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第3章 高校1年生 2学期
第48話 冬馬陣営選挙対策本部
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「現段階の票読みだと、冴子先輩が5、神楽先輩が3、オレが2ってところだ」
午前中の授業は全て終え、お昼休みになった。
冬馬はクラスのみんなに選挙への協力を呼びかけてきた。
私は最初さっさと逃げようとしたのだけれど、仁乃さんに捕まった。
どうしてこの子は私を放っておいてくれないのか。
「さすがは冴子様ですわね。お姉さまがいなければ、学園一の才媛と呼ばれるだけのことはありますわ」
だから、私は家柄だけのなんちゃってお嬢様だってば。
いい加減訂正するのも疲れてきたので黙っているけれど。
「で、どうするの? このままじゃ、あの馬鹿兄にも勝てないわよ?」
佳代さんが辛辣に言う。
というか、佳代さんは神楽様陣営じゃなくていいのだろうか。
疑問を口にすると――。
「あんなのが生徒会長だなんて冗談じゃないわ」
とのこと。
でも今朝の話からすると、内心は複雑なんだろうね。
「単純な知名度だけなら冬馬様も負けてないよね」
「問題はやっぱり経験の差かな」
実梨さんと幸さんが分析する。
そう。
冴子様は現副会長、神楽様は現会計。
どちらも生徒会経験者なのだ。
知名度では並べても、どうしたって経験を問われてしまう。
「大将だけの強みを何か探す必要があるな」
嬉一の言う通りである。
「国政選挙なんかやと、こういう時王道なんは『若さ』やけど――」
「ああ。たった1年の違いなんぞアピールにも何にもならん」
「せやろな」
ナキの案はあっさりと却下される。
「『能力』はどうですの?」
「そいつは負けない自信があるが、分かりやすいアピールじゃない。テストの成績は学年が違えば比較の対象にならないしな」
「むむむ」
仁乃さんの案も難しいようだ。
「冬馬様は嫌いそうですが『家柄』は?」
「オレが絶対嫌だし、むしろ嫌味になるだろ」
「ですか……」
実梨さんの案もボツ。
「『性格』とかは? ほら、誠実とかなんとかあるんじゃないの?」
「うーん。そういうのはどちらかというと、冴子先輩に軍配があがりそうだ」
「べ、別に? ちょっと言ってみただけよ!」
これもだめか。
「『公約』はどうかな?」
「もちろんそれは考えるが、今はもっとキャッチーな分かりやすい強みが欲しい」
「そっかー」
幸さんの案も今ひとつ、と。
「いっそ『金』は?」
「却下」
「分かってた……分かってたけどさ……」
さめざめと泣く真似をする嬉一。
「和泉は何かないか?」
「これだけみんなで考えても何も出ないのに、私に期待されても」
「いいから。こういうのは数撃ちゃ当たるでいいんだよ」
そういうものか。
「なら――『在籍期間』はどうでしょう?」
「『在籍期間』?」
一言では伝わらなかったようだ。
「2年生のお二方は今回当選しても1年間しか生徒会活動できないわけですよね?」
「ああ。3年生の2学期までだな」
「冬馬くんが今回当選すれば、その倍――2年間を生徒会活動に当てられるじゃないですか」
「……なるほど」
ニヤリ、と冬馬が肉食獣のような笑みを浮かべた。
「時間的に先輩たちの倍のことが出来る。そう打ち出すわけか」
「そういうことです」
あんまり大したアピールにはならないかもしれないけれど、私にはこんなことしか今のところ思いつかない。
「そいつは行けるかもしれない」
「うん。ええな」
「お姉さま、さすがですわ!」
あれ?
意外と好評?
