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第2章
【17】オルキス・オンシジウムの場合 その1!
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「ねぇねぇ、カレンちゃん、今日は林の泉に行かない?」
昼休みにヒロさんが私に提案してきましたわ。
「よろしいですわね、久しぶりにリュオン様にお会いしたいわ」
リュオン様と言うのはこの学院の裏手にある林の泉に住まわれる『妖精王リュオン様』のこと。
人間嫌いで通常は人間の目の前には姿を現しませんけど、このゲーム『花と嵐と恋の華~魔法学院でドキドキ☆スクランブル~』の主人公、ヒロさんのことはお気に入りで、ヒロさんのご紹介で私の目の前にも現れて下さるようになったのですわ。
「それでは、今日はキースとエルゼンにはレッスンはお休みということにしておきましょう」
「そうね、それがいいわ!」
――そうして放課後、ヒロさんと私は林の泉に向かいましたの。
学院の裏手の教会の前を抜けて、いつものひっそりとした休憩所を更に抜けた先に林が有りますのよ。
私たちが林まで辿り着いた時でしたわ。
「ミャー。ミャー」
どこからか、子猫らしき鳴き声が聞こえてきましたわ。
「カレンちゃん! 子猫、近くに居るのかな?」
「そのようですわね!」
女の子は小動物に弱いものですわ! ヒロさんと私はリュオン様の泉に行く前に、子猫探しを始めてしまいましたの。
「どの辺から聞こえたのかなぁ……」
「こちらの方角だと思いますけれど」
ふたりで歩みを進めたわ。
すると…………
「ははっ、くすぐったいな! こら、やめろって!」
そこには。
子猫たちの中心にクラスメイトのオルキス・オンシジウムがいらっしゃいましたわ――――
「……」
「……」
ヒロさんと私はその光景に無言になってしまいましたわ。
「…………っ!」
オルキスがこちらに気付きました。
「お前たち、いつからそこに――!?」
彼は焦っているようでしたわ。まあ、それもそのはずよね。
オルキス・オンシジウムはこの世界の攻略対象のひとり。学院の一匹狼で誰も信じず、誰ともつるまないで自分ひとりのチカラでのし上がって行くタイプですの。
そのクールな性格と、孤児という悲しいバックグラウンドと、黒髪と金色の目というビジュアルから、ファンからの人気も高いのですわ。
「ついさっきからだよぉ! ――オルキスくんって優しいんだね! 教室でのイメージと全然違ってビックリしちゃった!」
ヒロさんがオルキスの地雷を踏み抜いていきますわ……!
流石主人公――!!
「……っち、違う! 俺はたまたまここを通りかかっただけだ! こんな弱い小動物のことなんて知らねぇ――!!」
オルキスはそっと子猫を芝生の上に置きましたわ。言っていることとやっていることがチグハグですのよ!
