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第2章
【20】執務室でふたり!
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「――と、言うわけでニース先生の助言のおかげで皆さんとオルキスは無事、お友だちになれましたわ――」
「それは良かった」
オルキスと私たちが友人になった翌日、私はひとりでそっと、ニース先生の執務室にご報告に参りました。
ニース先生はメガネを外して胸ポケットに入れ、私を見つめましたわ。
「それで、助言のご褒美などはいただけないのですか?」
メガネを外すと、そこには素顔のニーハイムス様が……出てまいりましたけれど、ここは学院の中ですわ。
「そうですわね……ニース先生へのご褒美は、次のテストで満点というのはどうでしょう?」
「……っは。もちろん、そういうサプライズも教師なりに嬉しいですが、ほら、察して下さいよ――」
「大切な婚約者様にはプライベートで何か、おもてなしをしたいですわね。これは学生としてではない私の独り言ですけれど」
「……ああ、俺も大切な婚約者を今すぐ抱きしめてキスでもしたいところですが我慢しましょう……これは教師としてではない俺の独り言ですけれど」
「………」
「………………」
ふたりの間に無言の何とも言えない空気が流れるわ。
でも決して悪い空気ではないのです。
例えれば、そうね、日向で猫がじゃれ合っているような、そんな。
「――ヒロさんはともかく、他は最近男友達ばかりが増えていくのは心配ですよ、カレン」
執務机から、こちらの来客用ソファに。私の正面に座ったニース先生ことニーハイムス様はそんなことを言い出しましたわ。
「まあ、『ニーハイムス様』はそんなふうに私を見ていたのですね」
その誰もが、『花と嵐と恋の華~魔法学院でドキドキ☆スクランブル~』の攻略対象であり、主人公であるヒロさんのお相手候補なのですから、まるで心配は無用なのですけれど。そんなことを言ってもニーハイムス様には通じないでしょう。
「実は私、昔から同性のお友だちは多いんですの」
これは本当よ。ゲームの世界ではそのお友だちは私の『取り巻き』ということになっていますけど。
「今更異性のお友だちが数人増えたところで、どうと言うこともありませんわ」
「本当に?」
たまに、ニーハイムス様は心配性になられるのよね……。
「本当ですわ。それに――」
私は胸元に隠しているチェーンに付けた指輪をニーハイムス様にお見せしましたわ。
「最も大切な殿方なら、既にいらっしゃるので」
「――――! 貴女は小悪魔か何かかな? カレン・アキレギア……」
ニーハイムス様は頭を抱えてしまいましたわ。どうしたのかしら?
「……本当に、貴女に思い切って早期に婚約を申し込んで良かった。学院とは言え野に放ったままにしなくて良かった。俺は多少の無理をしてでも教師になった甲斐があると言うものです」
頭を抱えうつむいたまま、独り言のように、ブツブツと呟くニーハイムス様。
「あの――」
私は少々心配になって、立ち上がりお声をかけようとしましたわ。
「いや、今は触れないでカレン」
「はい?」
「今の俺では貴女の『教師』失格になってしまいますので――」
ちょっと意味が解りませんわ。
「本当に? 大丈夫ですの――?」
私はニーハイムス様の制止も無視して肩に手をお掛けしてしまいました。
すると――――
ガッ。
と、ニーハイムス様は私の手首を掴んで引き寄せられましたわ!
思っていたよりも全然、男の肩の力って強いのですね……!?
「だから止めろと言ったでしょう、カレン――」
私はニーハイムス様の膝の上に乗った状態で、じっと見つめられています。
相変わらずの美形の圧。漆黒の髪と真紅の瞳に吸い込まれるわ――!
「ニーハイムス様……」
「カレン……」
ニーハイムス様と私は、徐々に唇が近づいて――……
「師匠! いらっしゃいますかっ!」
バーン!
突然、執務室のドアが開きましたわ!!