「冬馬様の参謀が和泉様……」
「これってほぼ百合ケ丘最強コンビよね」
「王道カプもよし」
仲良し3人組は何を言っているんだ。
特に幸さん。
「これでいつねと委員長がいれば、本当に無敵の布陣だったよな……」
嬉一がぽつりと呟いたその一言に、クラスがしん、と静まり返る。
「あっ……。悪ぃ……。言っても仕方ねーことだよな。ははは……」
誤魔化すように笑う嬉一だったけれど、一度沈んだ空気はそう簡単に戻るものではない。
遥さん転校の件は、既にクラスの全員が知っているが、その理由についてはご両親の仕事の都合ということにされている。
転校後もしばらく例の脅迫状を出回らせることで、事件と転校の因果関係を曖昧にする工作もした。
それでも、聡い人ならなんとなく察するものである。
いつねさんの入院に関しても、重病だということは伏せられているけれど、彼女のように影響力の強い人間は、数日いないだけでクラスに影を落とすものだ。
「嬉一の言いたいことは分かるぜ。人間関係に強いいつねと事務処理に強い遥がいれば、マジで向かう所敵なしだった。今の状況は、将棋で言えば飛車角落ちに等しい」
敢えて積極的に話題にする冬馬。
この空気をどうするつもりだろう。
「だがな……。だからこそ、絶対に負けられねーんだよ」
ニヤリとまた肉食獣の笑み。
「あの2人抜きで勝って、2人にいい報告出来るようにしようじゃねーか。安心していいぜってな! そんで、いつでも帰ってこいよって言ってやろうぜ!」
「「「おー!」」」
クラスが湧いた。
(あ。これ、体育祭や文化祭の時のノリだわ)
毎回ながら冬馬の人心誘導は見事である。
対個人の応対ならいつねさんに一日の長があるが、対集団に関しては、冬馬の右に出るものはいない。
生まれながらのリーダー気質である。
もちろん、遥さんには戻ってこれない事情があるし、いつねさんだっていつ戻ってこれるかは分からない。
でも、そう言った現実は抜きにして、クラスの士気は間違いなく上がった。
「よし、じゃあ続けるぞ。キャッチコピーは和泉の案を元にしよう。具体的にはどんなのがいいだろうな……」
「そういうのは佳代さんが得意です」
「ええっ!? わ、私!?」
ポエマーならこういうのは得意なのでは、と振ってみたのだけれど、見当違いだっただろうか。
「ほう? 佳代、何かあるか?」
「えっと……そうね……うーん……」
冬馬に頼りにされたのが嬉しかったようで、とりあえず考えてくれるようだ。
「『出来ること、2倍』――とか?」
数秒考えた後にぽつりと言ったのはそんなキャッチコピーだった。
「決まりだな。それでいこう」
冬馬もお気に召したようでなにより。
「佳代さん、お見事ですわ」
「佳代ちゃん凄い!」
「さすがポエ――もが」
「幸は黙ろうか」
「いや、でも確かにすげーって」
分かりやすくてインパクトがある。
コピーとしては上出来だろう。
「悪いがお前の兄貴におもいっきりかましてやるぜ」
「存分に。一度、痛い目見ればいいのよ、兄さんは」
不敵に笑い合う冬馬と佳代さん。
「選挙公約の詰めはオレ、和泉、ナキ中心でやる。いいな?」
「ええで」
「嫌です」
「異論なし、と。次はポスターとか掲示物系だな」
おい。
人の話を聞け。
「さっきのキレを思う存分に見せてくれ。佳代、頼む」
「ポスターの配色とかデザインは幸も得意よ」
「サポートにみのりんも欲しいかな」
「え? ああ、うん」
「よし。3人を中心に頼む」
次々に役割が割り振られていく。
「次は渉外だが――嬉一、やれるか?」
「俺かよ! 無理だって! 俺、コネなんてねーもん」
「大丈夫だ。どうせ今の2年、3年とのコネなんて誰もそんなに持っちゃいない。まずは1年の票を固めておきたい。それならそんなに無茶ぶりじゃないだろ?」
