニース先生。

「そういうお前は水色だ。混ざると更に色味がガチャガチャになる、シオン」
 ニース先生はシオン神父様のことをご存知のようでしたわ。
「シオン神父様、こんにちは!」
 ヒロさんはシオン神父様に明るく挨拶をしましたわ。そうだ、ストーリー上では入学式当日の放課後にふたりは偶然出会っているはずですわ。
「はい、ヒロさんこんにちは。こちらはお友達でしょうか――?」
「はい! 私の大切な友人、カレンちゃんです!」
 大切な友人……なんだか心がくすぐったいわ!!
「初めまして、シオン神父様。カレン・アキレギアと申します」
 私は気品を落とさぬよう、丁寧に挨拶をした。
「ありがとうございます。……あなたが例のカレン嬢でしたか」
 例の? 私、何かしたかしら??

「シオン、お前は相変わらずここの神父をしているのか? のん気なものだな」
「色ボケして一時でも公務を離れて教鞭に立つどこかの誰かよりはのん気では有りませんよ」
 ……どうもシオン神父様はニース先生の正体、ニーハイムス殿下のことを指して言っている様ですわ。お2人、ご友人関係か何かでしたのね。
「うるさい。私は仕事は全てこなしている」
「私も私のやるべきことをこなしているだけですので」
「お前は昔からそうだ、一言二言多い」
「それはそっくりお返ししますよ」
 ご友人……なのよね?

 私とヒロさんはお互いを見つめ、こう言ったわ。
「友情にも様々なカタチがありますのね、ヒロさん」
「そうね、私たちはああはなりたくないわねカレンちゃん!」
しおりを挟む

処理中です...