「ちょっとダメよドアはちゃんとノックしてから開けないと!」
「あっ、しまったわりぃわりぃ」
私は一瞬でニーハイムス様から離れ、お側に立っていたふうに装いました。
「キ、キースとヒロさん……っ」
「あれ? カレンちゃんたらニース先生のところに来てたんだ?」
「あ、ああ…カレンにはちょっと書類整理を手伝って貰おうと思ってね」
ニーハイムス様は胸元のポケットからメガネを取り出して装着し、『ニース先生』に戻っていらしたわ。
「ニース師匠! お忙しいところすみません! もしよろしければ今日の放課後、少しの時間でも俺の剣術の指南をお願い出来ないでしょうかっ!?」
キースが勢い良くニース先生に声を張り上げてお願いしたわ。
「あ、ああ……わかったよ……って、ええっ! だから私は魔法理論学の教師だって言ってるじゃないですか」
「剣術の先生たちじゃもう俺のレベルに見合わないんですよー!」
「……そういう事は剣術の先生たちの前では絶対に言わないように」
「はい!」
「ニース先生! 私は放課後に、普通に魔法理論学の補講を受けたくてお願いしに来ました!」
「……ヒロは偉いですね」
「ヒトより魔力が劣る分、努力しないとです!」
ああっ! ヒロさん! なんて健気なの……っ!
魔力が劣っているなんてとんでもないわ! あなたのそれは神に封印されし禁忌の最強のチカラなのよ……っ!
「ヒロさん……っ!」
私はヒロさんをぎゅっと抱きしめていたわ。
「ああっ」
ニース先生のお声が聞こえた気がしましたが気のせいでしょう。
「一緒に、一緒にお勉強しましょうね!」
「もちろんよ、カレンちゃん!」
ヒロさんも私を抱きしめ返してくれましたわっ!
ああ素晴らしいわこの主人公と悪役令嬢のあり得ないはずだった友情――!!
「……どうもライバルは、君たちじゃなくてヒロのようだな」
「? 何のことですかニース先生?」
「いいや、何でも無い……」
こうして今日も、私の素敵な学院生活は続いていますの――――
「それは良かった」
オルキスと私たちが友人になった翌日、私はひとりでそっと、ニース先生の執務室にご報告に参りました。
ニース先生はメガネを外して胸ポケットに入れ、私を見つめましたわ。
「それで、助言のご褒美などはいただけないのですか?」
メガネを外すと、そこには素顔のニーハイムス様が……出てまいりましたけれど、ここは学院の中ですわ。
「そうですわね……ニース先生へのご褒美は、次のテストで満点というのはどうでしょう?」
「……っは。もちろん、そういうサプライズも教師なりに嬉しいですが、ほら、察して下さいよ――」
「大切な婚約者様にはプライベートで何か、おもてなしをしたいですわね。これは学生としてではない私の独り言ですけれど」
「……ああ、俺も大切な婚約者を今すぐ抱きしめてキスでもしたいところですが我慢しましょう……これは教師としてではない俺の独り言ですけれど」
「………」
「………………」
ふたりの間に無言の何とも言えない空気が流れるわ。
でも決して悪い空気ではないのです。
例えれば、そうね、日向で猫がじゃれ合っているような、そんな。
「――ヒロさんはともかく、他は最近男友達ばかりが増えていくのは心配ですよ、カレン」
執務机から、こちらの来客用ソファに。私の正面に座ったニース先生ことニーハイムス様はそんなことを言い出しましたわ。
「まあ、『ニーハイムス様』はそんなふうに私を見ていたのですね」
その誰もが、『花と嵐と恋の華~魔法学院でドキドキ☆スクランブル~』の攻略対象であり、主人公であるヒロさんのお相手候補なのですから、まるで心配は無用なのですけれど。そんなことを言ってもニーハイムス様には通じないでしょう。
「実は私、昔から同性のお友だちは多いんですの」
これは本当よ。ゲームの世界ではそのお友だちは私の『取り巻き』ということになっていますけど。
「今更異性のお友だちが数人増えたところで、どうと言うこともありませんわ」
「本当に?」
たまに、ニーハイムス様は心配性になられるのよね……。
「本当ですわ。それに――」
私は胸元に隠しているチェーンに付けた指輪をニーハイムス様にお見せしましたわ。
「最も大切な殿方なら、既にいらっしゃるので」
「――――! 貴女は小悪魔か何かかな? カレン・アキレギア……」
ニーハイムス様は頭を抱えてしまいましたわ。どうしたのかしら?