「とにかく! 今見たことは無かったことにしろ! 決して他の誰かに言うな! いいな!?」
「えーっ、どうして? みんなオルキスくんのことを見る目が変わって、お友達が出来ると思うよぉ?」
「だ・か・らっ! 俺は『友達』なんて要らないんだ!」
「そんな、せっかく学院に通っているのに勿体ない――ねぇ、カレンちゃん?」
私はヒロさんとオルキスのやりとりを見ていてふきだすのを堪えるのに必死でしたわ。
「――え? ええ……そうですわね。せっかくの学院生活で、孤独は寂しいですわよ」
「ふん。貴族のお嬢様に俺の何が解るって言うんだ。上から偉そうに」
そう、オルキスは孤児出身なのも有って貴族などの高位な身分が大嫌い。
私にも当然冷たく当たりますの。
それで、本来なら主人公であるヒロさんをいじめていた(つもりは無かったのですが結果的にはそうなっていましたわ)私からヒロさんをかばい、影から見守り、ヒロさんと徐々に親愛度が上がっていくのがゲームの流れだったのですけれど――
あいにく、ヒロさんと私がお友達になってしまったので今までヒロさんの前でオルキスの出番は無いに等しかったのですわ。
ごめんなさい、オルキス。
……オルキスはそのまま急いで林から去って行きましたわ。
足元の子猫たちの側には、空けた缶詰が置いてありました。
きっとオルキスがこの子猫たちのためにご飯を用意してあげていたのね……。
「オルキス……どうして意地っ張りなんだろうねぇ? 優しいのはいいことなのに」
ヒロさんの目には孤高の一匹狼も『意地っ張り』に見えているようでしたわ。
「オルキス? ああ、あの黒髪金目の少年か」
妖精王リュオン様はヒロさんと私に魔法で出したテーブルセットとティーセットで美味しい紅茶をもてなしてくださったわ。
「このところ、毎日この林にやってきては捨て猫たちにほどこしをしているようだな」
リュオン様はこの林、いいえ、この学院や国のことまでお見通しですの。
「やっぱり! オルキスって優しいひとなのね!」
「……『優しい』の定義は人それぞれだが、ヒロはそう思うか」
「はい! 私だって、あんな子猫たちを見つけてしまったら目が離せません。そうよね、カレンちゃん!」
「――そうね。あんなか弱い動物を見てしまったら、そうやすやすとは見過ごせないわ」
リュオン様はヒロ様と私を見つめて一息ついた後、こう仰ったわ。
「そうか。ならば、あの子猫たちは私が庇護して成猫になるまで世話をしてやろう」
「――!! やったね、カレンちゃん! リュオン様の元でならあの子たちも安心して成長できるわ!」
「よかったわね、ヒロさん!」
私たちははしゃいでしまったわ。
※
――翌日。教室にて。
「オルキス!」
ヒロさんがオルキスを呼び止めましたわ。
「ああん? 何だよ……」
オルキスはぶっきらぼうに応えました。
「昨日の子猫ちゃんたちのことなんだけどね!」
「――!!」
オルキスは慌てて小声でヒロさんにこう言いましたわ。
「そのことはもう絶対に言うな! いいな!?」
けれどヒロさんのマイペースは負けませんわ。
「……どうして? オルキスが世話してた子猫ちゃんたちの話、大事でしょ?」
ヒロさんの声は美しく可憐で、教室に響き渡るわ。
……ザワッ。
瞬間、教室がざわめきましたの。
「あのオルキスが子猫……?」
「あのオルキスが」
「あの」
みんながオルキスの噂を始めました――――
「くっ!」
オルキスはその場の空気に耐えきれず、教室から急いで出ていってしまいました。
「――? どうしたのかなぁ、オルキスったら」
「ヒロさん……」
ヒロさんファン第一人者の私でも、これは流石にオルキスが不憫でしたわ……。
※
その日の晩、我が家アキレギア家の応接室にて。
今晩もニーハイムス様がいらして下さいましたわ。私は昨日・今日と学院で有った、ヒロさんとオルキスのお話しを(リュオン様の件は除いて)お話ししました。
「――なるほど。オルキスはいい子だったんですねえ……」
ニーハイムス様もオルキスに感心しておられますわ。
「けれど、ヒロさんの発言で逆にクラスに居辛そうになってしまって……おかわいそうですわ」
私はティーカップを置きながらお話ししました。
