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二章
ストーカーか?(杉野目線)
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時は少し遡る。
「……いた」
ホテルの周りを囲む人工の水場の向こう側に、目的の人物たちを発見した杉野は立ち止まる。
視線の先にあるのは一階の窓際席。
笑顔だが緊張した面持ちの藤ヶ谷と、余裕のある表情の優一朗が座っていた。
噴水が丁度よい角度にあり、向こうからは杉野の姿は見えにくいはずだ。
(見てたからどうなるわけでもねぇけど気になる……ん?)
ふと、杉野は視界の端に違和感を覚える。
杉野からは少し離れた場所に飾られた近代的なオブジェの影に人が隠れていた。
黒いキャップを目深に被り、サングラスをかけている絵に描いたような不審者だ。
その顔は、明らかに杉野が見ているのと同じ2人の方向を向いている。
藤ヶ谷目当ての変質者かもしれないと過った杉野の行動は早かった。
「何してるんだ」
「びゃっ!」
背後に回って声を掛ければ、思ったより小さな体が大袈裟にビクッと跳ねた。
相手に強い威圧感を与えるよう腕を組んで仁王立ちで見下ろし、野生の獣が唸るような低い声をだす。
「ストーカーか?」
「ちゃ、ちゃうで怪しい者と……あれ?」
慌てた様子で立ち上がって杉野の姿を確認した男は首を傾げる。
男は身体つきから成人していると判断できるが、身長は低く体も細い。
中性的な顔の割にしっかりした身体つきの藤ヶ谷ならば、もし襲われても返り討ちにできそうだった。
それでも敵意を隠さず、目だけで「なんだ」と先を促す。
男はサングラスをしていても怯んでいると分かる様子で、ブンブンと首を振った。
「なんでもないです! ちょっと知り合いに似とって! 知り合いっちゅうか好きな人っちゅうかあそこにおる人っちゅうか!」
「あそこ……」
そこまで聞いてないという内容まで関西訛りのイントネーションでペラペラ喋る男の指先へと視線をやる。
その先には何かに驚いた表情の藤ヶ谷と微笑む優一朗が座っていた。
どう見ても藤ヶ谷と杉野は似てない。
つまり。
「兄さんのストーカーか。とりあえず警察に」
「兄さん!? えっ杉野さんの弟さんなん!?」
「ストーカーのくせに知らないのか」
嬉しそうな声をあげる男を見て、要らない情報を与えてしまったと杉野は後悔した。
ストーカーというものは、対象になる人物の個人情報などは把握しているものだという認識を改める。
興奮した様子の男はサングラスを外して杉野を見上げる。
想像していたより人の良さそうな顔をしている、と思った瞬間に勢いよく頭を下げてきた。
「あの、俺、皐っていいます! 杉野さんの同僚です!」
わざわざ身元を教えるとは、礼儀正しいストーカーだ。
逆に不審に思い、杉野は眉を顰めた。
「それがなんでストーカーしてるんだ」
「それはその、すんません」
小柄な体をさらに小さくして、皐と名乗った男は項垂れた。
手に持ったサングラスの弦を落ち着かなげに開いたり閉じたりしながら半泣きで喋り出す。
「言った通り、俺、杉野さんが好きで……今日、お見合いするて聞いたからどーしても気になってもうてぇえ」
顔を覆って大袈裟に蹲ってしまう。
杉野はテンションについていけずにただ見下ろすしかなかった。
そしてそう時間を掛けずに皐は顔を上げ、再び見合い中の2人に目をやり溜息を吐いた。
「でも来んかったら良かった。相手のオメガさん綺麗すぎや……めっちゃお似合いやん」
「そうだな」
杉野は遠慮なく頷いた。
藤ヶ谷の美貌は否定しようがない。
腹立たしくはあるが、「お似合い」というのもその通りだった。
それに加えて目の前にいる皐は、杉野のアルファとしての嗅覚がベータだと告げている。
兄の優一朗の恋愛対象は、女性か、男性ならばオメガのみだ。
傷が浅いうちに諦めた方がいいと思った。
だが。
「帰ります」
そう言ってしょんぼり肩を落として立ち上がる姿があまりにも不憫で。
「待て」
ついつい呼び止めてしまった。
サングラスを掛け直した皐は、赤い鼻をした顔を杉野に向ける。
慰めの言葉を探すも上手く見つからず、杉野はホテルのカフェを指差した。
「コーヒー、一杯奢る」
そう言うわけで、2人は藤ヶ谷達が見合い中の店に入ったのだ。
上手く席が空いていたため、2人の会話が聞こえる位置に座ることに成功する。
他愛もない会話をしているな、とのんびり聞き耳を立てていたのだが。
「お前ら一体そこで何やってるんだ」
優一朗に気づかれてしまったというわけだ。
「……いた」
ホテルの周りを囲む人工の水場の向こう側に、目的の人物たちを発見した杉野は立ち止まる。
視線の先にあるのは一階の窓際席。
笑顔だが緊張した面持ちの藤ヶ谷と、余裕のある表情の優一朗が座っていた。
噴水が丁度よい角度にあり、向こうからは杉野の姿は見えにくいはずだ。
(見てたからどうなるわけでもねぇけど気になる……ん?)
