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第6章

【42】学院祭準備!

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 ――晩秋の頃。

 ラフーワ魔法学院ではこの時期に学院祭が催されます。
 貴族から地元地域の方々、身分関係なく招き入れて、魔法使いに理解と親しみを覚えていただこうという企画ですわ。

 私達のクラスの催しは魔法喫茶に決まりましたの――!

「……だ・か・らっ! どこに魔法が関係するんだ」
 オルキスが珍しくクラス会議で意見を述べていますわ。
 確かに、『魔法喫茶』と言ってもお客様にお出しするのは普通の飲み物や食べ物になりますけれど……。

「魔法を直接使った催し物は2年生以降からと決まっている」
 エルゼン委員長が黒板の前に立って意見を返しましたわ。
「…………ちっ」
 オルキスは仕方なく席に着きましたわ。
「いいじゃないオルキス。喫茶店もきっと楽しいよ!」
「ぴゅい!」
 ヒロさんとベルさんがオルキスに話しかけていますわ。

 そんな中、シュリさんが独り言を言いましたわ。
「のん気なもんだよねぇ~。勉強もせずに学院祭なんてお祭り騒ぎに興じて」
 ニースが返します。
「別に学校なんだから勉強だけじゃなくてもいいだろ! 勉強だけなら監獄みたいなもんだぜ」
 私は、肩にハクテイさんを乗せながら。
「そこ、私語は慎みなさい。学院祭も勉学の内ですわ」
 エルゼン委員長と並ぶ副委員長として、学院祭の企画を進めていました――――


  ※


 ――ニーハイムス様ことニース先生の執務室。
 本日はシオン神父様と私がニーハイムス様の元にお邪魔しておりますわ。

「へぇ~。魔法喫茶。俺もこの学院の1年生の頃にやったなぁ……」
 ニーハイムス様はメガネの奥に懐かしそうな瞳を浮かべていますわ。
「まあ。ニーハイムス様も魔法喫茶を?」
 シオン神父様は遠くを見ながら、思い出したように。
「……ああ、あの魔法喫茶は傑作だったな。ニーハイムス」
 瞬間、ニーハイムス様がギクリとされたような気がしましたが。気のせいかしら?
「シオン神父様は当時のニーハイムス様をご覧になられたんですか?」
「はい。私も卒業生なので。ニーハイムスが喫茶店で接客すると噂で聞いて、物見遊山でレイニー様を連れて学院祭に足を運んだのですよ」
「――ちょっと待て。それ以上言うな」
 ……? 何か有ったのかしら?
「いいじゃないですか、魔法喫茶」
 シオン神父様は笑顔でいらっしゃいますわ。


  ※


 学院祭準備。

 ヒロさんと私とエルゼンとオルキスで、街の果物屋さんに仕入れの交渉に来ましたわ。
 私とエルゼンは副委員長と委員長として、ヒロさんとオルキスは交渉役として選ばれてきましたの。

 道の途中、エルゼンが心配そうに言いましたわ。
「……ヒロはともかく、オルキスは大丈夫なのか? 店との交渉なんて向いていなさそうだが」
 ヒロさんが返します。
「大丈夫だって! 私の見る目に狂いはありませ~ん! ねっ、オルキス」
 オルキスは黙って前を向いて歩いていきます。
「……大丈夫なのでしょうか?」
 私も心配です。彼は無口なクールキャラではなくて?

 店に着くなり、オルキスは店主に。
「このグレープフルーツは1ケースで何イェントだ?」
「それは500イェントに負けておこう」
「負けてないだろう。高い。相場は420ってところだろう」
「ちぇ……値切り上手だねぇ。ラフーワの子はお坊ちゃんお嬢ちゃんばかりだから毎年いい商売になるのに」
「俺を甘く見るな。次。そっちのパッションフルーツ」
 ……思いの外、上手く行っているわ……。

 孤児院出身のオルキスは、ケースでの買付も手慣れた様子でした。
「……なるほど。確かに貴族の俺やカレンだけだったら、相場なんて知らずに言い値で買い付けていたな」
「ねっ! 私の見る目に狂いは無かったでしょう?」
 何故かオルキスではなくヒロさんがエルゼンに得意満面です。でも可愛いからヨシ!ですわ。

 学院に戻ると、教室は店舗へと変わっている最中でした。
 キースが率先して飾り付けをしています。
「あ、そこもっと右がいいな。危ねーから俺がやっとく」
 キースは手も口も動かして止まりません。
「そっちのメニューはもうちょっと前に貼り出した方が見やすいんじゃないか? ほら?」
「……あいつ、祭り事になると元気になるな」
 エルゼンは感心しています。
「キースは昔から街のお祭りにドンドン参加する人だからね!」
「……あら? そう言えば」

 シュリの姿が見当たりませんわね。
 どこかで準備をサボっているのでしょうか。

 ヒロさんたちは気付いて居ないようなので、私はひとりでそっと教室から抜けてシュリを探すことにしました。
 転校生が皆さんに馴染むチャンスですし。この前の対オルキスようなトラブルを招かないかも心配ですし。

「みゃー!」
「ハクテイさんも一緒に行きましょう」
 ハクテイさんは私の肩に乗りましたわ。

 ――今のこのお祭り騒ぎの学院内で独りきりになれそうな場所はかなり限定されていますわ。そこを探していけば恐らくシュリに出会えるでしょう。

 私はひと気の無い休憩所から周りました。すると3箇所目でシュリに出会うことが出来ましたわ。

「シュリ」
 私は彼に声を掛けました。
 シュリは無防備にベンチに座っています。とっくに私に気付いているはずですわ。
「しゃー!」
 何故か肩に乗っているハクテイさんが警戒していますわ。後でお話しを伺わなければ。
「……やあ。カレン」
 シュリは穏やかに応えましたわ。
「シュリ。ちゃんと教室の準備に参加しないと――」
「ここに座っていくかい? 少し話をしようじゃないか」
「…………」
 私を『悪役令嬢』と言った行為やら問い正したいことは色々有りますけれど――
 とりあえず、私はシュリのペースに合わせることにいたしましたわ。
 彼がどのような人間かを私はまだよく知りません。

「俺が転校前に通っていた魔法学院ではね、学院祭なんて行事は無かったよ」
「……そうなんですの?」
 私はシュリになるべく刺激を与えないよう、お話しを伺いましたわ。

「ああ。『ルピナス』という国自体が身分制度に厳しいからね。こんな風に貴族と平民が入り乱れること自体がまず無かった。魔法学院のクラスも貴族クラス、平民クラスと分けられていてね」
「……他国のやり方に口を挟むべきでは無いでしょうけれど、それはそれで味気ないものですわね」
「……例えばあの孤児のオルキス。彼みたいな存在は『ルピナス』ではどんなに実力があろうが出世は無理だね」
「それは勿体ないですわ。良き人材となるでしょうに」

「『良き人材は良き血筋からしか生まれない』」

「――それが国の教えですの?」
「いいや。うちの家訓さ。しがない商人だけれどね」

 シュリは、はは。と笑って私を煙に巻きますわ。

「とにかく。ここは『ルピナス』ではなく『ヘリクリサム』ですわ。この国にはこの国のルールが有りますの」
 私はベンチから立ち上がって、シュリさんも教室へ戻るよう促しましたわ。

「『ヘリクリサムのルール』ねぇ……」
 シュリさんも立ち上がって、私に続いて教室へ戻ってくださいました。

「まあ、暫くはそのルールに乗ってみようか」
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