「タメならまー……でもなぁ……」
と、渋る嬉一に冬馬はすっと近寄ると――。
(友達が多い女子を沢山つけてやるから)
「やってやるぜ!」
何事か耳打ちして、嬉一が突然奮起した。
「よし。大体の方向性はこれで決まった訳だが、まだまだやることはたくさんある。みんな、協力頼むぞ」
「「「おー!」」」
すっかり冬馬のノリに染まっている我がクラスを見て、私は今日4回目の――しかし、安堵のため息をつくのだった。
「えっと……。私忘れられていませんこと?」
午前中の授業は全て終え、お昼休みになった。
冬馬はクラスのみんなに選挙への協力を呼びかけてきた。
私は最初さっさと逃げようとしたのだけれど、仁乃さんに捕まった。
どうしてこの子は私を放っておいてくれないのか。
「さすがは冴子様ですわね。お姉さまがいなければ、学園一の才媛と呼ばれるだけのことはありますわ」
だから、私は家柄だけのなんちゃってお嬢様だってば。
いい加減訂正するのも疲れてきたので黙っているけれど。
「で、どうするの? このままじゃ、あの馬鹿兄にも勝てないわよ?」
佳代さんが辛辣に言う。
というか、佳代さんは神楽様陣営じゃなくていいのだろうか。
疑問を口にすると――。
「あんなのが生徒会長だなんて冗談じゃないわ」
とのこと。
でも今朝の話からすると、内心は複雑なんだろうね。
「単純な知名度だけなら冬馬様も負けてないよね」
「問題はやっぱり経験の差かな」
実梨さんと幸さんが分析する。
そう。
冴子様は現副会長、神楽様は現会計。
どちらも生徒会経験者なのだ。
知名度では並べても、どうしたって経験を問われてしまう。
「大将だけの強みを何か探す必要があるな」
嬉一の言う通りである。
「国政選挙なんかやと、こういう時王道なんは『若さ』やけど――」
「ああ。たった1年の違いなんぞアピールにも何にもならん」
「せやろな」
ナキの案はあっさりと却下される。
「『能力』はどうですの?」
「そいつは負けない自信があるが、分かりやすいアピールじゃない。テストの成績は学年が違えば比較の対象にならないしな」
「むむむ」
仁乃さんの案も難しいようだ。
「冬馬様は嫌いそうですが『家柄』は?」
「オレが絶対嫌だし、むしろ嫌味になるだろ」
「ですか……」
実梨さんの案もボツ。
「『性格』とかは? ほら、誠実とかなんとかあるんじゃないの?」
「うーん。そういうのはどちらかというと、冴子先輩に軍配があがりそうだ」
「べ、別に? ちょっと言ってみただけよ!」
これもだめか。
「『公約』はどうかな?」
「もちろんそれは考えるが、今はもっとキャッチーな分かりやすい強みが欲しい」
「そっかー」
幸さんの案も今ひとつ、と。
「いっそ『金』は?」
「却下」
「分かってた……分かってたけどさ……」
さめざめと泣く真似をする嬉一。
「和泉は何かないか?」
「これだけみんなで考えても何も出ないのに、私に期待されても」
「いいから。こういうのは数撃ちゃ当たるでいいんだよ」
そういうものか。
「なら――『在籍期間』はどうでしょう?」
「『在籍期間』?」
一言では伝わらなかったようだ。
「2年生のお二方は今回当選しても1年間しか生徒会活動できないわけですよね?」
「ああ。3年生の2学期までだな」
「冬馬くんが今回当選すれば、その倍――2年間を生徒会活動に当てられるじゃないですか」
「……なるほど」
ニヤリ、と冬馬が肉食獣のような笑みを浮かべた。
「時間的に先輩たちの倍のことが出来る。そう打ち出すわけか」
「そういうことです」
あんまり大したアピールにはならないかもしれないけれど、私にはこんなことしか今のところ思いつかない。
「そいつは行けるかもしれない」
「うん。ええな」
「お姉さま、さすがですわ!」
あれ?
意外と好評?