ふと、杉野は視界の端に違和感を覚える。
杉野からは少し離れた場所に飾られた近代的なオブジェの影に人が隠れていた。
黒いキャップを目深に被り、サングラスをかけている絵に描いたような不審者だ。
その顔は、明らかに杉野が見ているのと同じ2人の方向を向いている。
藤ヶ谷目当ての変質者かもしれないと過った杉野の行動は早かった。
「何してるんだ」
「びゃっ!」
背後に回って声を掛ければ、思ったより小さな体が大袈裟にビクッと跳ねた。
相手に強い威圧感を与えるよう腕を組んで仁王立ちで見下ろし、野生の獣が唸るような低い声をだす。
「ストーカーか?」
「ちゃ、ちゃうで怪しい者と……あれ?」
慌てた様子で立ち上がって杉野の姿を確認した男は首を傾げる。
男は身体つきから成人していると判断できるが、身長は低く体も細い。
中性的な顔の割にしっかりした身体つきの藤ヶ谷ならば、もし襲われても返り討ちにできそうだった。
それでも敵意を隠さず、目だけで「なんだ」と先を促す。
男はサングラスをしていても怯んでいると分かる様子で、ブンブンと首を振った。
「なんでもないです! ちょっと知り合いに似とって! 知り合いっちゅうか好きな人っちゅうかあそこにおる人っちゅうか!」
「あそこ……」
そこまで聞いてないという内容まで関西訛りのイントネーションでペラペラ喋る男の指先へと視線をやる。
その先には何かに驚いた表情の藤ヶ谷と微笑む優一朗が座っていた。
どう見ても藤ヶ谷と杉野は似てない。
つまり。
「兄さんのストーカーか。とりあえず警察に」
「兄さん!? えっ杉野さんの弟さんなん!?」
「ストーカーのくせに知らないのか」
嬉しそうな声をあげる男を見て、要らない情報を与えてしまったと杉野は後悔した。
ストーカーというものは、対象になる人物の個人情報などは把握しているものだという認識を改める。
興奮した様子の男はサングラスを外して杉野を見上げる。
想像していたより人の良さそうな顔をしている、と思った瞬間に勢いよく頭を下げてきた。
「あの、俺、皐っていいます! 杉野さんの同僚です!」
わざわざ身元を教えるとは、礼儀正しいストーカーだ。
逆に不審に思い、杉野は眉を顰めた。
「それがなんでストーカーしてるんだ」
「それはその、すんません」
小柄な体をさらに小さくして、皐と名乗った男は項垂れた。
手に持ったサングラスの弦を落ち着かなげに開いたり閉じたりしながら半泣きで喋り出す。
「言った通り、俺、杉野さんが好きで……今日、お見合いするて聞いたからどーしても気になってもうてぇえ」
顔を覆って大袈裟に蹲ってしまう。
杉野はテンションについていけずにただ見下ろすしかなかった。
そしてそう時間を掛けずに皐は顔を上げ、再び見合い中の2人に目をやり溜息を吐いた。
「でも来んかったら良かった。相手のオメガさん綺麗すぎや……めっちゃお似合いやん」
「そうだな」
杉野は遠慮なく頷いた。
藤ヶ谷の美貌は否定しようがない。
腹立たしくはあるが、「お似合い」というのもその通りだった。
それに加えて目の前にいる皐は、杉野のアルファとしての嗅覚がベータだと告げている。
兄の優一朗の恋愛対象は、女性か、男性ならばオメガのみだ。
傷が浅いうちに諦めた方がいいと思った。
だが。
「帰ります」
そう言ってしょんぼり肩を落として立ち上がる姿があまりにも不憫で。
「待て」
ついつい呼び止めてしまった。
サングラスを掛け直した皐は、赤い鼻をした顔を杉野に向ける。
慰めの言葉を探すも上手く見つからず、杉野はホテルのカフェを指差した。
「コーヒー、一杯奢る」
そう言うわけで、2人は藤ヶ谷達が見合い中の店に入ったのだ。
上手く席が空いていたため、2人の会話が聞こえる位置に座ることに成功する。
他愛もない会話をしているな、とのんびり聞き耳を立てていたのだが。
「お前ら一体そこで何やってるんだ」
優一朗に気づかれてしまったというわけだ。
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