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三章
星空の見える部屋
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「わぁ……っ」
ガラス張りになっている天井には星の光が瞬いている。
都心ではありえない自然の光が一面に広がる部屋に入った時、藤ヶ谷はその幻想的な美しさに思わず感嘆の声を上げた。
街を歩いている途中で、山吹に車に乗せられた。
よく分からないまま移動すること一時間半ほどで到着した、郊外の高級ホテルの最上階にあるスイートルーム。
山吹の父親が経営するホテルのひとつだった。
ここで食事をして、のんびりしようと言うのだ。
(こ、こんなとこでチョコ渡すならもっと高いのにすれば良かった……っ)
上質な毛長の灰色の絨毯に、美しい木目の壁やシンプルな家具。
ホテルというよりは、マンションのモデルルームのようだった。
驚いている様子を微笑ましそうに見ている杉野と山吹は、こんな場所には慣れているのだろう。仕事中にはあまり感じない育った環境の違いが身に染みる。
思えば、オメガ学校時代はテーブルマナーや社交界などの授業があることが謎であった。
それがアルファと番になった時に慌てないようにするためだと、意味を理解したのは社会人になってからだ。
表情を緩めていた藤ヶ谷は顔を引き締める。
3人で遊ぼうと山吹から誘われた際、
「綺麗な景色でも見て気分を盛り上げて、勇気が出たら告白しなよ」
と言われていた。
それが、「正月の礼」なのだと。
杉野への礼はどこへ行ったと思った藤ヶ谷だったが、それはそれでするから大丈夫なのだと言う言葉を信じて今に至る。
まだフラれる覚悟はなかったが、なんとかバレンタインデーらしいことだけでもしようとチョコレートの包みの入ったカバンを握りしめた。
◆
リビングルームで出てきた食事は絶品で、藤ヶ谷はずっと機嫌が良かった。
部屋で食べられたこともあり、できるだけ上品に振る舞わねばという気持ちもすぐに忘れて楽しんだ。
「幸せすぎてこのまま寝そう……」
ふかふかとした柔らかいベージュのソファに深く腰掛け、背もたれに頭を預ける。
部屋の電気を消しても、月と星の明かりで問題なく動けそうな空だ。
「泊まってってもいいですよ。着替えもクローゼットにあるし風呂にでも入ってゆっくりしてください」
帰るならタクシーもあると言って山吹は笑いながら立ち上がり、自分は壁に掛けてあった厚手のジャケットを羽織った。
「どこか行くのか?」
藤ヶ谷の隣に座っていた杉野が腰を上げようとすると、山吹はその両肩を抑えて座り直させる。
「俺は別の部屋に用があるんだ。なんの用事かなんて野暮なことは聞くなよ?」
山吹は片目を瞑って片手を上げ、藤ヶ谷の方に意味深な視線を寄越した。
「……おい」
杉野はまだ何か言いたそうだったが、山吹は杉野の耳元に口を寄せる。
しかし藤ヶ谷は杉野と2人きりになることに緊張し過ぎて、2人のやりとりは見ていなかった。
(こんだけお膳立てされたら、ちゃんと言わねぇと男が廃る気がする)
藤ヶ谷は満足感でいっぱいだった胃がキリキリと痛み出すのを感じて腹を摩る。
(でも、怖い……)
恋人や番にはなれなくても、同僚としての杉野と一緒にいられるならそれで良いと思っていた。
告白をして2人の関係性が変われば、もう今までのように優しくはしてくれないだろう。
しかしそれと同時に、限界も感じていた。
杉野の運命の番の姿が曖昧な今、優しくされるたびに自分が愛されているかのような錯覚に襲われる。
我に帰った時の虚しさときたら、その都度泣いてしまいそうなほどだ。
(はっきりフラれて、スッキリ諦めよう)
山吹が出ていくのを笑顔で見送りながら、藤ヶ谷は決意する。
杉野と2人きりになった部屋で、こっそりと深呼吸した。
ガラス張りになっている天井には星の光が瞬いている。
都心ではありえない自然の光が一面に広がる部屋に入った時、藤ヶ谷はその幻想的な美しさに思わず感嘆の声を上げた。
街を歩いている途中で、山吹に車に乗せられた。
よく分からないまま移動すること一時間半ほどで到着した、郊外の高級ホテルの最上階にあるスイートルーム。
山吹の父親が経営するホテルのひとつだった。
ここで食事をして、のんびりしようと言うのだ。
(こ、こんなとこでチョコ渡すならもっと高いのにすれば良かった……っ)
上質な毛長の灰色の絨毯に、美しい木目の壁やシンプルな家具。
ホテルというよりは、マンションのモデルルームのようだった。
驚いている様子を微笑ましそうに見ている杉野と山吹は、こんな場所には慣れているのだろう。仕事中にはあまり感じない育った環境の違いが身に染みる。
思えば、オメガ学校時代はテーブルマナーや社交界などの授業があることが謎であった。
それがアルファと番になった時に慌てないようにするためだと、意味を理解したのは社会人になってからだ。
表情を緩めていた藤ヶ谷は顔を引き締める。
3人で遊ぼうと山吹から誘われた際、
「綺麗な景色でも見て気分を盛り上げて、勇気が出たら告白しなよ」
と言われていた。
それが、「正月の礼」なのだと。
杉野への礼はどこへ行ったと思った藤ヶ谷だったが、それはそれでするから大丈夫なのだと言う言葉を信じて今に至る。
まだフラれる覚悟はなかったが、なんとかバレンタインデーらしいことだけでもしようとチョコレートの包みの入ったカバンを握りしめた。
◆
リビングルームで出てきた食事は絶品で、藤ヶ谷はずっと機嫌が良かった。
部屋で食べられたこともあり、できるだけ上品に振る舞わねばという気持ちもすぐに忘れて楽しんだ。
「幸せすぎてこのまま寝そう……」
ふかふかとした柔らかいベージュのソファに深く腰掛け、背もたれに頭を預ける。
部屋の電気を消しても、月と星の明かりで問題なく動けそうな空だ。
「泊まってってもいいですよ。着替えもクローゼットにあるし風呂にでも入ってゆっくりしてください」
帰るならタクシーもあると言って山吹は笑いながら立ち上がり、自分は壁に掛けてあった厚手のジャケットを羽織った。
「どこか行くのか?」
藤ヶ谷の隣に座っていた杉野が腰を上げようとすると、山吹はその両肩を抑えて座り直させる。
「俺は別の部屋に用があるんだ。なんの用事かなんて野暮なことは聞くなよ?」
山吹は片目を瞑って片手を上げ、藤ヶ谷の方に意味深な視線を寄越した。
「……おい」
杉野はまだ何か言いたそうだったが、山吹は杉野の耳元に口を寄せる。
しかし藤ヶ谷は杉野と2人きりになることに緊張し過ぎて、2人のやりとりは見ていなかった。
(こんだけお膳立てされたら、ちゃんと言わねぇと男が廃る気がする)
藤ヶ谷は満足感でいっぱいだった胃がキリキリと痛み出すのを感じて腹を摩る。
(でも、怖い……)
恋人や番にはなれなくても、同僚としての杉野と一緒にいられるならそれで良いと思っていた。
告白をして2人の関係性が変われば、もう今までのように優しくはしてくれないだろう。
しかしそれと同時に、限界も感じていた。
杉野の運命の番の姿が曖昧な今、優しくされるたびに自分が愛されているかのような錯覚に襲われる。
我に帰った時の虚しさときたら、その都度泣いてしまいそうなほどだ。
(はっきりフラれて、スッキリ諦めよう)
山吹が出ていくのを笑顔で見送りながら、藤ヶ谷は決意する。
杉野と2人きりになった部屋で、こっそりと深呼吸した。
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