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第2章
【14】エルゼン・マートルの場合 その2!
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――さて。
朝、私は登校中の馬車の中で考える。
例えニーハイムス様やヒロさんやキースが私の味方でも、エルゼン・マートルのアキレギア家嫌いが動かないのは公然の事実ですわ。
しかしこれ以上皆さんに心配も掛けたく有りません。
どうにかして円満にエルゼンと友好的な関係になる切っ掛けは無いものでしょうか――?
「おはよう! カレンちゃん!」
「おはよっ、カレン!」
校門前で馬車を降りたところでヒロさんとニースに出会いましたわ。
「おはようございます、ヒロさんっ!……と、ニース」
「何で俺だけ声ちっせーのっ!?」
「気のせいですわよ」
私たち3人は仲良く教室へと向かいましたわ。
教室には先にエルゼンが到着していました。
「おはようございます、エルゼン」
私は出来る限りの笑顔で接してみました。
「……おはよう、カレン・アキレギア」
エルゼンは冷徹な顔のまま私に挨拶を返しましたわ。
ヒロさんとキースは後ろから私とエルゼンを見守っていますわ。
…………このままではいけませんわね。
私は構わなくても、ニーハイムス様始め、ヒロさん、キースと周りに心配を掛けてしまいますわ。
「ねぇ、エルゼン」
私は決心致しました……!
「何だ、何か用がまだ有るのか」
「今度、ゆっくりとふたりでお話しがしてみたいわ」
「…………俺には話すことなど――」
「私には有りましてよ。お願い致します!」
ヒロさんとキースは固唾を飲んでエルゼンと私のやり取りを見守っているわ。
「――……いいだろう。ただし場所と時間はこちらから指定させて貰うぞ」
「……ありがとうございますっ!」
一歩、前進したような気がしましたわ!
※
「なるほど、エルゼンと約束は取り付けたのですね」
校舎裏の誰も居ない休憩所で、私とニーハイムス様ことニース先生は落ち合いましたわ。
「はい。日時の指定はあちらにお任せしてしまいましたが、良い結果になるといいですわ……」
「……昨日までの貴女だったら諦めて彼を誘うことも無かったでしょう。えらい、えらい」
ニース先生は手を差し伸べて私の頭を撫でましたの!
「ちょっ……!子供扱いしないでくださいませ!」
私は久しぶりにニース先生もといニーハイムス様の前で赤面してしまいました。
「ふふっ、可愛いカレン」
「今は職務中ではなくて!?」
「本当に、俺の方からも何か出来ることがあれば協力しますから」
「先生のお手伝いは不要ですわっ!」
私は私は頭をブンブンと振って、ニース先生の手から逃れましたわ!
※
――翌日。
エルゼンからマートル家へのご招待状を頂きましたわ。
普通、私用で子爵家が公爵家へ呼び出しをすることは有りえませんの。ですがエルゼンは私に呼び出しを掛けましたわ。
つまり、話が有るなら家へ来いってことですの……? よろしいですわ! 受けて立とうじゃないの!
私はご招待状に有った土の曜日に、エルゼンに会いにマートル家へと向かったのですわ。
マートル家の門前では執事長とメイド長が出迎えてくださったわ。
「カレン・アキレギア公爵令嬢ですね。わざわざお越しいただき恐縮です。こちらの応接室で少々お待ち下さい」
……うん、マニュアル通りの丁寧な応対ね。
屋敷全体も、この応接室もシンプルで必要以上に飾らない作りながら堅牢そうで、エルゼンの性格を現しているように感じました。
「――お待たせしてすまない、カレン・アキレギア」
ようやく、本日の主役、エルゼンの登場よ。
エルゼンは何やら分厚い紙の束を持って、私の正面のソファに腰掛けたわ。
「本日お越し頂いたのは主にこちらの件になる――」
そう言って、分厚い紙束を私に渡しましたわ。
「これは――――」
「あなたの家、アキレギア家がこの街で関わっている大事業のリストになります」
「……それが一体何か?」
私は一枚一枚、ページをめくり数字を確認していったわ。
「請負先の偏りが、あまりにも不自然だ」
「…………なるほど。エルゼンは私の父が大事業の談合にでも加担していると仰っいたいのね」
「話が早くて助かる。俺に年齢と身分が有れば見過ごせない案件だったろう」
「――しかしこの事業、どれも技術的には適正な商社に任せて居るように見えますわ」
私は譲らない。
「ほう――適正とは?」
「例えばこのカナプウィード商会。こちらは橋の建設など、水辺での工事技術に定評が有ますの。こちらのストレリチア商会は高層の建物を建てるのにはこの街で最も適した技術と職人を抱えている商社でしょう。それに、事業に採用されなかった小さな商社にはそれなりに適した仕事をちゃんと割り振っています」
「なるほど。建築費の節約よりも、各社堅実な技術で採用していると?」
「――そうですわね」
「……それはそれで理にかなっているが、どうにも納得できないな」
「何が納得出来ないのでしょうか?」
「あなたのお父上のその金権政治の手腕にもですが、あなた自身にも私は納得が出来ずにいます」
「――――はい?」
私、エルゼンに何か不敬なことでもやらかしていたかしら?