「彼はプライドが高いので、自分のイメージと違う行動を取っていたことを知られるのが恥ずかしいのですわ」
「ふうん。俺は好きですけどね。勿体ないなあ」
「周囲のクライスメイトの皆さんもどう接したら良いのか解らない様子で」
「それは困りましたね」
「そうなんですの」
「オルキスの件は早急に解決しないと。俺のカレンが困るのは見ていられない、俺が耐えられません」
……また、この方は歯の浮くような恥ずかしい台詞を。
こんなニーハイムス様を好きになってしまった自分も恥ずかしいですわ。
「ありがとうございます。それでは、学院で何か有れば協力していただけますか?」
「ええ、もちろん!」
ニーハイムス様は私の手を握って笑顔で答えられましたわ――
昼休みにヒロさんが私に提案してきましたわ。
「よろしいですわね、久しぶりにリュオン様にお会いしたいわ」
リュオン様と言うのはこの学院の裏手にある林の泉に住まわれる『妖精王リュオン様』のこと。
人間嫌いで通常は人間の目の前には姿を現しませんけど、このゲーム『花と嵐と恋の華~魔法学院でドキドキ☆スクランブル~』の主人公、ヒロさんのことはお気に入りで、ヒロさんのご紹介で私の目の前にも現れて下さるようになったのですわ。
「それでは、今日はキースとエルゼンにはレッスンはお休みということにしておきましょう」
「そうね、それがいいわ!」
――そうして放課後、ヒロさんと私は林の泉に向かいましたの。
学院の裏手の教会の前を抜けて、いつものひっそりとした休憩所を更に抜けた先に林が有りますのよ。
私たちが林まで辿り着いた時でしたわ。
「ミャー。ミャー」
どこからか、子猫らしき鳴き声が聞こえてきましたわ。
「カレンちゃん! 子猫、近くに居るのかな?」
「そのようですわね!」
女の子は小動物に弱いものですわ! ヒロさんと私はリュオン様の泉に行く前に、子猫探しを始めてしまいましたの。
「どの辺から聞こえたのかなぁ……」
「こちらの方角だと思いますけれど」
ふたりで歩みを進めたわ。
すると…………
「ははっ、くすぐったいな! こら、やめろって!」
そこには。
子猫たちの中心にクラスメイトのオルキス・オンシジウムがいらっしゃいましたわ――――
「……」
「……」
ヒロさんと私はその光景に無言になってしまいましたわ。
「…………っ!」
オルキスがこちらに気付きました。
「お前たち、いつからそこに――!?」
彼は焦っているようでしたわ。まあ、それもそのはずよね。
オルキス・オンシジウムはこの世界の攻略対象のひとり。学院の一匹狼で誰も信じず、誰ともつるまないで自分ひとりのチカラでのし上がって行くタイプですの。
そのクールな性格と、孤児という悲しいバックグラウンドと、黒髪と金色の目というビジュアルから、ファンからの人気も高いのですわ。
「ついさっきからだよぉ! ――オルキスくんって優しいんだね! 教室でのイメージと全然違ってビックリしちゃった!」
ヒロさんがオルキスの地雷を踏み抜いていきますわ……!
流石主人公――!!
「……っち、違う! 俺はたまたまここを通りかかっただけだ! こんな弱い小動物のことなんて知らねぇ――!!」
オルキスはそっと子猫を芝生の上に置きましたわ。言っていることとやっていることがチグハグですのよ!
「とにかく! 今見たことは無かったことにしろ! 決して他の誰かに言うな! いいな!?」
「えーっ、どうして? みんなオルキスくんのことを見る目が変わって、お友達が出来ると思うよぉ?」
「だ・か・らっ! 俺は『友達』なんて要らないんだ!」
「そんな、せっかく学院に通っているのに勿体ない――ねぇ、カレンちゃん?」
私はヒロさんとオルキスのやりとりを見ていてふきだすのを堪えるのに必死でしたわ。
「――え? ええ……そうですわね。せっかくの学院生活で、孤独は寂しいですわよ」
「ふん。貴族のお嬢様に俺の何が解るって言うんだ。上から偉そうに」
そう、オルキスは孤児出身なのも有って貴族などの高位な身分が大嫌い。
私にも当然冷たく当たりますの。
