31 / 50
第三章 吟遊詩人の罪
あなたは、何故 2
しおりを挟む
孤児のテオには家族と呼べる存在はない。孤児院では何不自由なく育てられてきたものの、やはり本物の家族とは違う。孤児院の院長以下、職員たちはみな優
しく接してくれたものの、他にも孤児がいる中では愛情や関心を独り占めすることもできなかった。
テオはそれを寂しいと思ったことはない。
ただ、町なかで家族連れを目にするとき、かすかに羨望の念が湧くのも事実だ。
可愛くてたまらないという顔つきで赤ん坊をあやしている母親や、商店の軒先で我が子に物の名前を教えながら買い物をしている父親を見かけるたび、テオはほんの少しだけ胸を締め付けられるような思いがする。俺がもし孤児でなく、普通の家庭で育っていたら。幸せそうな家族を見ながら、そんな想像を幾度巡らせたことだろう。
そんなテオにとって、いくら人の心を捨てたとはいえ、家族を殺したアルトーの心境は到底理解できるものではない。
理解できないからこそ、なぜ殺したのかを知りたかった。
「あなたは、何故、家族を殺したんですか?」
「知りたいのかい?」
「ええ」
深々と頷いたテオに、アルトーは皮肉っぽく口元をゆがめて、
「話したところで、僕に何の得になるのかな?」
と、笑った。
テオは一瞬、言葉に迷ったが、
「死刑を恐れない人が、いまさら損得にこだわるんですか?」
アルトーがちょっと顔を上げてテオを見た。意外にも、赤ん坊のように澄み切った無垢な瞳だ。
「口の達者な子だね」
そう言ってアルトーは力なく笑うと、
「君はどうして僕のことを知ったんだい。僕はもう世間から忘れ去られた存在だっていうのに」
「同じパーティの賢者から聞いたんです」
テオはそう答え、ここに至るまでの経緯を――自分以外の仲間を全滅させてしまったことも含めて――包み隠さず話した。
アルトーはじっと目を伏せて聞いていたが、
「じゃあ君は、仲間を復活させるために『崩壊の詩』を使ってほしいと言うんだね」
「そうです」
「僕の身の上話を聞きたいというのは、信頼に足る相手かどうかを見極めるためかい」
「それもありますけど」
テオは素直に、
「俺は孤児院で育ったから、家族というものを知りません。でも、きっと良いものなんだろうなって思ってます。だから身元引受人になるかどうかは別としても、どうしてあなたが家族を殺してしまったのか、純粋に興味があるんです」
と、答えた。
この回答を、アルトーは気に入ったようだった。
「正直でいいな、君は」
「話してもらえますか」
「ああ」
とアルトーは頷き、
「どうせ死ぬまで暇な身の上だ。君に協力するかどうかは別として、退屈しのぎに話してもいいだろう」
そう言って、薄い唇を舐めた。
しく接してくれたものの、他にも孤児がいる中では愛情や関心を独り占めすることもできなかった。
テオはそれを寂しいと思ったことはない。
ただ、町なかで家族連れを目にするとき、かすかに羨望の念が湧くのも事実だ。
可愛くてたまらないという顔つきで赤ん坊をあやしている母親や、商店の軒先で我が子に物の名前を教えながら買い物をしている父親を見かけるたび、テオはほんの少しだけ胸を締め付けられるような思いがする。俺がもし孤児でなく、普通の家庭で育っていたら。幸せそうな家族を見ながら、そんな想像を幾度巡らせたことだろう。
そんなテオにとって、いくら人の心を捨てたとはいえ、家族を殺したアルトーの心境は到底理解できるものではない。
理解できないからこそ、なぜ殺したのかを知りたかった。
「あなたは、何故、家族を殺したんですか?」
「知りたいのかい?」
「ええ」
深々と頷いたテオに、アルトーは皮肉っぽく口元をゆがめて、
「話したところで、僕に何の得になるのかな?」
と、笑った。
テオは一瞬、言葉に迷ったが、
「死刑を恐れない人が、いまさら損得にこだわるんですか?」
アルトーがちょっと顔を上げてテオを見た。意外にも、赤ん坊のように澄み切った無垢な瞳だ。
「口の達者な子だね」
そう言ってアルトーは力なく笑うと、
「君はどうして僕のことを知ったんだい。僕はもう世間から忘れ去られた存在だっていうのに」
「同じパーティの賢者から聞いたんです」
テオはそう答え、ここに至るまでの経緯を――自分以外の仲間を全滅させてしまったことも含めて――包み隠さず話した。
アルトーはじっと目を伏せて聞いていたが、
「じゃあ君は、仲間を復活させるために『崩壊の詩』を使ってほしいと言うんだね」
「そうです」
「僕の身の上話を聞きたいというのは、信頼に足る相手かどうかを見極めるためかい」
「それもありますけど」
テオは素直に、
「俺は孤児院で育ったから、家族というものを知りません。でも、きっと良いものなんだろうなって思ってます。だから身元引受人になるかどうかは別としても、どうしてあなたが家族を殺してしまったのか、純粋に興味があるんです」
と、答えた。
この回答を、アルトーは気に入ったようだった。
「正直でいいな、君は」
「話してもらえますか」
「ああ」
とアルトーは頷き、
「どうせ死ぬまで暇な身の上だ。君に協力するかどうかは別として、退屈しのぎに話してもいいだろう」
そう言って、薄い唇を舐めた。
0
あなたにおすすめの小説
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。
タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。
しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。
ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。
激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発
ハーフのクロエ
ファンタジー
アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。
大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ
鮭とば
ファンタジー
剣があって、魔法があって、けれども機械はない世界。妖魔族、俗に言う魔族と人間族の、原因は最早誰にもわからない、終わらない小競り合いに、いつからあらわれたのかは皆わからないが、一旦の終止符をねじ込んだ聖女様と、それを守る5人の英雄様。
それが約50年前。
聖女様はそれから2回代替わりをし、数年前に3回目の代替わりをしたばかりで、英雄様は数え切れないぐらい替わってる。
英雄の座は常に5つで、基本的にどこから英雄を選ぶかは決まってる。
俺は、なんとしても、聖女様のすぐ隣に居たい。
でも…英雄は5人もいらないな。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います
ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。
懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる