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第2章
【15】エルゼン・マートルの場合 その3!
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「ニーハイムス大公閣下――! このような場所までどのようなご用件で?」
エルゼンは身構えているわ。
それもそのはずよね。大公閣下が直々に、それも予告なく子爵家に訪れるなんてありえないもの。
ニーハイムス様は幸い、服装の違いとメガネの無いことでニース先生なことには気付かれていない様子。
「はい、本日は火急の用事でやって参りました。……おや、そちらにいらっしゃるのはアキレギア家のカレン嬢ではありませんか」
……白々しいですわ……。
「これはこれは、大公閣下様。まさか級友のエルゼン・マートルの家でお会いするとは思ってもみませんでした」
これは本当よ。今日は私はニーハイムス様にエルゼンの家に行くことも何もお教えしていなかったはずですもの。
私の問題はまずは私のチカラで解決してみるつもりでしたわ。
「ニーハイムス様とエルゼンのお邪魔のようなら私は退席いたしますね」
エルゼンは、
「そうだな、申し訳ないカレン。今日はもう解散にしよう。ニーハイムス様、そちらにお掛け下さい」
しかしニーハイムス様はこう仰られたわ。
「カレン嬢も同席してくれて構わない。むしろ同席して頂いたほうが一石二鳥かと」
「さてエルゼン・マートル。貴方をマートル家当主として、そしてカレン・アキレギア。貴女をアキレギア家代表として私の話を聞いていただきたい」
上座に着席したニーハイムス様はひとつ大きな息を吐くと、何やら語り始めたわ。
「――私の部下の調べですが、昨今、宮廷周りでとある噂の流布と、不審な人物の動きが察知されています」
エルゼンはメガネのブリッジをクイッと持ち上げて、
「『とある噂と不審な人物』……ですか? それは一体どういうことでしょう?」
「そちらのアキレギア家が必要以上に王家の政策に身を乗り出し、独占し、汚職政治をしているという噂です。この噂が必要以上に広まると、アキレギア家は宮廷での立場は悪くなり最悪失脚ということになりかねないでしょう」
「まあ、当家がですか?」
お父様のことですから、そう噂されるのも仕方ないかもしれませんね……。
「はい。しかし王家内部を調査してみると、アキレギア当主が王に進言を求められそれに応えることは有っても、決して必要以上に振る舞っている事実は無いのです」
「…………それは事実ですか?」
エルゼンが少し前のめりになってニーハイムス様にお訊ねしたわ。
「もちろん」
ニーハイムス様は頷いたわ。
「そしてその噂の元を辿ると、ある人物に行き着いたのですよ。それが――――」
「ストラーマ・マートル子爵。貴方の叔父上です。エルゼン」
「な――ストラーマが何故そのようなことを!?」
エルゼンは動転し、大きな声を出したわ。
「ストラーマに限って、その様なことは無いはず……です。私が幼い頃より父のように慕い、誠実に育ててくれた人物です」
「しかし、私の部下の調査に嘘偽りは無いのですよ。ストラーマ子爵の狙いは恐らく……アキレギア家の失脚と、それに替わってのマートル家の台頭です」
エルゼンは真剣な表情でニーハイムス様のお言葉を聞いている。
「……エルゼン子爵。貴方は正義感が強く、清く美しい」
ニーハイムス様が両手を組んでエルゼンに語りかけたわ。
「だが、時としてその清らかさを利用されることもあるかもしれない。お気をつけなさい。年長者からの進言です」
エルゼンは苦痛なおもむきでニーハイムス様を見つめたわ。
「――……はい。こちらでも、叔父を調査してみましょう……」
「話が早くて助かるよ。ありがとうエルゼン」
※
数日後。
ニーハイムス様から、エルゼンより叔父のストラーマ卿が宮廷で情報操作をしていた事実を認める書面が送られてきたと伝えられたわ。
どうやらエルゼンは幼い頃からストラーマ卿に私のアキレギア家のことを有ること無いこと吹き込まれていたようですの。(私は主に有ることのような気もいたしますけど……)
そのせいも有って、潔癖なエルゼンは私に対して特に当たりが強くなっていたようですわ。
この件には我が父も踏み込みましたが、最終的には被害者であった父上の判断により結果ストラーマ卿は放免というカタチになったと伺いました。
父上にとっては、現在私が水面下で大公殿下と婚約しているだけで十分王家に踏み込む土壌が出来ているので満足の様子。悪い噂など気にする人ではありませんものね。
――朝。いつも通り学院に登校すると、なんとエルゼンから挨拶をしてきましたわ!
