なぜ吟遊詩人は殺したか

一条りん

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第三章 吟遊詩人の罪

アルトーの罪状

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 熱帯雨林から命からがら逃げ帰った後、テオはギルドでアルトー・ラトゥールの収監されている牢獄を訊ねた。
 理由はただひとつ、アルトーとともに再び熱帯雨林を訪れ、『崩壊の詩』によってモンスターを一掃したのちに三人のライフシードを捜そうと思ったのだ。

「アルトー・ラトゥール? あの吟遊詩人の?」

 ギルドの受付嬢はアルトーの名前を知っていた。

「ラトゥールさんなら、城下町の牢獄に収容されています。まだ冒険者名簿から名前が削除されていないから、刑も執行されていないはずですよ」

 そう答えたあと、受付嬢は溜め息をついて、

「それにしても、馬鹿な真似をしたものね」

「え?」

「名簿を見るかぎり、ラトゥールさんは元々特に吟遊詩人として優れた才能を持ってたってわけじゃないみたい。養成所の成績も並だしね」

「そうなんですか」

 天才吟遊詩人、とココは言っていたのだが。

 受付嬢は頷いて、

「だから、『崩壊の詩』を習得するには並大抵でない努力が必要だったはずよ。それを、こんな馬鹿な事件を起こして、人生を棒に振って……ほんと、愚かね」

 最後の一言を、受付嬢は独りごとのように呟いた。

 しかし、アルトーが天才であろうとなかろうと、テオには大した問題ではない。

「身元引受人がいれば保釈されるってほんとうですか?」

 テオが訊ねると、受付嬢はきれいな眉を顰めて、

「ほんとうですけど……ミゼルさん、まさかラトゥールさんの身元引受人になるつもりですか?」

「はい。できれば、一緒に旅がしたくて」

「それは……やめたほうがいいんじゃないかしら」

 受付嬢は開いた名簿に目を落として、

「ラトゥールさんの罪状は殺人ですよ」

「知ってます」

「それも、四人も殺してます」

 テオは息を呑んだ。

 受付嬢は大きな瞳に憐憫の色を浮かべて、

「そんな人と旅ができるんですか? しかも二人きりで。ミゼルさんまで殺されないって保証はないんですよ?」

「……ラトゥールさんは、誰を、どんな事情で殺したんですか」

 テオは絞り出すような声で訊ねた。

 受付嬢は再度名簿を確認し、

「事情は分かりませんけど、被害者はラトゥールさんのご家族」

「え?」

「ラトゥールさんの奥様とお子さん三人、それにお母様となっています」

 思わぬ言葉にテオは絶句した。

 受付嬢は名簿から顔を上げると、念を押すようにこう言った。

「もう一度お訊ねしますけど、ほんとうにラトゥールさんの身元引受人になるつもりですか?」
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