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二章
良い兄さん
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「優一朗さん、良い人だったー」
「良い人ですよ」
見合いの日の翌日、藤ヶ谷と杉野は会社の商品の試作品が並ぶ倉庫に来ていた。
過去の人気商品をリメイクして売り出すにあたり、本物をきちんと確認する必要があったからだ。
しかし金属で出来た棚に膨大な量の箱が並び、見つけ出すのは骨が折れそうだった。
暇つぶしも兼ねて前日の見合いについて話しながら、2人で箱に記載されている文字を見て回る。
優一朗はとても好感が持てる相手だったと、杉野に報告中だ。
いつもは他のアルファを褒めると眉を顰める杉野も、今回ばかりは頷いている。
結局あの後は、4人で膝を突き合わせるという藤ヶ谷からすると愉快なことになった。
偶然通りかかって杉野に付き合わされたらしい皐は、最初は特に優一朗と目を合わせず恐縮していた。
しかし明るく人懐っこい性格で、最終的には藤ヶ谷と意気投合して連絡先を交換するまでになったのだ。
昨日のことを思い出して、藤ヶ谷は肩を震わせる。
「しっかし、わざわざ見合いを覗きに来るなんて、相当お兄さんが好きなんだな」
「別に兄さんは……まぁいいか」
「お兄さんも、お前のこと大切そうだった」
ホテルにいる杉野たちを見つけてすぐは、呆れたような怒っているような顔をしていた優一朗だったが。
兄としての優しい一面は、接しているうちに滲み出ていた。
藤ヶ谷も杉野がいることで緊張が解け、結果的には良かったと感じている。
「そうですね。本当に……兄さんが今の仕事してるのも、多分俺のためなんで」
「え?」
薄く口元に弧を描く杉野の言葉に、藤ヶ谷は動きを止める。高いところにある箱を取るために背伸びをしたまま杉野を見た。
続きが気になっていることを隠さない瞳を受け、杉野も勿体ぶらずに話し出す。
「気づいてたかもしれないんですが、俺、ハイアルファなんです」
藤ヶ谷は、蓮池の言葉を思い出した。
もしかしたら藤ヶ谷の精神を揺さぶり、弱みに付け込むための嘘かもしれないと思っていたが、本当にそうだったらしい。
「前に藤ヶ谷さんにつけたカラー。あれは俺のフェロモンが元になった香りがします」
蓮池が待つホテルに行く前に着けられた赤いカラーからは、αアルファの重役がこぞって嫌がった香りがしていた。
藤ヶ谷を襲う予定だったであろう蓮池も萎えたと言ったほどだ。
てっきり杉野と直前まで一緒に居たから香りが移っていたのかと思ったが、カラーから放たれていた匂いだったのかと藤ヶ谷は納得する。
アルファの上位存在であるハイアルファのフェロモンは、通常のアルファにとっては受け入れ難いものなのだろう。
「ハイアルファだってばれるのが怖くて、カラーの香りが何なのかも知らないふりをしました」
「怖い? なんでだ?」
暗い表情で言葉を紡ぐ杉野の表情が、更に苦しげに歪んだ。
藤ヶ谷の代わりに高い場所にある段ボール箱へと伸ばした手に、ぐっと力が入るのが見て取れる。
「俺、オメガの子を発情させて襲ったことがあるんです」
想像もしなかった情報を聞き、藤ヶ谷は息を飲む。
「良い人ですよ」
見合いの日の翌日、藤ヶ谷と杉野は会社の商品の試作品が並ぶ倉庫に来ていた。
過去の人気商品をリメイクして売り出すにあたり、本物をきちんと確認する必要があったからだ。
しかし金属で出来た棚に膨大な量の箱が並び、見つけ出すのは骨が折れそうだった。
暇つぶしも兼ねて前日の見合いについて話しながら、2人で箱に記載されている文字を見て回る。
優一朗はとても好感が持てる相手だったと、杉野に報告中だ。
いつもは他のアルファを褒めると眉を顰める杉野も、今回ばかりは頷いている。
結局あの後は、4人で膝を突き合わせるという藤ヶ谷からすると愉快なことになった。
偶然通りかかって杉野に付き合わされたらしい皐は、最初は特に優一朗と目を合わせず恐縮していた。
しかし明るく人懐っこい性格で、最終的には藤ヶ谷と意気投合して連絡先を交換するまでになったのだ。
昨日のことを思い出して、藤ヶ谷は肩を震わせる。
「しっかし、わざわざ見合いを覗きに来るなんて、相当お兄さんが好きなんだな」
「別に兄さんは……まぁいいか」
「お兄さんも、お前のこと大切そうだった」
ホテルにいる杉野たちを見つけてすぐは、呆れたような怒っているような顔をしていた優一朗だったが。
兄としての優しい一面は、接しているうちに滲み出ていた。
藤ヶ谷も杉野がいることで緊張が解け、結果的には良かったと感じている。
「そうですね。本当に……兄さんが今の仕事してるのも、多分俺のためなんで」
「え?」
薄く口元に弧を描く杉野の言葉に、藤ヶ谷は動きを止める。高いところにある箱を取るために背伸びをしたまま杉野を見た。
続きが気になっていることを隠さない瞳を受け、杉野も勿体ぶらずに話し出す。
「気づいてたかもしれないんですが、俺、ハイアルファなんです」
藤ヶ谷は、蓮池の言葉を思い出した。
もしかしたら藤ヶ谷の精神を揺さぶり、弱みに付け込むための嘘かもしれないと思っていたが、本当にそうだったらしい。
「前に藤ヶ谷さんにつけたカラー。あれは俺のフェロモンが元になった香りがします」
蓮池が待つホテルに行く前に着けられた赤いカラーからは、αアルファの重役がこぞって嫌がった香りがしていた。
藤ヶ谷を襲う予定だったであろう蓮池も萎えたと言ったほどだ。
てっきり杉野と直前まで一緒に居たから香りが移っていたのかと思ったが、カラーから放たれていた匂いだったのかと藤ヶ谷は納得する。
アルファの上位存在であるハイアルファのフェロモンは、通常のアルファにとっては受け入れ難いものなのだろう。
「ハイアルファだってばれるのが怖くて、カラーの香りが何なのかも知らないふりをしました」
「怖い? なんでだ?」
暗い表情で言葉を紡ぐ杉野の表情が、更に苦しげに歪んだ。
藤ヶ谷の代わりに高い場所にある段ボール箱へと伸ばした手に、ぐっと力が入るのが見て取れる。
「俺、オメガの子を発情させて襲ったことがあるんです」
想像もしなかった情報を聞き、藤ヶ谷は息を飲む。
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