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二章
お見合い
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手に持ったコーヒーカップが危うく揺れる。
「え? 杉野のお兄さん?」
「はい、誠二朗は弟です」
目を見開く藤ヶ谷に対し、テーブルの向こうに座る美形は優雅に微笑んだ。
シャンデリアに照らされた煌びやかな雰囲気の店内で、1人掛けのソファに座る姿はそれだけで絵になる。
緩やかに開いている脚はソファからだいぶ余っていて、その長さが伺えた。
流石は、アルファだ。
藤ヶ谷は今、都内にあるホテル内のカフェで見合いをしている。
見合いといっても親は関係ない。
結婚相談所に登録すると、相性の良さそうな相手を紹介してくれる。
相談所の担当者が予約してくれたカフェでその人と会い、交流するというシステムだ。
このホテルのカフェには、他にも藤ヶ谷たちのような自己紹介から始めていそうな2人組が何組かいた。
藤ヶ谷はコーヒーカップに口をつけて、心を落ち着ける。
慣れ親しんだ香ばしさよりも上品に感じる香りと共に、静かに息を吐いた。
「お名前を見ても気が付かなかったです」
「よくある名前ですしね」
見合い相手は杉野優一朗。
大手の製薬会社で開発に携わっているという。
研究者と聞いて想像するような野暮ったい雰囲気は全くない、スマートな第一印象だった。
彼が「誠二朗」と呼んだのは、藤ヶ谷の同僚の杉野の名前だ。
(優一朗と誠二朗か)
言われてみれば、とても兄弟らしい名前である。
杉野からは兄がいると聞いたこともなかったし、まさか見合いで出会うことになるとは思ってもなかったため全く気が付かなかった。
改めて、まじまじとアルファらしく整った容姿を観察する。
「顔……似てますね」
「よく言われます」
意識してみれば声もよく似ていた。
細めた目元にある小さな黒子が、藤ヶ谷の知る杉野と一番違うところだろう。
思わずその特徴的な泣き黒子のある右目の方ばかりに視線がいってしまう。
優一朗と出会った瞬間から、どこかで会ったことがあるような親しみを感じた。
ほぼ毎日一緒にいる杉野と似ているのだから、そう思っても不自然ではなかったのだと納得する。
(杉野がなんかおかしかったのは、俺の見合い相手がお兄さんだったからか)
送別会の日は部長の服を拭いたり謝ったりとバタバタしていたが、どこかずっと上の空だった。
次の日からの仕事は、いつも通りつつがなく優秀な杉野だったのだが。
いつも一緒にいる藤ヶ谷からすると、何か違和感があった。
目が合わなかったり、あんなに食いついた見合いの話を振るとスルーしたりと、いつもの杉野では考えられない状態だった。
(もしかしてブラコンなのかなぁ……)
明後日の方向の結論を藤ヶ谷が出しているとは知らず、優一朗は顎に手を添えて首を傾げた。
「あいつ、藤ヶ谷さんにはなにも言わなかったんですね。俺には『会社の先輩だから失礼がないようにしろ』って、わざわざ部屋まで言いにきたのに」
藤ヶ谷はまた驚くことになった。
まさか、自分が知らないところでも過保護を発揮していたとは。
でもそれを知ると、胸が暖かくなって口元が緩む。
「意外と可愛いとこあるな」
「俺もびっくりです」
誰に対しても可愛げないやつだと思ってたのに、と肩を震わせる優一朗と共に一緒に笑う。
杉野の家での様子が想像できて、楽しくなった。
共通の話題があることで緊張がほぐれ、無難な質問も交えつつ和やかに見合いの時間が過ぎていく。
しかしその途中、笑顔の優一朗が立ち上がる。
「すみません、藤ヶ谷さん。少し良いですか?」
「え?」
まだ時間はあるのにと思っていると、優一朗は藤ヶ谷の後方の席の方へと大股で歩いて行く。
そして、1つの席の前で立ち止まった。
「お前ら一体そこで何をやってるんだ」
藤ヶ谷と話している時よりワントーン低い声が静かに響く。
優一朗の行方を目線で追っていた藤ヶ谷は、声を上げそうになった口を抑えた。