それで、本来なら主人公であるヒロさんをいじめていた(つもりは無かったのですが結果的にはそうなっていましたわ)私からヒロさんをかばい、影から見守り、ヒロさんと徐々に親愛度が上がっていくのがゲームの流れだったのですけれど――
あいにく、ヒロさんと私がお友達になってしまったので今までヒロさんの前でオルキスの出番は無いに等しかったのですわ。
ごめんなさい、オルキス。
……オルキスはそのまま急いで林から去って行きましたわ。
足元の子猫たちの側には、空けた缶詰が置いてありました。
きっとオルキスがこの子猫たちのためにご飯を用意してあげていたのね……。
「オルキス……どうして意地っ張りなんだろうねぇ? 優しいのはいいことなのに」
ヒロさんの目には孤高の一匹狼も『意地っ張り』に見えているようでしたわ。
「オルキス? ああ、あの黒髪金目の少年か」
妖精王リュオン様はヒロさんと私に魔法で出したテーブルセットとティーセットで美味しい紅茶をもてなしてくださったわ。
「このところ、毎日この林にやってきては捨て猫たちにほどこしをしているようだな」
リュオン様はこの林、いいえ、この学院や国のことまでお見通しですの。
「やっぱり! オルキスって優しいひとなのね!」
「……『優しい』の定義は人それぞれだが、ヒロはそう思うか」
「はい! 私だって、あんな子猫たちを見つけてしまったら目が離せません。そうよね、カレンちゃん!」
「――そうね。あんなか弱い動物を見てしまったら、そうやすやすとは見過ごせないわ」
リュオン様はヒロ様と私を見つめて一息ついた後、こう仰ったわ。
「そうか。ならば、あの子猫たちは私が庇護して成猫になるまで世話をしてやろう」
「――!! やったね、カレンちゃん! リュオン様の元でならあの子たちも安心して成長できるわ!」
「よかったわね、ヒロさん!」
私たちははしゃいでしまったわ。
※
――翌日。教室にて。
「オルキス!」
ヒロさんがオルキスを呼び止めましたわ。
「ああん? 何だよ……」
オルキスはぶっきらぼうに応えました。
「昨日の子猫ちゃんたちのことなんだけどね!」
「――!!」
オルキスは慌てて小声でヒロさんにこう言いましたわ。
「そのことはもう絶対に言うな! いいな!?」
けれどヒロさんのマイペースは負けませんわ。
「……どうして? オルキスが世話してた子猫ちゃんたちの話、大事でしょ?」
ヒロさんの声は美しく可憐で、教室に響き渡るわ。
……ザワッ。
瞬間、教室がざわめきましたの。
「あのオルキスが子猫……?」
「あのオルキスが」
「あの」
みんながオルキスの噂を始めました――――
「くっ!」
オルキスはその場の空気に耐えきれず、教室から急いで出ていってしまいました。
「――? どうしたのかなぁ、オルキスったら」
「ヒロさん……」
ヒロさんファン第一人者の私でも、これは流石にオルキスが不憫でしたわ……。
※
その日の晩、我が家アキレギア家の応接室にて。
今晩もニーハイムス様がいらして下さいましたわ。私は昨日・今日と学院で有った、ヒロさんとオルキスのお話しを(リュオン様の件は除いて)お話ししました。
「――なるほど。オルキスはいい子だったんですねえ……」
ニーハイムス様もオルキスに感心しておられますわ。
「けれど、ヒロさんの発言で逆にクラスに居辛そうになってしまって……おかわいそうですわ」
私はティーカップを置きながらお話ししました。
「彼はプライドが高いので、自分のイメージと違う行動を取っていたことを知られるのが恥ずかしいのですわ」
「ふうん。俺は好きですけどね。勿体ないなあ」
「周囲のクライスメイトの皆さんもどう接したら良いのか解らない様子で」
「それは困りましたね」
「そうなんですの」
「オルキスの件は早急に解決しないと。俺のカレンが困るのは見ていられない、俺が耐えられません」
……また、この方は歯の浮くような恥ずかしい台詞を。
こんなニーハイムス様を好きになってしまった自分も恥ずかしいですわ。
「ありがとうございます。それでは、学院で何か有れば協力していただけますか?」
「ええ、もちろん!」
ニーハイムス様は私の手を握って笑顔で答えられましたわ――
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