【本編完結】おじ様好きオメガは後輩アルファの視線に気が付かない

虎ノ威きよひ

文字の大きさ
88 / 110
三章

何かしたい

しおりを挟む
「いつも?」

 藤ヶ谷が持っているチーズケーキクレープを「一口ください」とイチゴクレープと交換し、山吹の口がついた部分を齧りとっていた杉野は首を傾げる。

 藤ヶ谷はクレープを食べ進めながら、うんうんと何度も頷いた。

「甘いもん好きでもないのに。俺のために、この店寄ってくれたし……」
「店を調べたのは山吹ですよ。それに」

 杉野はチーズケーキクレープを飲み込むと、優しい目をして手を伸ばしてくる。

「藤ヶ谷さんが幸せそうに甘いものを食べてる顔を見ると元気になるんです」

 近づいてくる手をなんだろうと思いながらもそのままにしていると、口元に触れられ胸が跳ねる。
 すぐに離れていった杉野の親指には、チョコホイップクリームがついていた。

 子どものようだと羞恥心を覚えたが、悟られないように笑ってみせる。

「俺ってそんな幸せそうな顔なのか」
「はい。かわいい顔、してます」

 そう言って、杉野は親指のクリームを舌で舐めとる。
 挑発するような艶やかな舌の動きと杉野の微笑みに、藤ヶ谷の心臓は暴れ狂った。

 顔に熱が昇ってくるのを誤魔化すために、苺クレープを大きく一口食べる。

(……っこれも間接キスだ……! ごめん杉野の運命の番いの人!)

 動揺しすぎて、会ったこともない杉野の好きな相手に心の中で謝ってしまった。
 と同時に、

(同僚の俺にこれなら、好きな人には何するんだ!? 直接顔を舐めるのか!?)

 と、想像を膨らませて隠しようもなく顔が赤くなる。

「藤ヶ谷さん、大丈夫ですか?急に顔色が」
「だだだだいじょうぶだいじょうぶ!」

 杉野が額に手を当てようとしてきたのをかろうじて避け、背を向けて深呼吸した。
 その時、躱された杉野が拗ねた表情になってしまったことは、藤ヶ谷は知らない。

「お待たせー」

 2人の間に微妙な空気が流れ始めた時、ちょうどよく山吹が帰ってきた。
 ほっとして声がした方を振り返ると、山吹はコーヒーのチェーン店の袋を持っている。

「喉渇いたろ?」

 乾いた音を立てて紙袋から取り出したコーヒーカップを、杉野に差し出した。紙カップの色で、それがブラックコーヒーであることが分かる。

(あー! こういうとこー!)

 杉野や山吹がモテるのは、アルファで容姿や頭脳が優秀だからというだけではないと藤ヶ谷は確信した。
 当然のように相手に心遣いが出来るのだ。

 考えてみれば合コンを行なった時、この2人は他のアルファに比べてもオメガの友人たちから評判が良かった。

 山吹が纏っている上品なタバコの香りは、先ほどまでより濃くなっている。杉野の言った通り一服してきたのだろう。
 杉野がクレープをほとんど食べないのを見越した山吹は、好みに合わせてコーヒーを買ってきた。

 山吹と杉野の関係性が羨ましい。
 お互いがきちんと相手を理解して、配慮し合える。

「藤ヶ谷さんも、カフェラテ買ってきてますよ」

 紙袋を持ち上げて見せる山吹に、藤ヶ谷は明るく礼を言った。
 だが美味しいクレープを咀嚼しつつも、自分は全部やってもらってばかりだと気持ちが落ち込んでいく。

(俺も杉野が喜ぶことしたい……)

 今すぐ2人のようにするのは無理だろう。
 察することが出来ないならば、聞くしかない。
 こういう時に、物おじせず素直に聞けるのは藤ヶ谷の長所だ。

「杉野、なんか俺にやってほしいことないか?」

 しかしながら、唐突すぎてコーヒーを飲んでいた杉野にはキョトンとされた。

「急にどうしたんですか?」
「や、その……なんかないかなって」

 杉野の隣にいる山吹がニヤニヤしているのが気になってしどろもどろになってしまう。
 まさか、「お前が好きだから喜ばせたい」とは言えない。

 真面目な杉野は、不思議そうに首を傾げながらも回答を捻り出してくれた。

「じゃあ、人ごみは危ないから俺から離れないでください」
「俺は子どもか!」

 山吹が吹き出すのを聞きながら、藤ヶ谷は杉野の足を蹴ったのだった。
しおりを挟む
感想 269

あなたにおすすめの小説

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

いい加減観念して結婚してください

彩根梨愛
BL
平凡なオメガが成り行きで決まった婚約解消予定のアルファに結婚を迫られる話 元々ショートショートでしたが、続編を書きましたので短編になりました。 2025/05/05時点でBL18位ありがとうございます。 作者自身驚いていますが、お楽しみ頂き光栄です。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

【完結済】極上アルファを嵌めた俺の話

降魔 鬼灯
BL
 ピアニスト志望の悠理は子供の頃、仲の良かったアルファの東郷司にコンクールで敗北した。  両親を早くに亡くしその借金の返済が迫っている悠理にとって未成年最後のこのコンクールの賞金を得る事がラストチャンスだった。  しかし、司に敗北した悠理ははオメガ専用の娼館にいくより他なくなってしまう。  コンサート入賞者を招いたパーティーで司に想い人がいることを知った悠理は地味な自分がオメガだとバレていない事を利用して司を嵌めて慰謝料を奪おうと計画するが……。  

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

もう一度君に会えたなら、愛してると言わせてくれるだろうか

まんまる
BL
王太子であるテオバルトは、婚約者の公爵家三男のリアンを蔑ろにして、男爵令嬢のミランジュと常に行動を共にしている。 そんな時、ミランジュがリアンの差し金で酷い目にあったと泣きついて来た。 テオバルトはリアンの弁解も聞かず、一方的に責めてしまう。 そしてその日の夜、テオバルトの元に訃報が届く。 大人になりきれない王太子テオバルト×無口で一途な公爵家三男リアン ハッピーエンドかどうかは読んでからのお楽しみという事で。 テオバルドとリアンの息子の第一王子のお話を《もう一度君に会えたなら~2》として上げました。 ※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。

処理中です...