そこには仏頂面の杉野と、もう1人。
バツの悪そうな表情をした男性が座っていた。
「え? 杉野のお兄さん?」
「はい、誠二朗は弟です」
目を見開く藤ヶ谷に対し、テーブルの向こうに座る美形は優雅に微笑んだ。
シャンデリアに照らされた煌びやかな雰囲気の店内で、1人掛けのソファに座る姿はそれだけで絵になる。
緩やかに開いている脚はソファからだいぶ余っていて、その長さが伺えた。
流石は、アルファだ。
藤ヶ谷は今、都内にあるホテル内のカフェで見合いをしている。
見合いといっても親は関係ない。
結婚相談所に登録すると、相性の良さそうな相手を紹介してくれる。
相談所の担当者が予約してくれたカフェでその人と会い、交流するというシステムだ。
このホテルのカフェには、他にも藤ヶ谷たちのような自己紹介から始めていそうな2人組が何組かいた。
藤ヶ谷はコーヒーカップに口をつけて、心を落ち着ける。
慣れ親しんだ香ばしさよりも上品に感じる香りと共に、静かに息を吐いた。
「お名前を見ても気が付かなかったです」
「よくある名前ですしね」
見合い相手は杉野優一朗。
大手の製薬会社で開発に携わっているという。
研究者と聞いて想像するような野暮ったい雰囲気は全くない、スマートな第一印象だった。
彼が「誠二朗」と呼んだのは、藤ヶ谷の同僚の杉野の名前だ。
(優一朗と誠二朗か)
言われてみれば、とても兄弟らしい名前である。
杉野からは兄がいると聞いたこともなかったし、まさか見合いで出会うことになるとは思ってもなかったため全く気が付かなかった。
改めて、まじまじとアルファらしく整った容姿を観察する。
「顔……似てますね」
「よく言われます」
意識してみれば声もよく似ていた。
細めた目元にある小さな黒子が、藤ヶ谷の知る杉野と一番違うところだろう。
思わずその特徴的な泣き黒子のある右目の方ばかりに視線がいってしまう。
優一朗と出会った瞬間から、どこかで会ったことがあるような親しみを感じた。
ほぼ毎日一緒にいる杉野と似ているのだから、そう思っても不自然ではなかったのだと納得する。
(杉野がなんかおかしかったのは、俺の見合い相手がお兄さんだったからか)
送別会の日は部長の服を拭いたり謝ったりとバタバタしていたが、どこかずっと上の空だった。
次の日からの仕事は、いつも通りつつがなく優秀な杉野だったのだが。
いつも一緒にいる藤ヶ谷からすると、何か違和感があった。
目が合わなかったり、あんなに食いついた見合いの話を振るとスルーしたりと、いつもの杉野では考えられない状態だった。
(もしかしてブラコンなのかなぁ……)
明後日の方向の結論を藤ヶ谷が出しているとは知らず、優一朗は顎に手を添えて首を傾げた。
「あいつ、藤ヶ谷さんにはなにも言わなかったんですね。俺には『会社の先輩だから失礼がないようにしろ』って、わざわざ部屋まで言いにきたのに」
藤ヶ谷はまた驚くことになった。
まさか、自分が知らないところでも過保護を発揮していたとは。
でもそれを知ると、胸が暖かくなって口元が緩む。
「意外と可愛いとこあるな」
「俺もびっくりです」
誰に対しても可愛げないやつだと思ってたのに、と肩を震わせる優一朗と共に一緒に笑う。
杉野の家での様子が想像できて、楽しくなった。
共通の話題があることで緊張がほぐれ、無難な質問も交えつつ和やかに見合いの時間が過ぎていく。
しかしその途中、笑顔の優一朗が立ち上がる。
「すみません、藤ヶ谷さん。少し良いですか?」
「え?」
まだ時間はあるのにと思っていると、優一朗は藤ヶ谷の後方の席の方へと大股で歩いて行く。
そして、1つの席の前で立ち止まった。
「お前ら一体そこで何をやってるんだ」
藤ヶ谷と話している時よりワントーン低い声が静かに響く。
優一朗の行方を目線で追っていた藤ヶ谷は、声を上げそうになった口を抑えた。
そこには仏頂面の杉野と、もう1人。
バツの悪そうな表情をした男性が座っていた。
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