「最近ではあのニーハイムス・アスター閣下があなたの屋敷に通っていると噂されている。カレン、あなたが籠絡でもしたのか?」
ぶっ。
私は差し出されている紅茶を吹き出しそうになってしまいましたわ!
「ろ、籠絡なんてとんでもない――!! 悪い噂ですわね!?」
「……本当だろうか?」
「本当ですわ! 私とニーハイムス様には良くして頂いておりますが籠絡するような関係ではありません! そもそも私はまだ15歳の乙女なのですよ! はしたない話はやめて下さるかしら!?」
婚約はまだ未発表なので誤魔化すのにも一苦労ですわ……。しかしニーハイムス様、我が家に通っているのが漏れているのに気付いてらっしゃるのかしら? 今度ちゃんと注意しておかないと。
「――真偽のほどはともかく」
エルゼンはメガネのブリッジをクイッと上げて、
「この国の為にも、あなたのお父上は断罪されるべきだ。カレン・アキレギア」
はっきりと、そう言い出したのですわ――――
「失礼します」
そこへ、先ほどの執事長がやって来たわ。
エルゼンに何か耳打ちをしています。
「……それは本当か――!?」
「はい、現在玄関にて、お待ちいただいておりますが如何なされましょう」
「………お通しするしかなかろう」
「そうでございますね」
エルゼンはこちらに向き直ってこう言ったわ。
「失礼。カレン。どうも『火急の用事』とやらで、こちらにニーハイムス大公閣下がいらっしゃったらしい……」
「――まあ!!」
何故、ここにニーハイムス様が!? そもそも『生徒』に近付くのは危険だからお止めになっていると聞きますが。どうしたのかしら!?
「失礼。エルゼン・マートル。それとカレン・アキレギア嬢」
ニーハイムス様がこの応接室にやってまいりましたわ―――
朝、私は登校中の馬車の中で考える。
例えニーハイムス様やヒロさんやキースが私の味方でも、エルゼン・マートルのアキレギア家嫌いが動かないのは公然の事実ですわ。
しかしこれ以上皆さんに心配も掛けたく有りません。
どうにかして円満にエルゼンと友好的な関係になる切っ掛けは無いものでしょうか――?
「おはよう! カレンちゃん!」
「おはよっ、カレン!」
校門前で馬車を降りたところでヒロさんとニースに出会いましたわ。
「おはようございます、ヒロさんっ!……と、ニース」
「何で俺だけ声ちっせーのっ!?」
「気のせいですわよ」
私たち3人は仲良く教室へと向かいましたわ。
教室には先にエルゼンが到着していました。
「おはようございます、エルゼン」
私は出来る限りの笑顔で接してみました。
「……おはよう、カレン・アキレギア」
エルゼンは冷徹な顔のまま私に挨拶を返しましたわ。
ヒロさんとキースは後ろから私とエルゼンを見守っていますわ。
…………このままではいけませんわね。
私は構わなくても、ニーハイムス様始め、ヒロさん、キースと周りに心配を掛けてしまいますわ。
「ねぇ、エルゼン」
私は決心致しました……!
「何だ、何か用がまだ有るのか」
「今度、ゆっくりとふたりでお話しがしてみたいわ」
「…………俺には話すことなど――」
「私には有りましてよ。お願い致します!」
ヒロさんとキースは固唾を飲んでエルゼンと私のやり取りを見守っているわ。
「――……いいだろう。ただし場所と時間はこちらから指定させて貰うぞ」
「……ありがとうございますっ!」
一歩、前進したような気がしましたわ!
※
「なるほど、エルゼンと約束は取り付けたのですね」
校舎裏の誰も居ない休憩所で、私とニーハイムス様ことニース先生は落ち合いましたわ。
「はい。日時の指定はあちらにお任せしてしまいましたが、良い結果になるといいですわ……」
「……昨日までの貴女だったら諦めて彼を誘うことも無かったでしょう。えらい、えらい」
ニース先生は手を差し伸べて私の頭を撫でましたの!
