学園テンセイ劇場 -目が覚めたら悪役令嬢の双子の姉にTS転生してた件について-

名無しさん家の権兵衛さん

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破章之前 こうして私のお嬢様生活は進んでいく

21.****の誕生日

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 私がこの世界に来てから明後日で一年の時が経つ。
 ちょうどいい節目だと思ってこれまでを振り返ってみれば、大分変ったと私自身、しみじみと感じてしまう。
 そもそも、男だったときの名残が、今はもう残っているかどうかすら怪しい。ふとした動作の中にお嬢様然とした仕草が加わってしまうようにもなったし、建物内での移動も大抵は走らないようになってしまった。

 変わろうと思えば、変われるものなのだなぁ、と感じながら、しかし私は今後のことで、一つ疑問を抱えていた。

 それは、今私の手元にある一通の便せんが絡んでいるのだけど――この便箋は、実はパーティーへの招待状なのである。
 これが原因で、ここ最近私はため息が絶えなくなってきている。

 これがただのパーティーであれば、まだ年端もいかない子供だから、ということで不参加も許してもらえたのかもしれない。あるいは面子もあるからと強制参加の可能性もあるかもしれないけど。
 でも、今回届いた招待状。その招待状に描かれているパーティーだけは、どうしても参加しないといけない事情ができてしまっている。
 それは、このパーティーの主催者が、藤崎家だということに起因する。
 数回の勉強会を通して、藤崎家のご令嬢に当たる藤崎涼花ちゃんとちょっとではあるが仲良くなった、というのもあるが、その涼花ちゃんから招待状が届いているのも大きな理由である。
 招待状には、『ふじさきけ ウインターパーティーかいさいのおしらせ』とひらがなばかりのつたない書面ではあったが、確かに私を名指しして招待状が書かれている。
 藤崎家のご令嬢から直接名指しで送られてきたとあれば、まっとうな理由がなければ参加しないほうが失礼にあたるだろう。これで涼花ちゃんの機嫌を損ねた結果藤崎家の心証も悪くしたとあれば、私の行動が西園寺の体面を悪くしたと取られても仕方がない。
 このパーティーには、直接招待状が届いてしまった以上、参加しないという選択肢がないのである。

 正直言ってしまえば、とても不安である。
 私にとってパーティーは、私自身が変われたと思っているとはいえ未知数の領域だ。参加するにはとても不安がある。

 ――西園寺家の娘として恥のないように、と必死になって替わろうとしてきたけど……。果たして、『お嬢様ごっこ』をしている私が、本物の『ご令嬢』に見てもらえるのだろうか。

 その思いは、とても大きいもので、私に二の足すら踏ませまいと抑え込んでいるような気さえしている。それでも、参加しようか、どうしようかと考えられているのは、これを乗り越えることが私にとって必要なのではないか、という思いもあるからだ。

 ――参加しないと、いけないよね……。

 その結果どうなろうとも、これは通らないといけない通過点。覚悟を決めるしか、ないだろう。
 そう思いながら、気持ちの整理をし続けてきていた。

 ただ、周囲の目というのはこういう時目敏いもので、毎日、誰かしらに『何かあった?』と聞かれる。
 素直に言うことができなくて、結局『なんでもない』で誤魔化しているんだろうけど……多分、なにかあるとバレているんだろうなぁ。共感能力が高い様に見受けられる皐月など、私の詳細な心境まで感じ取っていそうである。

「……お嬢様」
「…………えっ!? あ、菅野さん……? なんでしょう?」
「あぁ、申し訳ありません。驚かしてしまったようですね……。なにか思いに耽っているようでしたのでお声をかけづらかったのですが……」
「いえ……こちらこそごめんなさい……」
「お気になさらずとも大丈夫です。ここ最近、どこか思い詰めているように感じてはいますしね」

 そうは言っても深くは聞いてこないところは、使用人ということで主から何か言われない限り踏み入らないという、声なき主張なのだろう。

「お嬢様。旦那様、奥様お二方より奥様の部屋へ来るようにと言伝を預かっておりますが、いかがいたしますか?」
「お父様とお母様がそろって? なにかしら……」
「その……広く知られるわけにはいかないのですが……その、お嬢様が抱えている例の件について、そろそろ節目を迎える頃だろうからちょっとしたセレモニーを考えている、と聞かされております」
「それって……」

 つまり、それは私の――西園寺瑞樹としてのではなく、『私』の誕生日を祝おうとしてくれている、ということ……?
 でも、どうして急に…………。

「どういたしましょう。絶対ではないので、来たくなければそれも構わない、とのことですが……」
「…………いえ。行きます。準備とかは、いらないのですか」
「はい。着の身着のままで来ていただければよいとのことでした」
「そう……では、参りましょう」
「かしこまりました」

