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第4章

【29】聖飛竜と聖女!

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 聖飛竜――
 それはこの国の子供なら皆、おとぎ話として大人から話し、伝えられる空駆ける聖なる竜のことですわ。

 『聖飛竜の卵』と言われたを持ったヒロさんは目を丸くして言ったわ。
「聖飛竜って、ニース先生! おとぎ話の世界のことじゃないんですか?」
  ニース先生が答えますわ。
「うん。この国の大体の人が『おとぎ話の世界』のことだと思っているだろうね。だけど聖飛竜は実在するんだよ――」

 ニース先生は詳しくは執務室で、と言ってヒロさんと私に移動を促しましたわ。
「けれど1時間目の授業が始まってしまいます――」
「それは私から教諭に連絡しておこう」

 ニース先生の職務室に移動した私たちは、早速、ニース先生にお話しを伺うことになったのです。
「さて。聖飛竜について何から話そうか――」
 私も不思議でしたので、ニース先生に疑問をぶつけてみたわ。
「聖飛竜と言えば『王家と聖女』のおとぎ話で有名ですわね」

「うん、そうだね。『王家と聖女』の物語はこの国の子供たちがみな聞かされているおとぎ話だろうね」


『王家と聖女』とは――――
 かいつまんでお話すると。
 昔むかし、王様に使えるひとりの聖女がおりました。聖女は王様が民を治めるために力を貸し、傷ついた人や病んだ人を癒やして救ってあげていました。
 聖女が誰かを救うたび、王様の力も大きく、偉くなっていきます。悪い悪魔からも王様を守りました。が、聖女は人を癒やし王を守った分だけ自分が疲れて居ることに気付いていませんでした。
 ある日、大きな飛竜が聖女の前にやって来てこう問いました。
「このままでは王の力は巨大になるがお前の身体は死んでしまう。それでいいのか?」
 聖女はそれで構わないと答えました。聖女は王のことを愛していたのです。
 聖女のことを可哀想に思った飛竜は自分の子供の卵を預けて聖女にこう言ったのです。
「この子を育てて一人前にすれば、お前も死ぬことは無くなるだろう」
 そうして、聖女は飛竜の卵を預かり、育て、かえし、一匹の巨大な飛竜を育てました。
 その間も国王の為に戦い、人々を癒やしていましたが、不思議なことに以前のような疲れが溜まらないのです。そう、それは聖女が飛竜から魔力の提供を受けていたからだったのです。
 以来、その飛竜は聖女と並び『聖飛竜』と呼ばれ、国の繁栄と平和のいしずえになり、聖女は王様と無事結ばれることになりました――――


「――散々、絵本や寝しなの物語に聞かされましたわね」
「あっ、カレンちゃんちでもそうなんだ! 嬉しいな育ちは違ってもそういうところ一緒なの!」
「まあっ! 私も嬉しいですわっ! ヒロさんと共通点が見つかるなんて!」
 私はヒロさんの手を握って喜びました。

「――コホン。話を戻そう」
 ニース先生は応接用のソファに着席し、私たちも座るように促しましたわ。

「そこにさっきの卵を置きたまえ、ヒロ」
「はい、これですニース先生」
 ヒロさんは鞄から先ほどニース先生と私に見せた、球状の、青白い石のような、卵のような、不思議な物体を取り出しテーブルの上に置きました。

「まず、これが空から降ってきたって言うのがどういうことだい?」
 ニース先生は深刻なおもむきで訊ねます。

「はい、家を出て、ひとりでいつものあぜ道を歩いていたら、空から光の柱が落ちてきて。私、そこへ走って行ったんです。そうしたらゆっくりとこの球? 卵? が私の手元に降りてきて――」

「……なるほど。ヒロが次代の聖女だったわけか」
 ニース先生は深刻な表情を崩さぬまま、仰っしゃりましたわ。私は――
「次代? 次代の聖女とは何なんですの?? ニース先生教えて下さい!」
 そんなルート、私の知っている『花と嵐と恋の華~魔法学院でドキドキ☆スクランブル~』には有りませんでしたわ!
 確かにヒロさんは全属性の魔法のチカラを封印されている設定でしたけれど、話が国規模になるとは……。

「王家では、この国に何か大きな厄災が訪れる時、『聖女』と『聖飛竜』が誕生すると言い伝えられているのですよ――」

 ヒロさんはキョトンとしているわ。仕方ないわね。私も理解が追いつかないもの。

「そうだな、この件は仕方ないが妖精王リュオン様に伺ったほうが話が早いかも知れない」
 ニース先生がそう言うと、執務室の入り口にひとり、人影が。

「『仕方がない』とはどういうことだ。ニース?」
 そこには既に妖精王リュオン様が、生徒の姿をして立っておられたわ――――

「リュオン様!」
 ニース先生とヒロさんと私は声を揃えてそのお名前を呼びましたわ。

「――先ほど、泉からヒロが飛竜の卵を受け取るところを見てな」
 リュオン様はそう言いながら、こちらに近付いてきましたわ。そうしてテーブルの上の卵? を見て仰っしゃりました。
「なるほど。これは『聖飛竜』の卵だな。ほら、普通の飛竜の卵よりも色味が深く、光っているだろう?」

「……そう言われましても、リュオン様以外誰も飛竜の卵自体を見たことが無いのでなんとも……私も王立図書館の書物で見たくらいの知識しか有りませんし」
 と、ニース先生が答えましたわ。リュオン様は心底つまらなそうにして――
「ふん。これだから最近の若者は」
 でも、ヒロさんが目を輝かせてリュオン様に向かって言うと――
「すごいっ! リュオン様はやっぱり何でも知ってるんですね! さすが妖精王様!」
「おお、ヒロはかわいいな。若者は知らんでも仕方ない。これが『聖飛竜』の卵じゃ」
 ……男性と女性で態度がまるで違いますわ……流石乙女の味方(?)妖精王リュオン様。

 私はしばし考えましたわ。そしてリュオン様にお訊ねしました。
「……リュオン様。これは吉兆なのでしょうか凶兆なのでしょうか?」
「……ふむ。私の夢でもまだこの『聖飛竜』の話は始まったばかりのようでな。夢の乙女たちは『しんしおなりおきたー』とか、叫んでおったよ」
「『しんしなりおきたー』ですか……!?」
 それってつまり『新シナリオ来たー!』よね…………。
 また、私の知らない新シナリオがこの『花と嵐と恋の華~魔法学院でドキドキ☆スクランブル~ ファンディスク』(推定)に搭載されたというの?

 この『聖飛竜の卵』が今後のヒロさんの運命を左右すると言うことは、この世界ゲームのキャラクター皆の運命をも左右するということですわ……。これは慎重に対処しないと――――

「ねぇリュオン様、ニース先生。この卵っていつかえるのかしら?」
 そう言ってヒロさんは卵を持って軽く揺さぶりましたわ。
「こ、こらヒロ! 飛竜の卵はそうやって扱うものではない!」
「ヒロ! 危ないのでもっと丁寧に扱ってください!」
「ヒロさん! いくら何でもそれは大胆ですわ――!」
 私たち、3人がヒロさんに対して同じ気持ちになった瞬間でした――――

「……とりあえず、この卵を授かったと言うことはヒロが次代の『聖女』で確定だろう」
 先ほど、ニース先生も仰っていましたけど、リュオン様も同じ見解のようでしたわ。

 果たしてこの国に、どのような『厄災』が現れると言うのでしょう――――?
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