「ちょっ……!子供扱いしないでくださいませ!」
私は久しぶりにニース先生もといニーハイムス様の前で赤面してしまいました。
「ふふっ、可愛いカレン」
「今は職務中ではなくて!?」
「本当に、俺の方からも何か出来ることがあれば協力しますから」
「先生のお手伝いは不要ですわっ!」
私は私は頭をブンブンと振って、ニース先生の手から逃れましたわ!
※
――翌日。
エルゼンからマートル家へのご招待状を頂きましたわ。
普通、私用で子爵家が公爵家へ呼び出しをすることは有りえませんの。ですがエルゼンは私に呼び出しを掛けましたわ。
つまり、話が有るなら家へ来いってことですの……? よろしいですわ! 受けて立とうじゃないの!
私はご招待状に有った土の曜日に、エルゼンに会いにマートル家へと向かったのですわ。
マートル家の門前では執事長とメイド長が出迎えてくださったわ。
「カレン・アキレギア公爵令嬢ですね。わざわざお越しいただき恐縮です。こちらの応接室で少々お待ち下さい」
……うん、マニュアル通りの丁寧な応対ね。
屋敷全体も、この応接室もシンプルで必要以上に飾らない作りながら堅牢そうで、エルゼンの性格を現しているように感じました。
「――お待たせしてすまない、カレン・アキレギア」
ようやく、本日の主役、エルゼンの登場よ。
エルゼンは何やら分厚い紙の束を持って、私の正面のソファに腰掛けたわ。
「本日お越し頂いたのは主にこちらの件になる――」
そう言って、分厚い紙束を私に渡しましたわ。
「これは――――」
「あなたの家、アキレギア家がこの街で関わっている大事業のリストになります」
「……それが一体何か?」
私は一枚一枚、ページをめくり数字を確認していったわ。
「請負先の偏りが、あまりにも不自然だ」
「…………なるほど。エルゼンは私の父が大事業の談合にでも加担していると仰っいたいのね」
「話が早くて助かる。俺に年齢と身分が有れば見過ごせない案件だったろう」
「――しかしこの事業、どれも技術的には適正な商社に任せて居るように見えますわ」
私は譲らない。
「ほう――適正とは?」
「例えばこのカナプウィード商会。こちらは橋の建設など、水辺での工事技術に定評が有ますの。こちらのストレリチア商会は高層の建物を建てるのにはこの街で最も適した技術と職人を抱えている商社でしょう。それに、事業に採用されなかった小さな商社にはそれなりに適した仕事をちゃんと割り振っています」
「なるほど。建築費の節約よりも、各社堅実な技術で採用していると?」
「――そうですわね」
「……それはそれで理にかなっているが、どうにも納得できないな」
「何が納得出来ないのでしょうか?」
「あなたのお父上のその金権政治の手腕にもですが、あなた自身にも私は納得が出来ずにいます」
「――――はい?」
私、エルゼンに何か不敬なことでもやらかしていたかしら?
「最近ではあのニーハイムス・アスター閣下があなたの屋敷に通っていると噂されている。カレン、あなたが籠絡でもしたのか?」
ぶっ。
私は差し出されている紅茶を吹き出しそうになってしまいましたわ!
「ろ、籠絡なんてとんでもない――!! 悪い噂ですわね!?」
「……本当だろうか?」
「本当ですわ! 私とニーハイムス様には良くして頂いておりますが籠絡するような関係ではありません! そもそも私はまだ15歳の乙女なのですよ! はしたない話はやめて下さるかしら!?」
婚約はまだ未発表なので誤魔化すのにも一苦労ですわ……。しかしニーハイムス様、我が家に通っているのが漏れているのに気付いてらっしゃるのかしら? 今度ちゃんと注意しておかないと。
「――真偽のほどはともかく」
エルゼンはメガネのブリッジをクイッと上げて、
「この国の為にも、あなたのお父上は断罪されるべきだ。カレン・アキレギア」
はっきりと、そう言い出したのですわ――――
「失礼します」
そこへ、先ほどの執事長がやって来たわ。
エルゼンに何か耳打ちをしています。
「……それは本当か――!?」
「はい、現在玄関にて、お待ちいただいておりますが如何なされましょう」
「………お通しするしかなかろう」
「そうでございますね」
エルゼンはこちらに向き直ってこう言ったわ。
「失礼。カレン。どうも『火急の用事』とやらで、こちらにニーハイムス大公閣下がいらっしゃったらしい……」
「――まあ!!」
何故、ここにニーハイムス様が!? そもそも『生徒』に近付くのは危険だからお止めになっていると聞きますが。どうしたのかしら!?
「失礼。エルゼン・マートル。それとカレン・アキレギア嬢」
ニーハイムス様がこの応接室にやってまいりましたわ―――
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