 なぜ急にそうしようと思ったのかは不明だけど、これで断ると後がどうなるかわからないし。
 セレモニー、というのにもちょっとだけ興味があるから、参加することにした。
 菅野さんに連れられて母さんの部屋へ移動する。
 部屋の中には、父さんと母さん……その二人だけしか、いなかった。
 いつも母さんと一緒にいる、母さん付きの使用人は今は外しているようだ……。なるほど、私が抱えている『例の件』についてというのは本当らしい。疑うわけではないけど、今さらという思いが強かったので、ついそう思ってしまう。
 母さんに進められて椅子に座ると、早速用件を切り出してきた。

「よく来てくれたわね。急に呼びだしてごめんなさい」
「いえ……部屋にいても、本を読むくらいしか今はやることがありませんでしたから大丈夫です」

 まぁ、実際にパーティーに対する不安を紛らわせるために読書に耽ったりもしていたので嘘ではない、はずだ。
 父さん達との会話は、最初は他愛もない話から始まったが、ある程度話をすると、頃合いを見計らったかのように父さんが話題を切り替えてきた。

「……それにしても…………。瑞樹も、だいぶ変わったな……」
「そう、ですか……?」
「あぁ。……最初、と言うべきなのか……去年の、ちょうどこの時期くらいからか……。麗奈に――お母さんに、お前の様子がおかしい、と言われて、一緒に密かに様子を見て。そうしたら、人が変わってしまったかのように、年相応に元気を振りまいていた瑞樹が急におとなしくなってしまって……でも、時々奇行に走るようになってしまって……。お母さんから聞かされているかもしれないけど、一時期俺はとんでもないことをしそうになっていたんだ……」
「それ、は……」

 ちょっと言葉に詰まる。でも、きちんと覚えている。
 母さんが父さんをも仕留めていなかったら。母さんからの提案を、拒絶していたら。私はこの家から追い出されていた。そんな、IFの現実。
 いま改めてそれを聞かされて、それはその時の選択次第では今の『この時』がIFになっていたという証明。

「でも……俺が、間違っていたんだよな。どんな風になっても、瑞樹は瑞樹なのにな……。俺、すっかり間違っていたよ」
「…………、」
「母さんと一緒に頑張ってるお前を見て、最初は必死になってお前を見定めようとしていた。でも……ひたむきに、この家に――西園寺家に馴染もうとしているお前を見て、思ったんだよ。本当に、そのままでいいのかって……」
「お父、さま……」

 ただ昔語りを続ける父さんを、私は茫然と眺めることしかできないでいた。
 私にはうかがい知れなかった、父さんなりの葛藤が、そこにはあったんだ、と初めて知ることができたから。

「気づいたら、私もお前と母さんと、お前の周りの子たちで作られた輪の中に、入り込んでた。それが……とても心地よくて、それでこういうのも悪くはないな、って思ったな……。それをいうと庶民派気取って、何を知った風な、って話になるけど」
「そう、ですか……」
「認めないと、いけないよな。きちんとした言葉で。……お前は、西園寺瑞樹だって。名前もわからない、誰かもわからないような奴なんかじゃないって。急に愛娘の一人に宿ったその人も含めて、そのすべてがお前を作っているんだって」
「………………、」
「大丈夫だ。誰に何と言われようと。お前がどこの学校に通っていようとも。『西園寺瑞樹』に、間違いはない。誰にも、否定なんて許してたまるものか。お前は、正真正銘……俺と、麗奈の娘だ!」
「う……お、とう、さま…………っ」

 一つ、一つ。言葉に重みを加えていくように投げかけられる言葉に、私はどんどん感情を揺さぶられて。
 私だけじゃなく、父さん自身にも投げかけられているような、そんな言葉に、私は嬉しくなって、涙も堪えられなくなってきて。
 最後には、視界が歪み、涙が止め止めもなく流れ出してしまった。

 ――認められた。

 ついに、私は一番認めてもらいたかった人に、認めてもらえたんだと。そう理解した瞬間、私の感情は堰を切ったように、声となって口からあふれ出た。

「う、ぁ……、わた、し……ずっと、あなたに、認めて、もらいたくて……。ずっと、がんばって、きました……。正直、身についているかどうかなんて、わからなくて……」
「わかる。わかるさ……陰からだけど、ずっと、見守ってきた。お前はとても努力した……!」
「わたし、あなたの、娘でいて、いいですか? ほんとうに、大丈夫、ですか……?」
「大丈夫に決まってるだろう……! もうすでに、俺の中ではお前は『瑞樹』なんだから! お前以外に『瑞樹』はあり得ないんだから!」
「うぅ……ありがとう、ございます……ありがどう、ございまず……っ……、うああぁぁぁ……」

 爆発した、歓喜に沸く心は、決して留まることもなく。
 私は、知らないうちに真横に寄ってきていた父さんに抱き着いて、盛大に――泣き叫んだ。

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