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崖へ③
しおりを挟む護衛についていくと、崖の上で族長が待っていた。
装いを新たにし、先程の服装より断然動きやすそうだ。
「待っていたわよ!さあ、力比べについて教えてあげるわ!」
この力比べとは、鳥人の族長を決める為に開かれる競争である。
その為、族長とは力比べにおいて最も優れた人物がなると言う事だ。
その競技は三種類あり、いずれも時間が鍵となる。
三種類の合計時間数が少ない方が勝者だ。
妨害をしたら強制失格となるが、それ以外なら何をしてもいい。
「因みに私、この力比べ負けた事がないの。辞めるなら今のうちよ」
見下した目つきで、鼻で笑う。
ギャラリーもこんなにいたのかというぐらいに賑わっている。
「要らん気遣いだ。さっさと始めようか」
前を見据え、チラリとも見ないカシムに対して苛立ちを隠しきれない。
「ふん、後で吠え面かいても知らないんだから!審判、早く来なさい」
族長に呼ばれ、おもむろに審判役の鳥人が前に出てきた。
手には旗、口には笛を咥えている。
「それでは第一回戦を始めます。ルールはそこにある林を突っ切り、抜けたところにある旗を持って、このラインまで戻ってきてください」
指をさした林は、木々がグネグネと曲がっており、枝葉も茂っていて視界が悪そうだ。
道筋を読み違えたらすぐさま遮られてしまうだろう。
「位置について………よーい……!」
ピィィィィィィイイイイイ!!!!
思い切り吹かれた笛の音が聴こえた瞬間、両者とも飛び出す。
族長は翼を駆使し、グングンとスピードを上げていく。
一方カシムは地面を蹴りつつ、身体強化と硬化魔法を付与した。
これはリリアムの案である。
古城で読んだ本により、この競争については知っていたのだ。
相手はこの競争をやり慣れている為、最短ルートでいくだろう。
それならば、逆にそんなの気にしなければいい。
つまり…………。
ドシーーーン!!
バキバキバキ!!!
メリメリメリ!!!!
「いっけぇぇー!!カシム!!突っきれぇぇぇー!!!!」
木々を次々と薙ぎ倒して進んでいく。
体当たりしているのに減速する気配はなく、スピードが増していっている。
更に風魔法で追い風をつくり、それにのった。
「はぁぁぁぁあああ!!!!何あいつ!!体当たり…!?ここの木、めちゃくちゃ硬いのにー?!」
流石の族長も目玉が飛び出るくらい驚愕した。
カシムは知らなかったのだが、鳥人達の間では、ここの木は硬過ぎて倒せないで有名なのである。
風魔法や刃物で使用しても、ちょっとの傷しかつかない。
だからこそ、テクニックで切り抜けるしか勝ち筋がなかったのだ。
その大前提が大きく崩された。
そんな事とはつゆ知らず、カシムが移動する度に木は倒されていく。
それが族長の行手を阻む。
最短ルートを選んでいる筈なのに、突然木が倒れてくる為、思う様に前に進めない。
見た感じ妨害をしているわけではないので悔しいが文句の言いようもないのだ。
ギリっと唇を噛む。
それがリリアムの作戦であった。
何かいちゃもんをつけられたら、避けるのが大変だから、体当たりをして進んでいただけだとでも言えばいい。
あくまで妨害はしていないのだから。
勿論、事前に倒せる事は確認済みである。
族長が苦戦する中、カシムはあっという間に旗を取り、指定されたラインまで戻ってきた。
「はぁ、まずは一勝……だな」
少女が飛び上がって喜んでいるのが見えた。
それから少し遅れて族長も戻ってくる。
息を切らし、髪についた葉っぱを払いながらカシムを睨んだ。
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