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第三章 吟遊詩人の罪
吟遊詩人のささやき
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仰向けに倒れて動かなくなったビビは、頭と鼻から血を流し、半開きの瞼から光のない目を覗かせていた。
アルトーはかがんでビビの瞼を閉じてやろうとした。
指先が震えて、なかなか思うようにいかない。
アルトーは焦った。ビビの死を隠すことはできないにしても、こんな無残な姿で放置するわけにいかない。子どもたちが母の亡骸を見たら、どれだけショックを受けることか――。
『いいじゃないか、子どもたちも殺してしまえば』
ふいに誰かの声が聞こえて、アルトーは思わず周囲を見渡した。
だが、傍らには誰の姿もなかった。声は、アルトー自身の頭の中から聞こえていた。
『君は、自由になりたいんだろ? 僕のようになりたいんだろ?』
ああ、とアルトーは溜め息を漏らした。頭の中で響き続けるその声は、アルトーの中に生まれた「完璧な吟遊詩人」のそれに違いなかった。
完璧な吟遊詩人としてのアルトーは、まだそうでないアルトーにささやき続けた。
『子どもたちも殺してしまえ。そうして、一緒に旅に出よう? 僕らのような存在は、平凡な家庭に押し込められて生きるべきじゃないんだ。君は君の人生を、伝説の吟遊詩人として栄光に包まれて生きるのか? それとも、凡庸な父親で終わるのか?』
「伝説の吟遊詩人として……」
『ああ、そうさ。君は歴史に名を残すだけの天性の才能に恵まれている。平凡な父親として生きたいと願うならそれでもいい。だが、君の才能もこれまでの努力も、君が死ねばすべて無になって歴史の狭間に埋もれてしまうだろう。それでいいのか? もし君が勇気を奮い起こしさえすれば、君の名は君が死んでも永遠に輝き続けるんだ』
「僕の名は、僕が死んでも永遠に……」
いつしか、アルトーの中から迷いは消え去っていた。
アルトーはかがんでビビの瞼を閉じてやろうとした。
指先が震えて、なかなか思うようにいかない。
アルトーは焦った。ビビの死を隠すことはできないにしても、こんな無残な姿で放置するわけにいかない。子どもたちが母の亡骸を見たら、どれだけショックを受けることか――。
『いいじゃないか、子どもたちも殺してしまえば』
ふいに誰かの声が聞こえて、アルトーは思わず周囲を見渡した。
だが、傍らには誰の姿もなかった。声は、アルトー自身の頭の中から聞こえていた。
『君は、自由になりたいんだろ? 僕のようになりたいんだろ?』
ああ、とアルトーは溜め息を漏らした。頭の中で響き続けるその声は、アルトーの中に生まれた「完璧な吟遊詩人」のそれに違いなかった。
完璧な吟遊詩人としてのアルトーは、まだそうでないアルトーにささやき続けた。
『子どもたちも殺してしまえ。そうして、一緒に旅に出よう? 僕らのような存在は、平凡な家庭に押し込められて生きるべきじゃないんだ。君は君の人生を、伝説の吟遊詩人として栄光に包まれて生きるのか? それとも、凡庸な父親で終わるのか?』
「伝説の吟遊詩人として……」
『ああ、そうさ。君は歴史に名を残すだけの天性の才能に恵まれている。平凡な父親として生きたいと願うならそれでもいい。だが、君の才能もこれまでの努力も、君が死ねばすべて無になって歴史の狭間に埋もれてしまうだろう。それでいいのか? もし君が勇気を奮い起こしさえすれば、君の名は君が死んでも永遠に輝き続けるんだ』
「僕の名は、僕が死んでも永遠に……」
いつしか、アルトーの中から迷いは消え去っていた。
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