「おはよう、カレン・アキレギア。……その、先日は、というか今まで実に済まなかった。俺は叔父に洗脳されていたようだ。言い訳にしかならないが謝らせてくれないか」
「何を謝られますの、エルゼン。あなたらしくないわね。あなたも被害者であって加害者では無いはずよ」
「それは詭弁だカレン・アキレギア――! マートル家当主で有る限り、俺も加害者側の人間だ」
「『カレン』でよろしくてよ、エルゼン」
「なっ――――」
私は決して譲りませんでした。
「また、土の曜日の時の様な論議もしたいものですね!」
「――……フッ。フハハハハハハ! ああ、確かにあの時は充実していた。また何か話し合いが出来れば面白いな」
エルゼンは私の前で初めて笑ってくださったわ!
「おはよ――あっ! カレンちゃんとエルゼンが仲良くなってる!?」
「えっ、マジかよ! あっマジだ! どうしたんだよエル――!」
ヒロさんとキースが揃って教室に入ってきました。
「やったね! カレンちゃん!」
ヒロさんは満面の女神のようなヒロイン・スマイルで私を祝福してくれたわ。
「ふふふ、ありがとうございますヒロさん!」
ああ、ヒロさんのこの笑顔が有れば、私は汚職政治家でも金権政治家でも何の娘でも構いませんことよ――――!
「はーい、授業を始めますよ~。皆さん着席してくださいー!」
ニーハイムス様こと、ニース先生の登場ですわ。
「なあ、カレン――――」
エルゼンが私に話しかけましたわ。
「ニース先生とニーハイムス様のような他人の空似というのは本当に有るものなんだな」
「え、ええ……そうですわね……」
「まさかと思ったが、ニーハイムス様が学院にいらっしゃるわけないものな」
……その純粋さ、先入観の強さが、エルゼンを罠に嵌めるし『最も簡単な攻略対象』と言われてしまう所以ですのよ――――!!
――こうしてまた、ひとり、学院にお友達が出来ましたの。
エルゼンは身構えているわ。
それもそのはずよね。大公閣下が直々に、それも予告なく子爵家に訪れるなんてありえないもの。
ニーハイムス様は幸い、服装の違いとメガネの無いことでニース先生なことには気付かれていない様子。
「はい、本日は火急の用事でやって参りました。……おや、そちらにいらっしゃるのはアキレギア家のカレン嬢ではありませんか」
……白々しいですわ……。
「これはこれは、大公閣下様。まさか級友のエルゼン・マートルの家でお会いするとは思ってもみませんでした」
これは本当よ。今日は私はニーハイムス様にエルゼンの家に行くことも何もお教えしていなかったはずですもの。
私の問題はまずは私のチカラで解決してみるつもりでしたわ。
「ニーハイムス様とエルゼンのお邪魔のようなら私は退席いたしますね」
エルゼンは、
「そうだな、申し訳ないカレン。今日はもう解散にしよう。ニーハイムス様、そちらにお掛け下さい」
しかしニーハイムス様はこう仰られたわ。
「カレン嬢も同席してくれて構わない。むしろ同席して頂いたほうが一石二鳥かと」
「さてエルゼン・マートル。貴方をマートル家当主として、そしてカレン・アキレギア。貴女をアキレギア家代表として私の話を聞いていただきたい」
上座に着席したニーハイムス様はひとつ大きな息を吐くと、何やら語り始めたわ。
「――私の部下の調べですが、昨今、宮廷周りでとある噂の流布と、不審な人物の動きが察知されています」
エルゼンはメガネのブリッジをクイッと持ち上げて、
「『とある噂と不審な人物』……ですか? それは一体どういうことでしょう?」
「そちらのアキレギア家が必要以上に王家の政策に身を乗り出し、独占し、汚職政治をしているという噂です。この噂が必要以上に広まると、アキレギア家は宮廷での立場は悪くなり最悪失脚ということになりかねないでしょう」
「まあ、当家がですか?」
お父様のことですから、そう噂されるのも仕方ないかもしれませんね……。
「はい。しかし王家内部を調査してみると、アキレギア当主が王に進言を求められそれに応えることは有っても、決して必要以上に振る舞っている事実は無いのです」
「…………それは事実ですか?」
