上 下
16 / 66
第2章

【16】……ある日!

しおりを挟む
 今日も今日とて、放課後、校舎裏でのヒロ・インことヒロさんと私の魔法レッスンは続いていたわ。

 何故か魔法剣士候補のキース・バーベナと防御魔法が得意のエルゼン・マートルもセットになってしまったけれど……。
 私の初期案の『ふたりの秘密の花園』はどこに行ってしまったのかしら…………!?

「どうした、不機嫌そうだなカレン」
 エルゼンが私に声を掛けてきましたわ。
「そうね、決していい機嫌ではないわね」
「そんな事では魔法修行にならんだろう。冷静に精神を集中して、『護る』ことを考えるんだ――」
 そう言って簡単な防御壁シールドを出した私に小石を投げてきましたわ。

 私はエルゼンに防御魔法を教わっていますの。代わりに私は得意の治癒魔法を教えています。このふたつの魔法の属性は近くて親和性が有ると言われているわ。

「私にも小石投げてみて! エルゼン!」
 ヒロさんは頑張って私よりも小さな小さな防御壁シールドを出して懇願カモンしているわ。
 私はエルゼンをギッと睨みつけて言いました。
「ヒロさんに石を投げるような行為は許しません。私がそっと投げます」
「……お前はヒロのことになると人が変わるな……」
 ……エルゼンはキースよりは察しが良いようでしたわ。
「あ? 何なに? 俺だったら防御壁シールド出すより剣で受けて流す方が速いし、元々防御魔法はからきしなんだよなぁ」
「――キースはそういうところがキースらしいわね」
 脳筋ですわね。
 私はヒロさんにそっと優しく、小石を投げました。
 ぱちん。
 ああっ! 弾かれる小石が羨ましい……っ!

「おや、今日も元気にやってるな。先生も混ぜてくれるかな?」
 たまにこうやってニーハイムス様ことメガネを掛けたニース先生もいらっしゃるわ。

「先生、いらっしゃい!」
「師匠、お疲れさまです!」
「ニース先生、お気遣いありがとうございます」
「ニース先生、お仕事はよろしいのですか?」
 各々、ニース先生にお声を掛けますわ。

「ああ、今日は仕事は一段落したからね。こうやって君たちのところにやってきてしまった」
 ニース先生は皆を流し見て、何をやっていたのか察しました。
「なるほど、防御魔法の練習をしていたのかな?」

「はい! そうなんですわ! ヒロさんたらすっかり上達して防御壁シールドも出せるようになりましたの!」
 私はゴキゲンでヒロさんの自慢を始めましたわ!
「えへへ。エルゼンとカレンちゃんのおかげだよぉ~」
 まあっ、嬉しいことを言ってくださるのね……!
「ちょっと待てよ、俺は? 俺の名前はどうした!?」
 キースがヒロさんに問いただしていますわ。
「キースは剣を振っていただけじゃないの!」
「そ、そうだけどよぉ~…。師匠の前なんだから上手いこと言えよなヒロ!」

「……『師匠』じゃなくていいんだよ? キース……?」
 相変わらず、ニース先生はキースの『師匠』呼びに不慣れな様子ですわ。
「あっ、そうだニース師匠! 今日は俺の剣捌きを見てくださいよ!」
「う~ん本当に私でいいのかなぁ……」
 ――と、言いつつも、いつもニース先生はキースに的確な剣術の指南をしているのですわ。
 滅多に口には出しませんけれど、ニース先生ことニーハイムス様のそういうところも素敵ですわよ。

 そこに、シオン・アカンサス神父様までやって来ましたわ。
「おやおや、『師匠』は今日も快調のようですね」
「…………何を楽しんでるんだお前は」
 ニース先生ことニーハイムス様はシオン神父様とは幼馴染なんですの。
「楽しいのでなく嬉しいのですよ。友人がこのように生徒たちに慕われて」
「どうもお前の物言いにはいちいち含みを感じるんだよな昔から」
 ニース先生は気付いてらっしゃるのかしら? シオン神父様とお喋りする時はくだけた口調になっていらっしゃるのを。

「シオン神父様、こんにちは!」
 ヒロさんが真っ先に元気にご挨拶をしましたわ。
 私たちも一同揃ってご挨拶をしました。
「皆さん、勤勉でよろしいですね。よろしかったら今度教会の方に遊びに来て下さい。お茶でもおもてなししますよ」
「何を考えてるんだお前は」
 ニース先生は警戒していますわ。
「特に何も。かわいい生徒たちじゃないか。しっかり頼むよニース先生」


 ――それでは、魔法の訓練に戻りましょうとなったところでヒロさんが言いましたわ。
「そう言えば、カレンちゃんに見て欲しいの!」
「どうしたの、ヒロさん」
「前に、手のひらにこうやって集中して光る玉を生み出すやり方を教えてくれたよね」
「お教えしましたね。あれは魔法の基礎ですから」
「私、色を変えることが出来るようになったんだよ!」
「え?」

 一同、ヒロさんに注目しましたわ。

 ヒロさんは両手のひらに魔力を集中して白い小さな球を出しましたわ。
 するとどうでしょう、その球が水色、紫、赤、青、緑、黄色とどんどん色が変わっていきましたの! これは全属性の色なのでは!?

「――ヒロさん、すごいですわ!」

「これはこれは……ヒロ、こんなワザは見たことが無いよ……!」
 魔法理論学のニース先生も驚いてらっしゃるわ!

 キースもエルゼンもシオン神父様も、皆さん一斉にヒロさんを褒め称えたわ。
「ヒロ、すげー!! お前やるじゃねーか!!」
「ヒロ、これは努力をしたろう。頑張ったな」
「……すごい才能の持ち主ですね、ヒロさんは」

「えへへ。でも出せる球は小さいんだけどね。これが私の限界」
 ヒロさんは笑顔のまま、出した球を消しましたわ。

 ――この世界、『花と嵐と恋の華~魔法学院でドキドキ☆スクランブル~』では、ヒロさんことヒロインちゃんはこの世にふたりと居ない全属性の魔法使い。強力なそのチカラは生まれた時に封印されていて、普段の学院生活の中では全属性と言っても殆ど使い物にならない小さなチカラとなっているのですわ。
 大切な人を護る時、その強大なチカラが目覚める――――という設定なのですが、ヒロさんは今のところ、大切ながいらっしゃらないご様子で。
 このままヒロさんは真のチカラに目覚めず学院を卒業してしまうことになってしまうのかしら? それともやはり、何か事件が起きて大切な人を護ることになるのかしら――――?

「ヒロさんは毎日、着実に進歩してらっしゃるわ――素晴らしいことですわ!」
 私はヒロさんを褒め称えました。
「……本当? これ、最初にカレンちゃんに見てもらおうと思って秘密にしていたのよ。良かったわ!」
 まあ!なんて嬉しい…………!!

 私はんなルートを辿っても、ヒロさんの味方でありたいわ。しがない『悪役令嬢』の私ですが、何かお力になれることがあるのでしたら助力は惜しまないつもりですわよ!

 ――こうして、私たちの何気ない平和な日は過ぎていくのでした――――
しおりを挟む

処理中です...