「……本当に、貴女に思い切って早期に婚約を申し込んで良かった。学院とは言え野に放ったままにしなくて良かった。俺は多少の無理をしてでも教師になった甲斐があると言うものです」
頭を抱えうつむいたまま、独り言のように、ブツブツと呟くニーハイムス様。
「あの――」
私は少々心配になって、立ち上がりお声をかけようとしましたわ。
「いや、今は触れないでカレン」
「はい?」
「今の俺では貴女の『教師』失格になってしまいますので――」
ちょっと意味が解りませんわ。
「本当に? 大丈夫ですの――?」
私はニーハイムス様の制止も無視して肩に手をお掛けしてしまいました。
すると――――
ガッ。
と、ニーハイムス様は私の手首を掴んで引き寄せられましたわ!
思っていたよりも全然、男の肩の力って強いのですね……!?
「だから止めろと言ったでしょう、カレン――」
私はニーハイムス様の膝の上に乗った状態で、じっと見つめられています。
相変わらずの美形の圧。漆黒の髪と真紅の瞳に吸い込まれるわ――!
「ニーハイムス様……」
「カレン……」
ニーハイムス様と私は、徐々に唇が近づいて――……
「師匠! いらっしゃいますかっ!」
バーン!
突然、執務室のドアが開きましたわ!!
「ちょっとダメよドアはちゃんとノックしてから開けないと!」
「あっ、しまったわりぃわりぃ」
私は一瞬でニーハイムス様から離れ、お側に立っていたふうに装いました。
「キ、キースとヒロさん……っ」
「あれ? カレンちゃんたらニース先生のところに来てたんだ?」
「あ、ああ…カレンにはちょっと書類整理を手伝って貰おうと思ってね」
ニーハイムス様は胸元のポケットからメガネを取り出して装着し、『ニース先生』に戻っていらしたわ。
「ニース師匠! お忙しいところすみません! もしよろしければ今日の放課後、少しの時間でも俺の剣術の指南をお願い出来ないでしょうかっ!?」
キースが勢い良くニース先生に声を張り上げてお願いしたわ。
「あ、ああ……わかったよ……って、ええっ! だから私は魔法理論学の教師だって言ってるじゃないですか」
「剣術の先生たちじゃもう俺のレベルに見合わないんですよー!」
「……そういう事は剣術の先生たちの前では絶対に言わないように」
「はい!」
「ニース先生! 私は放課後に、普通に魔法理論学の補講を受けたくてお願いしに来ました!」
「……ヒロは偉いですね」
「ヒトより魔力が劣る分、努力しないとです!」
ああっ! ヒロさん! なんて健気なの……っ!
魔力が劣っているなんてとんでもないわ! あなたのそれは神に封印されし禁忌の最強のチカラなのよ……っ!
「ヒロさん……っ!」
私はヒロさんをぎゅっと抱きしめていたわ。
「ああっ」
ニース先生のお声が聞こえた気がしましたが気のせいでしょう。
「一緒に、一緒にお勉強しましょうね!」
「もちろんよ、カレンちゃん!」
ヒロさんも私を抱きしめ返してくれましたわっ!
ああ素晴らしいわこの主人公と悪役令嬢のあり得ないはずだった友情――!!
「……どうもライバルは、君たちじゃなくてヒロのようだな」
「? 何のことですかニース先生?」
「いいや、何でも無い……」
こうして今日も、私の素敵な学院生活は続いていますの――――
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