エルゼンが少し前のめりになってニーハイムス様にお訊ねしたわ。
「もちろん」
ニーハイムス様は頷いたわ。
「そしてその噂の元を辿ると、ある人物に行き着いたのですよ。それが――――」
「ストラーマ・マートル子爵。貴方の叔父上です。エルゼン」
「な――ストラーマが何故そのようなことを!?」
エルゼンは動転し、大きな声を出したわ。
「ストラーマに限って、その様なことは無いはず……です。私が幼い頃より父のように慕い、誠実に育ててくれた人物です」
「しかし、私の部下の調査に嘘偽りは無いのですよ。ストラーマ子爵の狙いは恐らく……アキレギア家の失脚と、それに替わってのマートル家の台頭です」
エルゼンは真剣な表情でニーハイムス様のお言葉を聞いている。
「……エルゼン子爵。貴方は正義感が強く、清く美しい」
ニーハイムス様が両手を組んでエルゼンに語りかけたわ。
「だが、時としてその清らかさを利用されることもあるかもしれない。お気をつけなさい。年長者からの進言です」
エルゼンは苦痛なおもむきでニーハイムス様を見つめたわ。
「――……はい。こちらでも、叔父を調査してみましょう……」
「話が早くて助かるよ。ありがとうエルゼン」
※
数日後。
ニーハイムス様から、エルゼンより叔父のストラーマ卿が宮廷で情報操作をしていた事実を認める書面が送られてきたと伝えられたわ。
どうやらエルゼンは幼い頃からストラーマ卿に私のアキレギア家のことを有ること無いこと吹き込まれていたようですの。(私は主に有ることのような気もいたしますけど……)
そのせいも有って、潔癖なエルゼンは私に対して特に当たりが強くなっていたようですわ。
この件には我が父も踏み込みましたが、最終的には被害者であった父上の判断により結果ストラーマ卿は放免というカタチになったと伺いました。
父上にとっては、現在私が水面下で大公殿下と婚約しているだけで十分王家に踏み込む土壌が出来ているので満足の様子。悪い噂など気にする人ではありませんものね。
――朝。いつも通り学院に登校すると、なんとエルゼンから挨拶をしてきましたわ!
「おはよう、カレン・アキレギア。……その、先日は、というか今まで実に済まなかった。俺は叔父に洗脳されていたようだ。言い訳にしかならないが謝らせてくれないか」
「何を謝られますの、エルゼン。あなたらしくないわね。あなたも被害者であって加害者では無いはずよ」
「それは詭弁だカレン・アキレギア――! マートル家当主で有る限り、俺も加害者側の人間だ」
「『カレン』でよろしくてよ、エルゼン」
「なっ――――」
私は決して譲りませんでした。
「また、土の曜日の時の様な論議もしたいものですね!」
「――……フッ。フハハハハハハ! ああ、確かにあの時は充実していた。また何か話し合いが出来れば面白いな」
エルゼンは私の前で初めて笑ってくださったわ!
「おはよ――あっ! カレンちゃんとエルゼンが仲良くなってる!?」
「えっ、マジかよ! あっマジだ! どうしたんだよエル――!」
ヒロさんとキースが揃って教室に入ってきました。
「やったね! カレンちゃん!」
ヒロさんは満面の女神のようなヒロイン・スマイルで私を祝福してくれたわ。
「ふふふ、ありがとうございますヒロさん!」
ああ、ヒロさんのこの笑顔が有れば、私は汚職政治家でも金権政治家でも何の娘でも構いませんことよ――――!
「はーい、授業を始めますよ~。皆さん着席してくださいー!」
ニーハイムス様こと、ニース先生の登場ですわ。
「なあ、カレン――――」
エルゼンが私に話しかけましたわ。
「ニース先生とニーハイムス様のような他人の空似というのは本当に有るものなんだな」
「え、ええ……そうですわね……」
「まさかと思ったが、ニーハイムス様が学院にいらっしゃるわけないものな」
……その純粋さ、先入観の強さが、エルゼンを罠に嵌めるし『最も簡単な攻略対象』と言われてしまう所以ですのよ――――!!
――こうしてまた、ひとり、学院にお友達が出来ましたの。
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