「冬馬様の参謀が和泉様……」
「これってほぼ百合ケ丘最強コンビよね」
「王道カプもよし」
仲良し3人組は何を言っているんだ。
特に幸さん。
「これでいつねと委員長がいれば、本当に無敵の布陣だったよな……」
嬉一がぽつりと呟いたその一言に、クラスがしん、と静まり返る。
「あっ……。悪ぃ……。言っても仕方ねーことだよな。ははは……」
誤魔化すように笑う嬉一だったけれど、一度沈んだ空気はそう簡単に戻るものではない。
遥さん転校の件は、既にクラスの全員が知っているが、その理由についてはご両親の仕事の都合ということにされている。
転校後もしばらく例の脅迫状を出回らせることで、事件と転校の因果関係を曖昧にする工作もした。
それでも、聡い人ならなんとなく察するものである。
いつねさんの入院に関しても、重病だということは伏せられているけれど、彼女のように影響力の強い人間は、数日いないだけでクラスに影を落とすものだ。
「嬉一の言いたいことは分かるぜ。人間関係に強いいつねと事務処理に強い遥がいれば、マジで向かう所敵なしだった。今の状況は、将棋で言えば飛車角落ちに等しい」
敢えて積極的に話題にする冬馬。
この空気をどうするつもりだろう。
「だがな……。だからこそ、絶対に負けられねーんだよ」
ニヤリとまた肉食獣の笑み。
「あの2人抜きで勝って、2人にいい報告出来るようにしようじゃねーか。安心していいぜってな! そんで、いつでも帰ってこいよって言ってやろうぜ!」
「「「おー!」」」
クラスが湧いた。
(あ。これ、体育祭や文化祭の時のノリだわ)
毎回ながら冬馬の人心誘導は見事である。
対個人の応対ならいつねさんに一日の長があるが、対集団に関しては、冬馬の右に出るものはいない。
生まれながらのリーダー気質である。
もちろん、遥さんには戻ってこれない事情があるし、いつねさんだっていつ戻ってこれるかは分からない。
でも、そう言った現実は抜きにして、クラスの士気は間違いなく上がった。
「よし、じゃあ続けるぞ。キャッチコピーは和泉の案を元にしよう。具体的にはどんなのがいいだろうな……」
「そういうのは佳代さんが得意です」
「ええっ!? わ、私!?」
ポエマーならこういうのは得意なのでは、と振ってみたのだけれど、見当違いだっただろうか。
「ほう? 佳代、何かあるか?」
「えっと……そうね……うーん……」
冬馬に頼りにされたのが嬉しかったようで、とりあえず考えてくれるようだ。
「『出来ること、2倍』――とか?」
数秒考えた後にぽつりと言ったのはそんなキャッチコピーだった。
「決まりだな。それでいこう」
冬馬もお気に召したようでなにより。
「佳代さん、お見事ですわ」
「佳代ちゃん凄い!」
「さすがポエ――もが」
「幸は黙ろうか」
「いや、でも確かにすげーって」
分かりやすくてインパクトがある。
コピーとしては上出来だろう。
「悪いがお前の兄貴におもいっきりかましてやるぜ」
「存分に。一度、痛い目見ればいいのよ、兄さんは」
不敵に笑い合う冬馬と佳代さん。
「選挙公約の詰めはオレ、和泉、ナキ中心でやる。いいな?」
「ええで」
「嫌です」
「異論なし、と。次はポスターとか掲示物系だな」
おい。
人の話を聞け。
「さっきのキレを思う存分に見せてくれ。佳代、頼む」
「ポスターの配色とかデザインは幸も得意よ」
「サポートにみのりんも欲しいかな」
「え? ああ、うん」
「よし。3人を中心に頼む」
次々に役割が割り振られていく。
「次は渉外だが――嬉一、やれるか?」
「俺かよ! 無理だって! 俺、コネなんてねーもん」
「大丈夫だ。どうせ今の2年、3年とのコネなんて誰もそんなに持っちゃいない。まずは1年の票を固めておきたい。それならそんなに無茶ぶりじゃないだろ?」
「タメならまー……でもなぁ……」
と、渋る嬉一に冬馬はすっと近寄ると――。
(友達が多い女子を沢山つけてやるから)
「やってやるぜ!」
何事か耳打ちして、嬉一が突然奮起した。
「よし。大体の方向性はこれで決まった訳だが、まだまだやることはたくさんある。みんな、協力頼むぞ」
「「「おー!」」」
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